婚約破棄~ピンクブロンドの乱、断罪の場で必死技を繰り出すピンクブロンドの平民の特待生の話
私はダストル侯爵令嬢クレメンティス。今日はパーティーのはずなのに、殿下に断罪されている。
何でも私が平民をいじめていたそうだわ。全く、無駄に正義感だけは強い。困った殿方だわ。
政略でなかったら、口も利きたくない相手だ。
「サリーに対する数々のイジメは明白だ。婚約破棄を宣言する!」
「殿下ぁ~、とっても怖かったのですからね~取り巻きを使って私をイジメたのだからね!」
「サリーを平民だからって、差別をしたな」
「これがイジメの証拠だ」
殿下達が提示したのは、壊れたサリーの私物、破かれたドレスや、階段から落とされたときの校医の診断書などだ。
私は丁寧に殿下にカーテシーをして答えた。
「イジメなどしておりませんわ。それはサリー様が被害にあった物証です。後は本人の証言です。私がやった証拠にはなりませんわ。
ただ、サリー様は身分の違いを理解せずに殿下たちに近づきました。それを注意はしました。その程度ですわ」
「嘘よ!階段から突き落としたり。私物を壊されたり噴水に突き飛ばしたり大変だったから!サリー怖かったのだからね!」
私のやったことではないわね。殿下も終わったわ。廃嫡で、あの平民と市井で暮らすのかしらね。
思わず笑みがこぼれる。長年の気苦労のせいだ。
「私がやった。若しくはやらせたとの証拠はございますか?まさか、証拠はそれだけ?クスゥ」
その時、殿下と側近の後ろに隠れて、プルプル震えているだけのサリーが一歩前に出たわ。
とんでもないことを言う。領地なら無礼打ちよ!
「あれ~、クレ様は貴族でしょう?貴族って、証拠が必要でしたっけ?」
「愛称で呼ぶ許可を与えた覚えはないのですが!」
一瞬だけひるんだ。すぐに平静を保った。サリーの発言が続く。
「私はロド村出身のサリーだからね。ロド村知らないとは言わせないのだからね!」
ロド村?知らない。首をかしげていると。
「え~と、お前の父ちゃんの領地屋敷の近くの村、お前がポニーに乗りたいって、ぶっ潰した村だぁーーーー!」
と叫ぶ。
まさか。
「それは、きちんと、補償をしましたわ。税金も3年間は取らないってお父様が仰ったわ」
あれは、私が6歳の時。
『これ、愛しのクレや。ポニー気に入ったか?』
『はい、お父様、しかし、畑の中に入ったら村人たちに追いかけられましたわ。怖かったです』
『ほお、なら、村を移動させよう。前々から景色が綺麗な場所だった。農民達にはもったいない村だ』
『はい、お父様!』
・・・・・・
「土地を、三倍の土地を与えたって言ってましたわ!」
「な~んにもない土地に強制移住、どれだけ辛いかクレならどーすんのよ!」
「税金も三年間とらないって、お父様が!」
「馬鹿なの?税金は収入があって納めるもの。全然、収入がなかったのだからねっ」
馬鹿?平民のくせに!
そう言えば、何故、この馬鹿女は学園に入れた・・・特待生は試験がなければ入れないのよね。
殿下に近づけたのは、
確か、裸足で、木に登って猫を助けた所を殿下たちに気に入られたのよね。
令嬢が裸足?馬鹿っぽいわね。
特待生は頭が良いものとの常識と、サリーの馬鹿な行動が結びつかない。
「貴女は、馬鹿じゃなかったの?いえ、馬鹿よね!」
「クククク、私は馬鹿、馬鹿よ。勉強だけ出来る馬鹿を目指したの」
☆回想
私は平民のサリー、強制移住後は、それこそ皆一生懸命に働いた。
しかし、荒れ地だ。耕しても、土魔法師を呼ぶ金もない。
ロド村は、女の力でも片手で杖を土に押し込めるほど土壌は柔らかかった。
しかし、現場を知らない貴族にとって土地は土地だ。荒れ地も豊穣の地も変わりない。
あれは家族の葬式の日だった。岩を動かしているときに、綱が切れ。後ろから押していた家族は下敷きになった。
『ウウ、お父ちゃん。お母ちゃん。お兄ちゃん、ウワワワワワ~~』
『サリーよ。王都に行け』
『村長・・・』
『お前の父ちゃんが、お爺ちゃんに手紙を出していた。返事が来たのだ。兵士で年金暮らしだが、一人だけなら、何とか世話を出来るとのことだ』
『いや、私は家族のお墓のある村に住みたい』
『もう、全滅する。冬は越せない・・・旅費と村唯一のロバと荷馬車を預ける。それで行け。村長命令だ!』
『そうだよ。村で一番優秀なサリー、アンタが死んだらやるせないよ。私らのためだよ』
『ワシらは行く先がない。行く先のある者が残ったら、ワシらは嫉妬で狂い死にそうだ』
『いけ!我らのために、行ってくれ。グスン』
村人に説得され、王都に行った。お爺ちゃんではなく、正確には大伯父だった。
独身を貫き。家族はいない。
幸い大伯父様の性格は穏やかだった。
『お祖父様、復讐をしたい。あたしと同じ年齢の子の遊び場のために村人たちは死んだ。武術を教えて下さい』
『復讐はやめておけ。身を滅ぼすぞ。どうしてもというのなら、平民学校で一番の成績を取れ』
それから、頑張った。幸い文字は村長が塾を開いていてくれたからだ。
『一番か・・・なら、仕方ない。テストだ。あの木に向かって、全速力でぶつかれ。馬鹿にしか出来ない技だ・・・・って、無理じゃろ?これに懲りて・・おい、サリー!』
ダダダダダダ!
