33.カーネルさんからの情報
月の光が夜空を照らす中、僕は城を抜け出して街へと向かった。
もちろん、僕のことを見張っていたエミリア姉上も一緒だ。
二人で廃墟へ向かうと、カーネルさんとオーラルが待っていた。
僕を見てカーネルさんはニヤリと微笑み、手に持っている酒の小樽をあおる。
「イアンはメルセルク伯爵という貴族のことを知っておるか?」
「はい。メルセルク伯爵は王都にほど近い、王国の中央部に領地を持つ伯爵ですね。その領地には特に目立つ特産物はないけど、穀物類などの農作物が盛んだったはず」
「ふん、その通りだ。イアンも調べてきたのか」
僕の答えを聞いて、カーネルさんは鼻を鳴らす。
エミリア姉上は才女であり、王国内の貴族の顏や情報を覚えている。
姉上から教えてもらったメルセルク伯爵の情報はまだあった。
伯爵家は先々代の頃に武功を立てて爵位を得たらしいが、それ以降、目立った功績はないらしく、今は段々と没落貴族の道を歩んでいるとか。
今代の伯爵は農作物が豊かに採れることをいいことに、領地は下級貴族の代官達に任せ、自分は王都の別邸で遊び惚けているいう。
王宮の政務に携わる財務大臣、法衣貴族のオストロフ伯爵と懇意にしているらしい。
法衣貴族と地方貴族は仲が悪いはずなのにと、エミリア姉上は首を傾げていたけど。
「ワシの調べでは、メルセルク伯爵は相当な資金を持っているらしくてのう。繋がりのある貴族達に金をばら撒いておるらしい。その他にもわかったことだが、メルセルク伯爵は好色らしくてな。以前は頻繁に娼婦を邸に入れて囲っていたらしい。最近では趣旨を変えたのか、娼婦達は呼ばれなくなったようだがのう」
「イアンに、いやらしいことを教えないで。不潔よ」
「カーセル、最低。変態」
カーセルさんの話しに、エミリア姉上とオーランが冷たい言葉を浴びせる。
二人の凍てつくような視線を受け、カーネルさんは「ただ説明しただけなのに」と言いながら体を小さくした。
今の僕は十歳の子供だけど、そういう夜の経験についての知識は一応は持っている。
前世の日本の記憶の中には、AV動画の映像もあるからね。
それに個人的な記憶はないけど、日本にいた頃の僕は大人で、そういうことも経験していたと思う。
エミリア姉上やオーランの前では決して話せないけどね。
それにしてもおかしい。
エミリア姉上から教えてもらった情報では、今代の伯爵は没落していってる最中のはず。
それなら繋がりのある貴族達に金をばら撒く余裕なんてないはずだよね。
それにカーネルさんがいうように、メルセルク伯爵が好色なら、娼婦を買わなくなったのは変だ。
特殊な性癖を持った者が、その性癖を簡単に捨てたりはできないだろう。
そこまで考えて、僕はハッと気づく。
もしかして人身売買の闇市で子供や少女を売って利益を得て、その資金を周辺の貴族にばら撒いているのかも。
メルセルク伯爵が闇市の元締めなら、自分好みの子供や少女を手元に置いて性の玩具にすれば、娼婦を呼んで囲う必要はない。
これなら全ての辻褄が合う。
では伯爵の住んでいる邸に潜り込めば、今も囚われている子供や少女達がいるかもしれない。
思考の中に沈んでいると、カーネルさんに肩を叩かれた。
「たぶんイアンが考えていることで合っておるだろう。メルセルク伯爵の邸に「蜘蛛」の組織に通じる情報があるはずだ。ワシでは邸に忍び込めん。ここから先はオーランに案内をしてもらえ」
「色々とありがとうございます」
「礼はいい。イアンのことを気に入って協力しているだけじゃ」
カーネルさんは照れたように、顔を背けてしまった。
その姿に思わず笑ってしまう。
隣にいたエミリア姉上が僕の手を掴んだ。
「伯爵の邸に行くのよね。それなら私も一緒に連れて行って」
「それはダメだよ。僕は加護があるし、オーランは殺し屋だから、邸に忍び込むのも慣れてるけど。姉上には無理だよね」
「でも、もし子供達や少女達が邸に閉じ込められていて酷い目に遭っていたら、私の加護が役立つでしょ」
エミリア姉上は「聖女」の加護を持っている。
囚われた子供達や少女達が怪我をしていれば、その傷を治すことができる。
一緒に行ったほうがいいのはわかるけど、姉上を危険に巻き込みたくない。
即答できずに黙っていると、オーランがポツリと呟いた。
「牛乳女は私が守る」
「だれが牛乳よ。あんたなんてツルペッタンじゃない」
「私は成長中」
「イアンは私のような胸の大きい女性が好みなんです」
「牛乳女、今殺す」
エミリア姉上とオーランがまた喧嘩を始めた。
せっかくオーランが守ってくれると言ってるんだから、少しは姉上も仲よくしてよ。
それに断じて、僕は胸フェチではないからね。
大きければ大きい良さがあり、小さければ小さい良さがあると思っている。
勝手に僕に変な性癖をつけるのは止めてほしい。
物騒な目で短剣の柄を掴もうとするオーランを、カーネルさんが羽交い絞めにする。
そして指をワシャワシャと動かし、今にも飛びかかろうとするエミリア姉上を僕は必死に抱き止めた。
「二人とも、喧嘩するなら一緒に連れていかないからね」




