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一章 なんでものない日のハロウィーン

 ピピピッと鳴るアラーム音でいつものように目を覚ますと、車の通り過ぎる音、鳥のさえずり、リビングからは包丁のまな板を鳴らす音が毎朝聴こえるものだから、僕は目を覚ますたびに聴こえてくる音達を規模は小さいが、いつからかオーケストラのように感じていた。

 自己紹介が遅れて申し訳ない。僕の名前は里郷和哉りきょう かずや、青春真っ只中の高校二年生だ。隣町の高校に通う僕の朝は早い。大体、朝の五時に起きる。そんな僕が最初に行うモーニングルーティンはスマホを見ることだ。今日が何月何日何曜日なのかを毎日見ている。土日だったら二度寝するし、月曜だったら落ち込むし、誕生日だったらワクワクするから、毎日くじ引きをしているみたいだ。さてさて今日は、10月31日の木曜日か。月曜でもない、土日でもない、普通の日だな。でももう少しで土日だから嬉しい。

 そういえば今日はハロウィンの日か、といってもなんでもない日か。と僕が考えていると、「和哉、起きなさい〜。」と母さんの声が下からきこえてくる。僕は急いで着替えを済ませると、朝ご飯を食べてから少し厚着をして家を出た。気づけば時刻は朝六時、通学用の電車に揺られながら、僕は仮眠をとる。学校に着いた僕は教室のドアを開ける。教室には何人かのクラスメイトが先に座っていて、僕はそのいつもと変わらない光景に安心と落胆を覚えた。だって今日はハロウィンだよ?ショッピンモールに行けば、ハロウィン仕様のデザインの商品が売られ、100均に行けば、ハロウィンパーティー用の装飾品が並べられている。それくらい異国の文化の影響をこの日本は受けているはずなのに、学校ときたらその影響をまったく受けておらず、ハロウィンに関するイベントがなにもないのだ。先生達からお菓子の差し入れとか、仮装パーティーとかあってもいい気がするんだけどね。この先もずっとないのなら、本物のお化けが出てきて世界中がパニックになる、なんて想像をしてしまうくらい僕はこの日が特別な日であってほしいと願っていた。そんな事を考えていると、突然後ろから声をかけられた。

 「カーズヤ、おはよ。」

 声の主は、背まで伸びた艶のある黒髪で真っ直ぐな目をした女子高生だった。山梨咲耶やまなし さや、中学からの同級生だ。黒髪に黒字のセーラー服。その上には冬が近いからだろう、レモン色のカーディガンを羽織っている。

 「なに落ちこんでんの、カズヤ。そんなんじゃ、幸せが逃げってちゃうよ〜?」

 「今日は何もないんだなあって、それで落ち込んでる。」

 「今日は木曜だから30個限定の山の幸弁当と山の幸スイーツが、購買で売ってるんじゃない?買ってきなよ。」

 「そうじゃなくってさ〜、今日はハロウィンなんだよ?そんな日を特にイベントのない学校で過ごすのは、つまらないって話をしているんだよ。」

 「あー、それ去年も言ってたよね。確かに私も小学校の頃そういうのはなかったし、唯一あったのって給食にかぼちゃプリンが出てきたことくらいだし、それを除けば何もないね。」

