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2.脳筋のアデル兄上

僕とエミリア姉上は軽装の鎧を身にまとい王宮の廊下を歩いていると、ローランド兄上とシルベルク宰相が廊下の角から姿を現した。


僕は前に進み出てシルベルク宰相の前で首を傾げる。


「シルベルク宰相がいたのに、どうしてアデル兄上は出兵したの?」


「間が悪く、ドルムント辺境伯が登城していていたのですよ。あやつとバンベルク騎士団長がアデル殿下を焚きつけましてな。ローランド王太子と私が止めているにも関わらず、無視して強引に騎士団を動かしたのです」


シルベルク宰相は疲労の色を顏に浮かべる。


ドルムント辺境伯もバンベルク騎士団長もアデル派の派閥に属している。

辺境伯はバルドハイン帝国との国境沿いに領地を持つ大貴族だ。

頻繁にバルドハイン帝国軍が国境に現れることをイライラと不快に思っていたに違いない。


王宮騎士団とは、クリトニア王国の軍事の要といっていい。

だからこそ、軽々とは王宮騎士団を動かすことはできない。

バンベルク騎士団長はそのことが不満だったのかもしれないな。


シルベルク宰相の話しでは、アデル兄上達が出兵してから二日も経っているという。

そんな重要な話しであれば、ローランド兄上が僕に愚痴ってくるはずだけど?


「僕、全く知らなかった」


「あれ? イアンには部屋で話したけど?」


いつも色々な弱音を言ってくるので、ついつい聞き流してしまったのかも。

こんなことなら、しっかりと聞いておくんだった。


「とにかく僕とエミリア姉上で説得してきます」


僕はエミリア姉上の手を取り、廊下を走った。

王城の一階にある王族専用厩舎へ向かう。

すると五人の兵士が馬を用意して待っていた。


王宮騎士団は王都の警護もあるため、全員が出兵することはない。

彼等は王宮騎士団の居残りの者達だ。

一人の兵士が歩み出て、僕達の前で胸に手を当てて礼をする。


「私は王宮騎士団のクライスと申します。お二人を護衛いたします」


「僕と姉上のことお願いします」


王宮騎士団は歩兵を連れているので、それほど先には行っていないはずだけど。

僕とエミリア姉上は馬車に乗り込み、クライス達に護衛されながら、王城を出発した。


王都の大門を潜り、街道に出る。

そして途中で休憩を挟みながら五時間ほど進むと、太陽が西に沈んできた。

僕達は一番近い街で一泊することにした。


宿のベッドに寝転んで体を休めていると、エミリア姉上が部屋の中へ入ってきた。

そして椅子に座って疲れた表情を見せる。


「あなたまで巻き込んでしまってゴメンね」


「大丈夫。アデル兄上のことが心配だし」


「ノア、私の前では、もっと子供らしくしていいのよ。まだ十歳なんだから」


エミリア姉上は優しく微笑み、僕を両手で優しく抱き込む。


そう……僕が普通の十歳児よりも大人びているのには理由がある。

それは僕が前世の日本の記憶を持つ転生者だからだ。


僕が五歳の時、王城の階段で足が躓いて下まで転がり落ちた。

その際に頭を激しく打ったらしく、頭から血を流して倒れたらしい。


意識不明の状態が三日も続き、その時に混濁した意識の中で、日本の情報が前世の記憶となって、色々と流れてきてきたんだ。


だから僕は前世の日本の記憶を持っている。

でも、日本で暮らした個人的な情報はないけどね。


それからの僕は受け応えが微妙に大人びたモノになってしまったのだけど。


僕の体から離れたエミリア姉上が悔しそうに表情を歪める。


「ドルムント辺境伯やバンベルク騎士団長、武闘派の地方貴族達も、アデルを国王に擁立して、クリトニア王国をバルドハイン帝国に負けないぐらいの強国にしたいらしいけど。そんなの上手くいくはずないわ」


「僕もそう思う。別にバルドハイン帝国と張り合わなくても、クリトニア王国らしく発展していけばいいと思う」


「私達は家族で争いたくないのに。アデルもバカよ」


「たぶんアデル兄上のことだから、あまり深く考えていないんだと思う」


「それだとやっぱりアデルはバカよね」


そう言って、エミリア姉上は手で口を押さえてプププと笑う。

それに釣られて、僕も一緒に笑ってしまった。


それからしばらく雑談した僕達は、姉上が一緒に寝たいというので、同じベッドで眠ることになった。


久しぶりに姉上と一緒のベッドだから、何だか恥ずかしくて眠れないよ。


次の日の早朝、馬車に乗り込んだ僕達は街を出発した。

王宮騎士団に追いついたのは、王城を出てから三日目の昼過ぎだった。


馬車から降りた僕とエミリア姉上を見て、アデル兄上は驚いた表情をし、ドルムント辺境伯とバンベルク騎士団長は苦々しい表情を浮かべる。


「イアンとエミリア姉上じゃないか。こんな所までどうしたんだ?」


「あなたを止めに来たに決まってるじゃないの! アデルのバカ!」


「イテテテテ、姉上、耳を引っ張らないでくれ! 千切れてしまう!」


アデル兄上に近づいたエミリア姉上が強引に兄上の耳たぶを引っ張る。

慌ててエミリア姉上から離れたアデル兄上は、片耳を両手で押さえ怯んだ表情をする。


「王宮騎士団といえば王国の代表する軍隊よ。その王宮騎士団を動かしてバルドハイン帝国軍と対峙すれば、帝国も本気になるわ。そうなったら軍事強国のバルドハイン帝国に勝てるはずないでしょ。バカなの」


「バカ、バカいうな! 俺にだって考えがあるんだ! バルドハイン帝国軍を全て蹴散らせればいいんだろ!」


アデル兄上のことだから深く考えていないと思ったけど、やっぱり脳筋だね。

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