何の躊躇もなく木にぶつかった。
ドタン!
『仕方ない・・・とっておきの技を教える・・女に剣は無理だ。戦場でつばぜり合いが生じた時に相手を吹き飛ばす技だ。お前は勉強が出来る馬鹿を目指せ』
そして、お祖父様は私が入学した年に亡くなった。
もう、罪で連座する者はこの世にいない。
幸い奨学金はある。
『お祖父様・・』
わずかな年金を貯めて私に残しておいてくれた貯金。
そうか、私は馬鹿になろう。ピンクのヒラヒラの服を着て相手の懐に飛び込むと決意した。馬鹿が着そうなドレスを好んで着るようにした。
・・・・・・・
ザワザワザワザワ~~~
「おい、それは強引だな」
「民は手足。さすがに私利私欲のための移転など・・・」
いつの間にかに、他の貴族子弟の耳目が集まっている。不味い。
「・・・・その証拠はありませんわ!村人たちは、幸せに暮らしていたと聞いておりますわ!」
「それこそ、証拠ないじゃない!」
「なら、学園で貴女をいじめた証拠など!」
「証人、実行犯ならいるぞ。つれて来い」
「はい、殿下」
ゾロゾロと私の派閥の令嬢たちがつれて来られた。皆、他の派閥の令嬢たちに拘束されている。
「私は命じていないわ!」
「そんな。『桐の切り株に杉の接ぎ木をしようとする者がいる。排除できないかしら』と仰いましたよね」
「私には、『蝶の楽園に蛾が紛れ込んだ』と・・・」
「私は一言もサリーをいじめろとは言っていないわ!」
「フフフフフ、これは独裁主義の無政府状態って、いうのかしらね。貴族独裁で、好き勝手やっていたツケね」
いくら、サリーが私を追い込んでも平気だわ。
だって、私は貴族、ここは、学園、校則に準じても退学にはならないわ。
何?サリーは生意気にも、私を指さして。
「女会戦を所望するのだからね!」
女合戦?古いしきたりだわ。本妻、第二夫人との争いや、令嬢同士での争いで行われる戦い。
確か、取り巻きの令嬢がホウキや杖で武装して、女同士が戦い。女当主の髪を切られた方が負け。
勝ったら、今までのことを全て水に流せる。
私の派閥の令嬢たちはダメね。捕まっている。低位の令嬢なら何とか出来るか?
後、メイドだけでも、数十人は集まる。
目でメイドに合図する。メイドは頷いた。人を集めてくれるのね。
彼女はお守り刀を持っている。戦闘メイドだ。彼女を戦闘指揮官にすればいける。
「オホホホホホ、受けましてよ。で、いつ、やるのかしら?」
「クククク、今!」
サリーは靴を脱ぎ裸足になった。あらかじめハサミを持ってきたのかしら。ハサミを持って走ってくる。
やられたわ。髪を切るふりをして私を殺す気ね。
ダダダダダダダダ!