 「だろ〜、ほんと何でもいいんだよね。有名人がサプライズで来たり、人類の命運を賭けた戦いが始まるとか、なんか起きないかな。」

 「ハロウィン関係ないじゃん。」

 「あーあ、今日も今日とて、放課後の四時まで退屈な気持ちで過ごすのか。」

 「今日たしか三時限目までだから、昼に帰れるよ?」

 「マジで!?やったあ!」

 「元気になるのはや。」


 放課後、僕とサヤはショッピンモールに来ていた。

 「見たまえ、サヤ。このハロウィン仕様のデザインが施されている店内を。これこそが私が追い求めていた理想そのものだ!フハハハハハ!」

 「どこの悪役よ。」

 「ん?僕は割とこういうキャラが似合ってると思うが?」

 するとサヤは、僕の前を後ろ歩きしながら言った。

 「え〜、カズヤはそんなんじゃないよ〜。カズヤは、勇者で未来の英雄(・・・・・・・・)ってカンジだと思うな。」

 「え、なんで。」

 「それはー。」とサヤ何かを言いかけた時、向こうから僕と同じ制服の見知った顔が近づいてきた。

 「やあ里郷くん、山梨さん、偶然だね。」

 「あれ、樫木?」

 彼の名前は樫木智かしのき さとる、僕とサヤと同じクラスメイトだ。耳のあたりまで伸び切った横髪、前は中分け。タレ目タレ眉の穏やかイケメン。成績は学年トップクラスで、生徒会で副会長を務めている僕とは違う世界の住人だ。なぜなら彼は副会長というポジションではあるものの、生徒会長に代わって全校生徒をまとめ上げるカリスマ性もあるのだ。

 「そんなに褒められると照れちゃうな、里郷くん。」

 「あれ、心の声出ちゃってた?」

 「カズヤはそういう登場人物紹介みたいなこと考えるの好きだよね。」

 「2人は買い物にきたの?」

 「いや、放課後は暇だからカズヤと寄り道。樫木くんは?」

 「僕もそんなところかな。」

 「樫木も同じか〜。やっぱみんなそうだよね。」

 樫木は人望もあるので、相談相手に彼のもとにやってくる人が結構いる。そこで僕はちょうどいい機会だと思い、樫木に自分が今朝から悩んでいたことを話してみることにした。

「樫木、相談があるんだけどさ、いい?」

「ああ良いよ、どうしたの?」

「実は、かくかくしかじかで・・・」

「あー確かに学校がある日のハロウィンって具体的に何すればいいのかわからないから、退屈しちゃうよね。わかった、それなら僕に任せて。今日が特別な日になることを約束しようじゃないか。」 

 「え、ホント!?え、ちなみに何するの?」   

 「秘密だよ、こういうのはサプライズあってこそ特別なものになるんだから。ゲストである君は楽しみに待っておいて。」

 「オッケー、期待してるよ樫木。」

 「うん期待してて、夕方の6時になったら学校に来てね。あ、もちろん山梨さんもね」

 「私も来ていいんだ。6時ね、わかった。お母さんに相談してみる。」

 「じゃあ僕は早速準備に取り掛かるからここらで、失礼するよ。」

 そういうと樫木はその場を去っていった。

 「私たちも早めに帰ろっか、夕方まで各々のんびりしてよ〜。」

 「そうだね。・・・でも、なんか心配だな。」

 「ん?何が」

 「僕は大丈夫だけど、サヤは方向音痴だから、待ち合わせに遅れるんじゃないかって思うんだよね。」

 「そんなことないよ、9、10回くらい移動教室で迷って遅刻したことぐらいしかないよ。」

 「完全な方向音痴だよ。」

 「まぁ仮に迷ったとしても大丈夫だから、カズヤが探してくれるでしょ?」

 「なんで僕に頼る前提なんだよ。」

 するとまたサヤはまた同じことを言う。今度は僕に背を向け、顔だけ向けながら。

 「だってカズヤは勇者で未来の英雄(・・・・・・・・)だから、頼りにしてるよ。」

 「・・・さっき聞きそびれちゃったけど、それってどういう意味なの?」

 「知りたい?」

 「うん。」

 「じゃあ今夜樫木くんと解散した後、その帰りに教えてあげる。」

 「え〜、もったいぶるなよ。」

 「こういうのはサプライズあってこそだよ、樫木くんも言ってたじゃん。じゃあまたね〜。」

 そう言うとサヤもその場を去っていった。

 「・・・僕も帰るか。」

 

