22.アドルフ第七皇子の回答
しばらくの間、アドルフ第七皇子は体を硬直させたまま停止していたけど、なんとか意識を取り戻し、ヨロヨロとソファに座った。
まだ朦朧としいるアドルフ第七皇子へ僕は声をかける。
「大丈夫ですか?」
「ああ……俺の告白をハッキリと断った女子は初めてだ。少しショックを受けたが大丈夫だ」
「姉上はまだ弟離れできていなくて」
「いやいや弟を愛するエミリア王女殿下の素晴らしい女子だ」
「それでは、今回の婚約の件は?」
「ますますエミリア王女殿下と婚約したくなった。俺も帝国の皇子だ。一度断られたぐらいで諦めることなどできない。必ず婚約してみせる」
そういえばアドルフ第七皇子は一度決めると、頑固だったよね。
これはなかなか、諦めてくれないかもしれないな。
僕、ローランド兄上、エミリア姉上の三人は、アドルフ第七皇子の前にあるソファにそれぞれ座る。
そして ローランド兄上は真剣な表情で、アドルフ第七皇子を見つめた。
「今回の帝国側からの申し出、魔導車千台の件だが、帝国は魔導車を使って、どのような運用をしようとお考えか?」
「俺は詳しいことは知らない。だが軍事的な応用を検討しているとは聞いているな」
やはり僕達三人が予想した通り、魔導車を改造して戦車にでもして、軍事的目的に利用するつもりらしい。
アドルフ第七皇子の言葉を聞いたローランド兄上はゆっくりと首を左右に振る。
「軍事的な目的で千台もの魔導車を購入するつもりなら、王国内の商会から流れた魔導車を購入するのは自由だが、クリトニア王国としてはバルドハイン帝国に魔導車をお売りできない。あくまで魔導車は人々の足として考案されたものであり、軍事目的に利用されることに肩入れできない」
「これは皇帝陛下からの勅命だ。俺としても、はい、そうですかと引き下がることはできない」
「アドルフ第七皇子、よくお考えください。我が王国が考案した魔導車が戦争に利用され、兵や住人が蹂躙されていく様を。今まで以上に戦火は大きくなり、被害も甚大になります。それにもし帝国の刃が我が王国に向かえば、私達は千台もの魔導車を改良した兵器と対峙しなければなりません。そのような危険な行いに、私達は応じることはできません」
エミリア姉上の言葉を聞いて、アドルフ第七皇子は難しい表情で黙り込む。
少しは魔導車の軍事利用についての危険性を理解したのかもしれない。
アドルフ第七皇子はアゴに手をやり、ローランド兄上に問う。
「問題は帝国がクリトニア王国に戦争を仕掛けることだろう。それならば帝国と王国の間で同盟をむすめば良い。魔導車を作るには王国の技術力が必須。今であれば皇帝陛下も同盟について許可してくれるだろう」
「そのことだけを問題にしているのではない。我が王国で作られた魔導車を使って、他国であろうと戦で命を落とす者が増えることが問題だと言ってる。そのような殺戮をするために魔導車を作ったのではないのだ」
「国とは自国の利となることを追求するもの。バルドハイン帝国がどの国と戦をしようと、クリトニア王国には関係ないことだろう。どうして他国の民のことまで責任を負う必要があるのだ。そのようなことは他国の指導者が考えればよいことではないか」
心優しいローランド兄上の言葉は、アドルフ第七皇子の心に届かないようだ。
発明した道具については、その発明者が危険なことに利用されないように責任を持つと、ローランド兄上は説いているだけなんだけど。
残念ながら、この違いは幼少からの教育と育ってきた環境によるモノで、なかなか互いに理解を得るには難しいだろうな。
微妙な沈黙が続く中、エミリア姉上が口を開く。
「命に他国や自国の区別なんてないわ。魔導車はイアンが考えた夢をある乗り物なの。それなのに軍事利用されるなんて許せないわ」
「そうだな。弟君の心を踏みにじってはいかん。帝国の帝都に伝令を走らせ、交渉は決裂し、魔導車千台は購入できない旨を伝えさせよう」
今まで渋い表情で悩んでいたアドルフ第七皇子が一瞬で意見を変えた。
エミリア姉上に惚れているからだろうけど、その変わり身の早さには驚かされる。
帝国からの交渉役が、それでホントにいいのだろうか?
ローランド兄上が心配そうにアドルフ第七皇子へ問う。
「しかし、そんなことをすれば、アドルフ第七皇子の立場が悪くなるのではないか?」
「うむ、先の国境の戦いでの敗戦で、俺は既に皇帝から見限られている。だから外交の交渉役などという役目を押しつけられたんだ。今更、交渉に失敗したからと言って、俺の評価は下がらん。それにエミリア王女殿下から婚約についての色よい返事をもらうまでは、帝国に戻るつもりはない」
「え! このまま王国にいるつもりなの!」
「そちらの要求を呑むのだから、少しぐらい俺に便宜を働いてくれてもいいだろう」
アドルフ第七皇子はエミリア姉上を見てニヤリと微笑む。
ちょっとややこしいことになってきたな。
しかし、アドルフ第七皇子が王国にいれば、今後のバルドハイン帝国からの強引な交渉の抑止力になるかもしれない。
モノは考えようだよね。
僕は皆を見回し、ニッコリと微笑む。
「アドルフ第七皇子も帝国に帰りづらいだろうし、このまましばらく王国にいてもいいんじゃないかな」
「そんな! あいつは私を狙っている狼なのよ! お姉ちゃんを見捨てないでー!」
何を勘違いしたのか、エミリア姉上はソファから立ち上がり、僕に向かって両手を広げ、ギュッと体を抱きしめる。
僕のことを大事に思ってくれるのは嬉しいけど、少しは弟離れしようね。




