41.父上の元へ
玉座の間に残った僕とローランド兄上は、アーリアの処遇と王国の今後の展開について話し合った。
クリトニア王国は魔法陣の技術について劣っている。
だから、今まではエルファスト魔法王国の魔道具が、王国内に流れてくることに頼っていた。
『プリミチブの樹海』から来たドワーフ達とエミーの協力のおかげで、魔導車、魔池などの開発に成功したけど、まだまだ自国で複雑な魔道具を作れる域には達していない。
アーリアはエルファスト魔法王国の魔法研究所で魔法陣を研究してきた魔導士だ。
彼女の手を借りることができれば、魔法陣の分析や開発が大幅に発展する。
クリトニア王国にとっては喉から手が出るほど欲しい人材なんだよね。
それに僕個人としても魔法陣には興味があるし……
魔法陣を使えば、様々な機械に魔法の性能を付与することができる。
例えば、魔導車の全面から、火炎放射のような炎を噴き出したりとか。
どうしても子供心をくすぐられるよね。
ローランド兄上はデスクの上に両肘を置いて、両手を組んで難しい表情をする。
「既にアーリアの身柄は保護した。何度も説得すれば、彼女も我々に協力的になってくれるだろう。しかし問題になってくるのはエルファスト魔法王国だな」
「そうですね。王都にアーリアがいたことは、いずれ魔法王国に伝わるよね。それでいつまでも彼女の行方が掴めなかったら、王宮が匿っていると感づかれるだろうね」
「一時的に魔法王国から隠すことはできるが、一生、アーリアを匿うことはできないからな。いつかはエルファスト魔法王国に知られるだろう」
「どう考えても彼女のことを隠し続けるのは無理だよ。それに籠の鳥のように、彼女を城に閉じ込めるのは魔法王国とやってることが同じになっちゃう。暗殺者に狙われている間は仕方ないけどね」
僕の言葉を聞いて、ローランド兄上は渋い表情を浮かべる。
「となると、アーリアのことはエルファスト魔法王国にバレるとして、今後のことを考えたほうが良さそうだな」
「うん。もしかすると王国が邪魔をしたと魔法王国は思うかもしれないよね。軋轢が起きるかもしれない。もしアーリアの魔法陣の技術によってクリトニア王国の魔道具が発展すれば、エルファスト魔法王国だけでなく、バルドハイン帝国とも衝突は起こると思うんだよね」
「王国を発展させれば、二強国から睨まれる。それを怖れては王国は発展はできない。ここで覚悟を決めないといけないってことか」
眉間にシワを寄せて、ローランド兄上は悩ましそうに大きくため息をつく。
ローランド兄上は王太子であり、今は国王の代理だ。
王国の方針を決めるという重圧は、僕が想像する以上に大変なことだろうな。
しかし、僕は今まで心の内で思っていたことを、吐露した。
「このまま帝国と魔法王国に挟まれて萎縮していたら、いずれはどちらかの国に侵略されて、クリトニア王国は滅ぶと思う。だから、そうならないように今から手を打ったほうがいいと思うんだ」
「それについては私も同意見だ。ただ父上―ライナス国王が守ってきたクリトニア王国を、私の一存で王国の方向性を変えいいのか悩んでいた。しかし、アーリアの件はどうしても隠しおおすことはできない。私も覚悟を決めよう。今から父上へ報告に行く。イアンも一緒に来てくれるか?」
「それならエミリア姉上も一緒に行こうよ。姉上ならきっと協力してくれるよ」
「そうだな。姉弟の総意ということであれば父上にも納得していただけるな」
ローランド兄上は大きく頷いて席を立ち、僕と伴って玉座の間を出た。
姉弟の総意って……アデル兄上のこと完全に忘れてるよね。
今頃、アデル兄上は「蜘蛛」の情報を探して、王宮騎士団の兵達と共に行動しているはずだから、城の中にはいないけどね。
僕達二人は、僕の部屋でエミリア姉上と合流して、城の最上階へと向かった。
最上階は国王専用となっていて、王家の者でさえ普段は立ち入ることを控えている。
父上が原因不明の病を患ってから、僕は数えるぐらいしか最上階に来たことはない。
治療師が行うヒールや、薬師のポーションは、怪我や風邪のような軽い病気を治すには効果があるけど、重病を完治させるのは難しい。
エミリア姉上は頻繁に父上の部屋に訪れて、「聖女」の加護を開放して、光魔法で治癒を行っている。
そのおかげで、病は一時期よりも徐々に快方に向かっているらしい。
重厚な扉をノックし、ローランド兄上、エミリア姉上、僕の順番で部屋の中へ入る。
広い部屋の中には誰の姿もなく、豪華な大きいベッドで、父上は横になっていた。
ローランド兄上はベッドの隣の椅子に腰をかけて、控え目な声で父上に話しかける。
「エミリアとイアンと共に参りました。父上にご報告したいことがあります」
「……うむ……申してみよ……」
ローランド兄上の言葉に、父上は薄目を開けて、僕達三人を優しく見つめた。