家に帰る途中も、家についても僕は夕方のことで頭がいっぱいになっていた。今日はどんな日になるのやらと心躍らせていた。そして時刻は午後4時半スマホが鳴った。樫木だ。

 「もしもし、樫木?」

 「やあ里郷くん。準備ができたから、きみも準備ができ次第、第2室教室まで来てくれないかな。」

 「第2?あそこ今は使われてない教室じゃなかった?」

 「僕は生徒会の副会長だからね。職権濫用させてもらったよ。それで今僕は第2の鍵を持っているってわけ。」

 「樫木、おぬしも悪よのう〜。」

 「里郷くんほどではないよ〜。じゃあ、待ってるね。」

 「うん。」

 そうして通話を終えた後、僕は電車に乗り学校へ向かった。樫木の用意したサプライズもだけでも楽しみなのに、サヤの言葉の意味も知りたくてワクワクとモヤモヤが止まらなかった。学校に着くと時刻は午後5時半。こんな時間に学校に来るのは初めてでいつもとは違い、校舎の中は薄暗く、静寂に包まれていた。その雰囲気はとても妖しげで少し怖さがあるけれど、ハロウィンらしさがにじみ出ていて恐怖よりも楽しいという感情の方が勝っていた。とその時だった。

 「もう下校時間過ぎてるぞ?」

 「え?」

 突然後ろから声をかけられた僕は心臓が飛び出しそうになった。声のしたほうを振り返ると40代くらいの用務員さんだった。髪は銀色に近い灰色、彫りの深い顔立ちが渋さ、荘厳さを思わせる。焦げ茶のブカブカの作業服を着ているその人は今にも帰りなさいと言うようにこちらを見ている。

 「あ、すみません。実は友達と待ち合わせをしているんです。」

 「こんな時間にどこで?」

 「第2教室です。」

 「あそこは使われてない教室で、生徒は入れないはずだけど?」

 「友達が生徒会に入ってて、その権限で教室の鍵を持っているらしいです。」

 「生徒会の子?」

 「はい。」

 「その生徒の名前は?」

 「樫木智です。クラスメイトです。」

 「ん?・・・・・樫木?」

 用務員の人は樫木と聞いた途端、その彫りのある顔をさらに深くした。

 「どうしたんですか?」

 「・・・・君、悪いことは言わない、今すぐ帰ったほうが良い。」

 「え、なんでですか?」

 「その樫木という子に会ってはいけない、だから帰るんだ。」

 樫木に会ってはいけない?どういうことだ?この人樫木に何かされたのかなぁ?酷いイタズラをされたとか?想像つかないなぁ。

 「でも、無理ですよ。」

 「どうして?」

 「もうひとり待ち合わせしていいる友達がいるんです。僕だけ勝手に帰れないですよ。」

 「その子もここに来てるのか?」

 「いえ、分からないですけど。」

 「急いでその子と一緒に帰るんだ。その子と連絡はできるのか?」

 突然の早口に、僕は戸惑いながらも答えた。

 「え、できますけど。」

 「なら早く電話した方がいい。」

 「は、はい。」

 僕がスマホを取り出すと、画面に一件の通知が来ていた。開いてみるとそれはサヤからのメッセージで、「着いたよ。」というものだった。

 「どうした?」

 「友達が第2教室に着いたって、連絡が・・・。」

 「それはまずい・・・。急がないと手遅れになる!」

 そう言うと、用務員さんは突然走り出した。

 「え、ちょっと待ってください!」

 僕は用務員さんを追いかけた。

 「ついてきちゃ駄目だ!君は帰れ!」

 「だから、何でですか?!どうして樫木に会ったらいけないんですか?」

 その質問に用務員さんは答えず、脚を一切止めることはなかった。第2教室に着くと用務員さんは急いで扉を開けた。

 「くっ!・・・・遅かったか。」

 用務員さんはその場で立ち尽くしていた。僕は一体教室に何があるのかとおそるおそる中を覗いてみた。するとそこでは信じられないようなことが起きていた。樫木が紫色の妖しい光を手から出しそれを床に倒れているサヤに向け、その光に包まれたサヤが消えてしまったのだ。樫木は僕に気づき顔を向けた。

 「あ、ちょうどいいタイミングで来たね里郷くん。」

 「樫木・・・・何してるんだ?」

 「言ったじゃないか、サプライズだよ。今日という日を特別なものにするためのね。」


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