31.人身売買の会場へ
僕はボロの外套を羽織っているし、一見すると貴族には見えないけど、エミリア姉上は美少女でもある。
それに城で生活している衣服のまま抜け出してきているから、このままではマズイ。
僕とカーセルさんは話し合い、オーランの服を借りることにした。
着替えを覗くことはできないので、オーランが姉上の手を握って廃墟の中へと連れていった。
しばらく待っていると、庶民のような衣服を着たエミリア姉上が、オーランと一緒に姿を現した。
そして、僕の前で胸を指で抓む。
その姿へオーランが殺気のこもった視線を送る。
「どうして着替えるの? ちょっと胸がキツイくて苦しいんだけど」
「牛乳女」
このままだと二人の喧嘩が始まりそうなので、僕はエミリア姉上の手を取って歩き出した。
カーネルさんは僕達の前を歩き、オーランは無表情で後ろを付いてくる。
路地の角を何度か曲がって歩いていくと、一軒の薄汚れた建物へ着いた。
その前には護衛であろう、荒くれ者達が数人たむろしている。
その男達に向けてカーネルさんは知り合いのように手をあげた。
「よう、お勤めご苦労さん。ちょっと通してくれ」
「カーネルのおっさんじゃねーか。こんな場所にどうした? おっさんが来る所じゃねーだろ」
「後ろを見てからモノを言え」
カーネルさんはニヤリと表情を歪ませて、僕とエミリア姉上を親指で差す。
僕達二人を見た男はニヤニヤと表情を緩ませた。
「なるほど、そういうことかい。二人共、上玉じゃないか。ここを通してやるから入んな」
男がそういうと、後ろにいた男達も道を開ける。
どうやら何か勘違いをしているようだけど、それで通してくれるなら問題ないよね。
男達の間を通って、僕達四人は建物の中へ入と、地下へと向かう階段が伸びていた。
僕はカーネルさんの隣を歩いて階段をおりる。
「さっきのは何だったの?」
「ああ、外にいた男どもか。お前達二人を見て、ワシが人を売りに来たと思ったのだろう。そうでも思わせんと、ここには入れんからな」
だからオーランに言伝をして、僕を呼び出したのか。
階段をおりて、魔導ランプがポツポツと照らしている薄暗い廊下を歩いていくと、金属製の扉があった。
その手前で、カーネルさんから顏を隠すマスクを手渡された。
それぞれにマスクを付け、カーネルさんが扉をノックする。
カシャと覗き窓が開いて、少ししてから扉が開いた。
中に入ってみると暗闇でほとんど周りは見えない。
しかし、少し歩くと人にぶつかり、周囲に沢山の人がいる気配がする。
カーネルさんは躊躇することなく、どこかに向かって歩き続ける。
僕はエミリア姉上の手を握り、迷子にならないようにカーネルさんの後を追った。
すると目の前に強い光に照らされた舞台が現れた。
僕の隣に立つ、カーネルさんがニヤリを笑う。
「ここで誘拐された者達は競りにかけられるじゃ。ここにいる者達は、何らかで「蜘蛛」の組織と繋がっていると考えていい」
そう言われて周囲を見回すと、マスクを付けた人達の姿がハッキリと見える。
その数はおよそで二百人ほどだろうか。
これだけの数の人達が誘拐された子供や少女を買いに来ているのか!?
この他に誘拐に関与した者達もいる。
その全てが「蜘蛛」の組織に関わりがあるなんて……
なんて王都の闇は深く、「蜘蛛」の網の目は広いのだろう。
僕が呆然としていると、手がギュッと握られた。
「イアン、しっかりして。ここは敵地なんでしょ」
隣を見るとエミリア姉上は大きく頷き、僕を安心させるように微笑む。
今日、ここに来た目的も何も伝えていないのに、エミリア姉上は何か察したようだ。
さすが姉上の勘は鋭いな。
姉上の顔を見て安堵した僕は、舞台に視線を移す。
舞台の上では、司会が次々と、子供や少女を呼び出していく。
その度に全裸の子供や少女が手枷をはめられて、舞台の中央に立たされた。
マスクを付けた人々は、手をあげて値段を言い合い、値を吊り上げていく。
舞台にいる子供や少女が泣いて助けを求めるけど、誰も助けに応じる者はいなかった。
それを見ていて、自分の中でフツフツと、腹が煮えくりかえるのを感じる。
こんな暴挙は許せない!
いますぐ「暗躍者」の加護を開放して、周囲にいる者達をめちゃくちゃに壊してしまいたい。
意を決して飛び出そうとすると、その前に両肩を誰かがガシっと掴んだ。
「まだ今はダメ。 冷静になって」
耳元に鈴のような声が聞こえ、ハッと振り返ると、マスクをつけたオーランが静かに頷いていた。
次の瞬間に腕が、万力のような力で握られる。
「ここは耐えるところだ。我慢せい」
隣を見ると、カーネルさんが悔しそうに体を震わせていた。
そう……今日はこの会場を潰しに来たわけじゃない。
ここで暴れるのは簡単だけど、それをするとせっかくの「蜘蛛」の組織に繋がる手がかりを失うことになる。
それに僕やエミリア姉上を案内したカーネルさんやオーランも危険に巻き込むことになる。
そこまで考えて僕は大きく息を吐いて、冷静さを取り戻した。
舞台の上では、その間も次々と子供や少女が売られていく。
僕はこの光景を忘れない。
どれだけ時間がかかっても、「蜘蛛」の組織をぶっ潰してやる!




