にひき
ぼんやり成り行きを見守るユウ(傍から見たらほぼ廃人)と苦悩する少年1(傍から見ても苦悩中)、色々考えている王様・宰相コンビ(楽しそう、但し片方だけ)・・・どうしようもない三すくみをなんとか救いあげたのは、今まで口を開かなかった残りの二人の少年たちだった。
「とりあえずそちらの方にもご説明した方がよいかと存じますが」
「びっくりして呆けてるだけじゃねぇの?早いとこ片づけちまった方がいいんじゃね?」
陛下の前だから口を改めた方がいいんじゃない?____うっせ今さら誰も気にしねぇよ。と、ぼそぼそさらにやり取りを続けるにこやかな少年とどこか蓮っ葉な印象の少年二人の言葉にやっと陛下もユウに話しかける気になったようだ。
「では____遠方の客人、まずそなたの名を聞こう」
普通の人間ならば威厳に圧され平身低頭して名乗るだろう。
貴族ならば至上の存在の目に留まった誇りを胸に名乗るだろう。
無知ならば「まずお前が名乗れ」と返すかもしれない。
後ろ暗いものならば無言をもって応えとなすかもしれない。
ユウは、傅きもせず胸を張りもしなかった。
反抗もしなければ無言でもなかった。
_____ただ気だるげに、首をことりと傾げて一言名乗った。
「ユウ」
王の御前で、未だかつて、そしてこれからも決してないだろう最短の名乗りだった。
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見たことがない服装に見たことがない肌の色、これまた見たことがない髪でよほど遠方から呼び寄せられたと思われる召喚者、今のやり取りで幸いにも言葉が通じることだけはわかって宰相は少しほっとした。
・・・まぁ今の「ユウ」が名前であればの話だが。「ユウ」が王の問いかけに関して「(何を言っているのか)わかりません」という未知の言葉である可能性もある。
しかし召喚者に戸惑いや困惑は見られない。というか表情がまったく動かない。とりあえず言葉は通じているのだろうと自身を納得させた。
異文化なのは確かなようだが何事にもコミュニケーションの第一歩は名乗り合いと相互理解が肝心だ。
故意ではないとはいえこちらの(王の気まぐれ魔術実験)に巻き込まれたであろう被害者には違いない、害がなければ穏便にお引き取りを願えばいいのだ。なに、旅費を多めに出せば文句は言うまい。
そう頭の中で解決策を出し、ほぼこの件は片ついたと宰相は肩の力を抜いた。
_____しかし、そうは問屋が卸さないというのが『現実』なのだ。
「では、ユウ。我はシーズベリ国王シュノルという。今の状況に関して説明をしようと思うが・・・何か今すぐ尋ねたいことはあるか」
ユウは基本『最小限』をモットーにしている。
そしてそれはいつどこで誰が相手だろうと変わらなかった。
つまりは最小限の動きで相手に自分の意思を伝えた。
_____ただ自分の頭をかくん、と下げることによって。
それはやはり史上最短の「肯定」だった。