走ってくるわ。危険。
私はその時、恐怖に陥っていたのかもしれない。つい、うっかり王都では控えた方が良いと言われた言葉を口にする。
「ルイナ!あの平民を殺しなさい!」
「畏まりました!」
ルイナが盾になり。
ドン!とぶつかる。大きく下がったが、やがて止った。
ルイナは戦闘メイドでもある。足を後ろに大きく伸して床につけ。
あいつの突進を止めた。
「ウグ、グハ」
いい気味。ナイフで腹を刺されたわね。
その時、サリーの頭の中に祖父と慕った大伯父の言葉が浮かぶ。
☆回想
『いいか、戦場では、つばぜり合いなど、膠着状態に陥る時がある。その時、物を投げる動作と、呼吸を合わせるのだ。すると、体重の1.5倍ほどの威力を出せるのじゃ。体当たりだ。
これは、偶然発見した技だ。まずは呼吸法だ。腕を交差して、体を閉じ。上半身はお辞儀をした状態で、思いっきり体を起しながら、息を吐け』
『はい、お祖父様!』
『出来たら次の段階だ。体当たりだ。ノンストップで木にぶつかったイメージだ』
『はい!』
いろいろ試したが裸足の時に一番威力が出る。
『そうだ、学園で、いつも裸足で歩く女のイメージをもたれれば・・・』
・・・
『キャア、キャ、キャ、裸足で芝生を歩くと気持ちいいーー』
『うわ、平民だよ。しかし、自由奔放でいいな』
『ああ、まあ、あんな令嬢がいてもいいか』
『おーい、サリー。裸足で歩くな!』
『ルド!おっかけっこをしましょう!』
『うわ、殿下を愛称呼びだよ。でも、サリーだし』
・・・・・
イメージ戦略に手間取った。
しかし、すぐに、クレメンティス派閥の令嬢からイジメを受けるようになったのは重畳!
しかし、体がもたない。胃を刺されたか。
「コオオオオオオオオーーーーー」
サリーはため込んだ息を吐き。
片足をわずかにあげ。体勢を落としながら呼吸と共に体をぶつけた。
「フンーーー!」
「・・ウワーーー何故、突進が止らない!」
メイドを吹き飛ばし。メイドは侯爵令嬢クレメンティスに衝突した。
ドタン!
「キャアア」
それと、同時にサリーは床に伏し。血が広がる。
「はあ、はあ、はあ、これで私の勝ちですわ!」
「殺人罪だ!捕まえろ!」
「おう!」
「え、どうして、相手は平民ですわ!」
「「「!!!」」」
この発言で、初めて、侯爵家の異常性を皆は理解した。
侯爵家の領地では貴族が平民は殺しても処罰されない。
クレメンティスはその環境で育ってきたのだ。
「なんと言うことを、これは女会戦だ。殺すまでは無しだ」
・・・・・・
「ルドルフよ。詳細は聞いたが、あのサリーという特待生は、我王国を『独裁主義の無政府状態』と称したのだな」
「はい、父上」
「なら、秩序ある独裁体制にするべきだな」
「父上、サリーは?あの後、回復院に行ってもサリーに会えませんでした」
「サリーは死んだ。そうした方が、後々都合が良い」
「父上!」
「娘の不行跡でダストル侯爵家は爵位を取り上げる。今、使者がクレメンティス嬢との婚約破棄の通知を土産に向かった所だ。後は兄たちに任せろ。近衛騎士団と近隣諸候に出兵を命じた」
「そうですか」
「元婚約者は北の修道院だ。一生出てこれない。ルドルフには中立派か王党派から婚約者を迎える予定だが、歳の合う令嬢はいないな」
「陛下、政略は我らで十分でしょう。ルドには自由恋愛をさせて下さい」
「そうだ。ルドくらいはいいだろう。しかし、難しいぞ」
私はこの国の第三王子、ルドルフ、
兄上たちはそう言ってくれたが、あの惨劇いらいサリーが忘れられない。
それに、やる気がない。分かっていた。無駄に正義漢だけ強い。これでは複雑怪奇な政治など無理だ。
父上たちはこれを口実に大貴族の力をそぐつもりだ。その筆頭がダストル侯爵家だ。
☆☆☆数ヶ月後
「初めまして、新しく女官になったサリアですぅ」
「・・・サリー、サリーだよな。そのピンク髪!あれ以来、どうなっていたか。秘匿状態だったんだ。あえて嬉しいぞ!」
「違うのだからね!だから、抱きつかないで・・・グスン、グスン、サリーという女は殿下を利用した女だからね!陛下の命令で仕方なく王宮に来たのだからねっ」
「ああ、それでいい。利用してくれ、私の正義感の行く先を示してくれ」
あの惨劇の日から数ヶ月、ダストル城が陥落した報が王国に届いた日に、ピンク髪の女官が王宮に現れた。
後に王子妃になり。
主に民の視点からの法案作成に関わることになる。
王国はゆっくりだが確実に良い方向に向かっていく。
それは名もなき人達の努力のおかげなのかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。