38.「黒鴉」のアジト
カーネルさんが玄関にいた男に声をかけると、男は深くお辞儀をして廊下の奥へと去っていった。
しばらくすると男と一緒に、ちょっと目元の鋭いイケメンが現れた。
たぶん、このイケメンがサイナス組長なのかな?
サイナス組長はニコニコと目を細めて、両手を広げる。
「カーネルのオジキがここへ顔を出すとは珍しいな。ここはオジキの家も同然なんだから、自由に出入りしてくれても構わないし、ここに住んでくれてもいいだぜ」
「ワシは既に隠居の身じゃ」
「そう言わずに、中へ入って」
サイナス組長はニッコリと微笑むと、手を差し出してカーネルさんと部屋へと誘う。
盗みや殺しを請け負う組織と聞いていたから、もっと怖い場所と思い込んでいたけど、なんだこのアットホームな雰囲気は!
状況はよくわからないけど、僕、エミリア姉上、オーランの三人は、カーネルさんに続いて部屋の中へ入った。
すると目の前に畳の敷かれた広間が現れた。
今まで王国内で畳を見たことがなかったよ。
この世界の昔の文献よれば、しばしば僕のように前世の日本の記憶を持つ転生者が現れるらしい。
神話の時代には、古代の国が召喚魔法を行い、日本の少年少女を召喚し、その者達は勇者として魔王と戦ったとか。
子供に聞かせるおとぎ話だから、どこまでホントの話しなのかわからないけどね。
どこかに畳があるのではと思っていたけど、まさか王国内で畳を見るとは思わなかったよ。
革靴を脱いで、畳に胡坐をかいて、それぞれに座る。
するとサイナス組長は僕とエミリア姉上を見て、目をスッと細めた。
「オジキ、そこの二人は? この辺りでは見かけない顔だが」
「ああ、二人はワシの友人じゃ。イアンとエミリアという。今日来たのは、二人を紹介したかったからだ」
「ほう……カーネルのオジキの友人とあっては、俺も無下にはできないな。オジキが連れて来たんだ、ただの紹介ではなさそうだな」
さっきまでニコニコとしていた雰囲気がガラリと変わり、凍てつくような目で僕達を見る。
すごい殺気が僕を威圧する。
やっぱり、ここは闇の組織なんだな。
ちょっと躊躇していると、隣に座るカーネルさんが「気軽に言ってみろ」と言って、僕の背中をバンと叩いた。
そのおかげで、僕は威圧から脱して、サイナス組長へ話しかける。
「僕達はエルファスト魔法王国から脱走してきた魔導士を探しています。オーランから身元不明の人物を助けて、ここへ連れていったと聞きました。その者と会わせてもらいたいんです」
「ほう……オーランが言ったのか……それで、その者がお前達の探している魔導士だったらどうする?」
「保護したいと考えています」
僕の話を聞いて、サイナス組長はアゴに手を当てる。
「奴は暗殺者に追われていた。推測だが、王国内外の暗殺者ギルドが動いている。奴を保護すれば、いつ暗殺ギルドの手の者に襲われるかわからんぜ。そんな中、守り切れる自信があるのかい?」
エルファスト魔法王国は逃げ出した魔導士を連れ帰るよりも、殺すことを選んだのか。
サイナス組長は僕達の素性と覚悟を怪しんでいるんだろうな。
僕は静かに懐から王家の紋章を刻んだ短剣を取り出し、畳の上に置いた。
その紋章を見て、サイナス組長は大きく頷く。
「どこかの貴族のガキとは思っていたが、こんな大物が乗り込んでくるとわな。オジキ、こいつらの素性を知ってたのかい?」
「知らん。そんなことに興味はないわい。イアンはイアン、エミリアはエミリアじゃ。ワシの友人であることには変わりないからのう」
「ここがどんな組織の本拠地か知って乗り込んできたんだろうな。王宮、いや王家は俺達にとって最大の敵だぞ」
サイナス組長は膝立ちになって凄む。
「黒鴉」のアジトへ行くとなってから、穏便な話し合いができると予想していなかった。
しかし、ここまで毛嫌いされているとは思わなかったよ。
僕の隣に座るエミリア姉上が、畳に両手をつけ、サイナス組長を見据える。
「あなたの言われる通り、私達は王家よ。でも「黒鴉」と争うつもりは一切ないわ」
「俺達は「黒鴉」は、金持ちや貴族から盗みもするし、殺しもする。お前達、王宮にとって俺達は悪党集団だぞ」
「それを言えば、王宮だって戦争を起こすし、敵兵をいっぱい殺すわ。やってることは「黒鴉」よりも質が悪いわよ」
「あんた、面白い考えをするんだな。カーネルのオジキが気に入るのも頷ける。わかった、話しだけでも聞いてやろう」
エミリア姉上の話を聞いて、サイナス組長は機嫌を直して、畳に座り直した。
どうやって、サイナス組長を冷静にするか悩んでいたけど、エミリア姉上のおかげで助かったよ。




