15.魔導車の試運転
瘴気の水の入った樽は、エミリア姉上の反対により、王城からドワーフ達の工房へと移された。
僕とエミ―は樽の一つを工房の一室へと運び込み、瘴気の水を検証することにした。
樽の栓を抜いて、中の水を硝子の水槽に移す。
瘴気の水は透明な薄緑色をしていて、濃厚な森の香りがした。
今のところ体の不調もないし、これなら飲まなければ、特段に体に害はなさそうだ。
「瘴気の水を運び込んだけど、いったいこれからどうやって実験するつもりなの?」
「僕の考えが合っていれば、瘴気の水は微量の瘴気、つまり腐った魔力を発しているはず。だから魔石を瘴気の水の中へ入れると、水が放つ魔力に反応して、魔石から魔力が放出されるはずなんだよ」
「なるほど、そうすれば魔石から魔力を取り出せるってことね」
「あくまで僕の考えで、当たっているかどうかは実験しないとわからないけどね」
「それじゃあ、やってみましょうよ」
エリーの笑顔に僕は大きく頷き、懐から革袋を取り出して、その中に入っていた魔石を水槽の中へ投入する。
すると水中に沈んだ魔石から光が放ち始めた。
その光を見て、エミ―は興奮したように顏を赤らめ、胸の前で両手を握る。
「きれい!」
「どうやら実験は成功したみたいだね。これで魔石から魔力を抽出できたわけだけど、今度はどうやって魔力を機械に伝達させるかを考えないと」
「え? この水をそのまま使えばいいじゃない。水を金属で囲って、魔力を通す部分をミスリルにすればいいわ。そうすれば、そこから魔力が機械に流れるでしょ」
瘴気の水をそのまま使用する発想は僕にはなかった。
エミ―の言葉を聞いて、僕はハッと気づく。
魔石を沈めた瘴気の水を金属で囲って使用する…‥‥それってまるでバッテリ……電池だよね。
「いける! これならエルファスト魔法王国を驚かせる機械を作ることができるぞ!」
「よかったけど、体を揺するの止めて!」
僕に両肩を掴まれ、体をガクガクと揺すられたエミ―は悲鳴をあげた。
僕とエミーは部屋から出て、工房にいたドワーフ達を呼び集める。
そして、羊皮紙に描いた魔導車の設計図を見て、ドワーフ達に協力を求める。
すると王都に来てから暇を持て余していたドワーフ達は嬉々として魔導車の部品を造りはじめた。
それから一週間後、魔導車の試作品が完成した。
魔導車の形は前世の日本の貨物車を模したモノだ。
車のタイヤの部分は、ゴムに似た素材がなかったので、魔獣の革を用いている。
窓も適当な素材がないから空洞のままだし、まだまだ改良していく必要はあるんだけどね。
王都の中で魔導車を走らせることはできないから、王宮騎士団に頼んで、馬車で牽引して王都の外まで運んでもらった。
僕、エミ―、エミリア姉上、アデル兄上、ローランド兄上、警護の王宮騎士団の面々は、王都の外壁からほど近い空地に集まり、魔導車の試運転を行うことになった。
「ホントに、こんな金属の車が馬もなく走るの?」
「理論上は大丈夫なはずだよ。もし実験に失敗しても魔導車が動かないだけだから、危険はないよ」
「それじゃあ、私も一緒に乗るわ」
「俺も乗るぜ」
エミリア姉上の一言で、当初は僕とエミ―の二人で魔導車の試運転するはずだったけど、予定が変更になり、エミリア姉上とアデル兄上も同乗することになった。
僕が運転席に乗り、エミ―が助手席、エミリア姉上とアデル兄上が後部座席に、それぞれ乗り込む。
僕はハンドルを両手で持ち、アクセルの上に足を乗せ、大きく息を吐いて、魔導車の起動スイッチを押す。
すると魔導車がガタガタと揺れ、駆動部から歯車が動く音が聞こえてきた。
どうやら起動は上手くいったようだね。
アクセルを深く踏み込むと、静かに魔導車は前進を始め、段々と速度が上がっていく。
すると後ろで興奮したエミリア姉上とアデル兄上が驚きの声をあげる。
「キャー動いたわ! あまり速度をあげないで!」
「イアンすごいぞ! 馬車よりも速いぞ!」
スピードメーターがないからわからないけど、まだ時速二十キロほどしか速度は出ていないけど……
この世界の馬車の速さの平均は時速十キロ程度だから、時速二十キロでも早く感じるんだろうな。
この世界にはアスファルトで舗装されたような道はない。
悪路の中、速度を上げても危険なだけだから、魔導車の速度は時速三十キロほどしか上がらないように設計している。
僕はアクセルを踏み込み、最高速度の時速三十キロで、王都を囲うように伸びている街道を一周した。
空地に戻ってくると、待っていたローランド兄上、王宮騎士団の兵士達は呆然とした表情で立っていた。
試運転を終えて魔導車から降りると、ローランド兄上が興奮した様子で走ってくる。
「イアン、これはすごい発明だぞ。この車ならエルファスト魔法王国も驚くだろう」
「そういってもらって嬉しいよ」
ローランド兄上と僕が話していると、魔導車から降りったエミリア姉上とアデル兄上も寄ってきて、三人から髪を撫でられ、もみくちゃにされた。
やっと三人から抜け出して笑っているエミーに駆け寄る。
「成功おめでとう!」
「これもエミ―の設計のおかげだよ」
「ううん、イアンのアイデアがなかったら、私一人では造れなかったわ」
「それじゃあ、二人の成功ということで」
「うん」
二人でハイタッチをして軽く抱き合った。
さて、これで試運転は成功した。
後はこれを商品にするだけだ。




