いっぴき
アレです。眠れない夜に数える「ひつじ」。
読んでいるうちに眠くなる・・・とまではいきませんが眠れない夜の暇つぶしにどうぞ?
(困ったなぁ・・・)
表情にも行動にもまったく表わさず、ただ薄らぼんやりとそう思う。
希望に溢れた1年でもなければ就職活動を始めた方がイイ3年でもなく卒論を控えた4年でもない。
つまりはそこそこ大学に慣れてそこそこ時間が有り余っている大学2年。
____朝イチにして本日唯一の講義を終えて帰宅途中、くらりと眩暈を感じて瞬きしたら都内の歩道からだだっ広い広間のど真ん中に突っ立っていました。
--------------------------------------------------------------------------
(困ったなぁ・・・もしかしてさっきの眩暈でぶっ倒れてるのかもしれない)
(貧血かなぁ? そういや最近ほとんどご飯食べてなかったし・・・)
(交通量少ないしそのまま放置されていたらどうしようか・・・)
(まぁ夢見てるみたいだし昏睡状態じゃなさそうだからなんとかなるか・・・)
ゆったりと5分ほど遠くに焦点を合わせて考え込んでいた大学2年生____望月ユウは現在の状況に納得がいくと、ふと周りを見回す余裕ができた。
数人の男たちが自分を凝視している。
見たことがない顔で見たことがない服装だが、まぁ深層心理のなせる技。
夢に一貫性だとか現実味とかを求めても仕様があるまい。
自分からアクションを起こすのは・・・とても面倒くさい。
そう思ってとりあえず、無言で見つめてみる。誰に焦点を合わせたらいいのかわからなかったからとりあえず一番派手な服装の男のやや上あたり。
だるそうに傾いだ身体に、茫洋とした視線も相まって、彼女はいかにも無気力だった。そしてそれに救われた。
「・・・陛下」
やや震える声で壮年の男が呼びかけた。
それに応えたのはユウが「一番派手」と認識した男。
今にもため息を吐きそうな声音でそれに応じた。
「・・・なんだ」
「今度は何をなさったんですか」
「少し試してみただけだ」
「・・・陛下。まさか・・・」
「この間招いた”最果ての魔術師”の試作術でな?」
「嫌な予感ががするのですが」
「なぁに、『珍しいものを呼び寄せる』というだけの術だ。そこにいる新米ども3人に度胸試しでやらせてみたんだが」
「陛下。新米は新米でも・・・まだ初等学院を出たばかりの魔術師ですよ!実技なんてほとんどしたことがない魔術師もどきにいきなりなんて危険なことを!!」
「いやまさか発動するとは思わなくてな?」
「暴発したらどうします!」
「なぁに、俺とお前の息子たちだ。そんな失敗はしないだろうよ」
揃いの白いローブを着たまま固まっていた3人の男____というよりは少年たちが、父親たちの会話に居心地悪そうに身じろぎし始めた。
そしてその中でも一番真面目そうな少年が恐る恐る発言した。
「ご歓談中申し訳ありません。・・・その、先ほどからあちらに立たれている・・・あの、召喚対象の方、なのですが・・・大丈夫でしょうか?」
ぴたりとじゃれ合いをやめて父親たちとその息子たちの5人が出現してからそのままの体勢そのままの表情でほぼ微動だにしないユウに視線を合わせた。
普通の人間ならたじろぐが空気を読んでリアクションを起こすかするのだが、ユウはそんな面倒なことはしなかった。柳に風。虚ろな視線がとても不気味だが、害があるようには見えない。
むしろ自分が生きるのさえ億劫そうに見えた。
「まぁ、危険があるようには見えんなぁ」
「いえそうではなく・・・不安定な術ですし・・・宰相が言うように我らは未熟ですので、もしかしたら何かよくない影響がその方に・・・」
もし、自分たちの未熟さでこんな廃人一歩手前のような状態にしてしまったのならとても申し訳ない。どうやって償えばいいのか・・・などと苦悩する少年。ユウは普段から「こんな」、「廃人一歩手前」のような状態なのでその点に関しては何も困っていない。むしろ放っておいていただきたい。
そして、もしユウがアクティヴで、即座に行動するような性格であったりパニックを起こしてなにかやらかすようなアグレッシブさがあれば、「王」に害なす存在として切り捨てられてもおかしくはなかった。今でもどこかに控えている護衛たちは即座にユウを排除できるように構えている。
どこを見るわけでなく、動かず、話さず、全身をほぼ弛緩させた状態のまま佇むユウだからこそ、とりあえずは許容されていたのだ。
.