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幻想学園 ~無人島デスゲーム編~  作者: ロザリア・グリム
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16日目

16日目

今日の森は平穏だった。

木々の隙間からは暖かな木漏れ日が差し込み、動物たちは日光浴をしている。

怪物のうなり声も、人間達の声も聞こえず、聞こえてくるのは小鳥たちの楽しそうなさえずりだけだ。

そんな平穏な森の中でただ一つ・・・獲物を待ち続ける狩人の姿があった。

その狩人の少女は、木の枝の上で猟銃を構えただひたすら獲物が来るのを待ち構えていた。

時間がたつにつれだんだんと小鳥たちが少女の体に乗り始めるが、それでも彼女はピクリとも動かない・・・少女はただ・・・獲物を待ち続ける。

雪「・・・」

彼女が持つ猟銃にはスコープはついていない。

なぜならスコープのほんの少しの反射光ですら獲物に位置をばらしかねないからだ。

だから彼女は猟銃にスコープはつけない、そしてそれは何の問題にもなりえない。

彼女は森で生まれた狩人だからだ。

森で生まれた彼女はどれほど遠くの獲物ですら捕らえることが出来る。彼女にかかれば3㎞離れた先のつまようじの先端の色でさえ当てることは造作もない。

雪「・・・」

彼女はただ待ち続ける。

一見、彼女の見た目では獲物にすぐ気づかれてしまうと思うだろう。

しかしそれはあり得ない。

なぜなら彼女は森と一つになれるからだ。

森で生まれ、森とともに生きてきた彼女にとって、森に溶け込み一つになるのは難しいことではない。

森と一つになった彼女を見つけることは、例え訓練された猟犬でさえ不可能だろう。

現に彼女の上に乗る小鳥たちでさえ、彼女が生きている人間だとは微塵も思っていなかった。

もし彼女の存在に気づく時があるとすればそれはきっと・・・獲物が狩られる瞬間だけだ。

雪「・・・来た」

雪は小さくそう呟く。

ズシン…ズシン…

地面を揺るがすような足音が聞こえてくる。

彼女の視線の先にあるものが映る……それは体長5メートルはある巨大な熊……そう山王だ。

いや…正確に言うなら山王だったものだ…

今の彼は口から涎を垂らし続け、目は真っ赤に血走り、狂った獣のような唸り声をあげ続けている。その姿には彼女が知っている過去の面影は全くなかった。

彼女はゆっくりと照準を合わせる…

恐らく、彼女の愛用の猟銃を持ってしても、奴(山王)の鋼鉄のような皮膚を貫通することはできない。何処を狙ったとしても致命傷を与えることはできないだろう。ある一点を除いて…

雪「…」

彼女はある一点に狙いを定める…

そう、それは眼球だ…

眼球であれば鋼鉄のような皮膚は存在せず、命中すれば弾丸は眼球を貫き、そのまま頭蓋骨を破って脳髄を破壊する。

そうすれば一撃で仕留めることができる。

例え仕留められなかったとしても、視界を潰すことができる、それに脳髄を損傷すればどちらにせよただでは済まないはずだ。

とはいえここから数百メートルも離れた奴の眼球を、スコープのついていない猟銃で、ましてや常に動き回っているにも関わらず正確に狙い撃つのは至難の業だ…

本来であれば…

だが彼女には…それができる。

雪「…」

雪は引き金に指をかけ、全神経を集中させる。

そして確実に仕留められるタイミングを待ち続ける。

失敗は許されない…

もし失敗すればその時は…こちらが狩られる側となるだろう。

そしてその時が訪れる!

あたりの音は何も聞こえなくなり、まるで時の流れが遅くなったかのように周りの動くもの全てがスローモーションに見える!

バサバサバサ

小鳥達が彼女の体から飛び立つ!

雪(仕留める!)

雪「!」

そして彼女は引き金を…引いた!

バーン!

乾いた発砲音が響き、弾丸は真っ直ぐと標的に飛んでいく!

そして弾丸は怪物の眼球に…

バシュッ!

雪「!?」

命中しなかった…

弾丸はほんの数ミリ眼球からずれた部位に命中した。

山王の…かつて幻想山の生態系の王、生物としての頂点としていた彼の絶対的なプレッシャーが…彼女の照準をほんの少し狂わせたのだ…

雪(仕留め損ねた!?)

グオオオォォォ!!!

怪物は狂ったように怒りの方向を上げ、雪のいる木へとめがけて一直線で突進してくる!

雪「ッ!」

雪は急いで隣の木へと飛び移る!

その瞬間、怪物は先ほどまで彼女が乗っていた木へと突進し、木は根本からへし折れてしまった。

雪は急いで他の木へと次々に乗り移り、距離をとる。

そして猟銃のボルトを引いて弾を再装填し、すぐさま狙いを定め発砲する!

しかし…

バシュッ!

怪物はまるで自分の腕を盾にするかのようにして、弾丸を防いだ! 

そして周りの木々を薙ぎ倒しながら、再び雪のいる木へと突進する!

雪はそれを再び近くの木に飛び移り回避し、距離を取る。

雪(やっぱり…これじゃ仕留めきれない…でもまだ手は…)

雪がそう考えたその時!

ギエエエェェェ!

耳をつんざくような、けたたましい鳴き声が背後から響く!

雪「!?」

彼女が振り向くと、そこには体長2メートル近くある鳥の怪物が4匹姿を現していた。

怪物達は再び奇声を上げると、そのまま雪へと一直線で突進していく!

雪「!」

雪は冷静に照準を先頭の怪物に合わせ発砲する!

ズシャッ!

弾丸は怪物の眉間を貫き、怪物は即死する!

しかしまだ3匹の怪物がこちらに向かってきている。

雪は腰につけていた狩猟用のナタを取り出す。

そして…

雪「!」

バシュッ!!

突っ込んでくる1匹目の怪物の攻撃を最小限の動きで回避し、通り際に首を切り落とす!

そして続け様に来る2匹目の怪物の右翼を切り裂いた!

2匹の怪物は地面に堕ちる。

そして最後の怪物の攻撃を雪は飛び上がって回避し、そのまま空中で回転しながら猟銃の狙いを定める!

バーン!

雪が放った弾丸は怪物の後頭部に命中し、怪物は脳天を撃ち抜かれ即死する!

雪はうまく突然現れた怪物4匹を始末する。

しかし…

雪「!しまっ…!」

雪が木の枝に着地しようとしたその時!

熊の怪物は雪によって右翼を切られ、バランスを崩して地面に堕ちた怪物を叩き潰し、雪の着地した木へと突進する!

怪物が突進し、ぶつかったことで木は大きく揺らぎ、雪はバランスを崩して地面へと落ちてしまう。

雪「うっ!……はっ!?」

雪は地面に倒れるもすぐさま起き上がり、銃口を怪物へと向けるが…

バキ!

雪「ッ!」

怪物はその巨大な腕を振るい、猟銃を弾き飛ばす!

雪「くっ!まだ!」

雪は咄嗟にナタで斬りかかるが…

ガキン!

怪物の鋼鉄のような皮膚に傷をつけることはできなかった。

ドゴッ!

雪「ゔっ!」

怪物は巨大な腕を薙ぎ払い、雪に直撃し、彼女の華奢な体は最も簡単に吹き飛ばされる。

雪「うっ…ぐっ…」

雪はなんとか立ちあがろうとするが、痛みでうまく動くことができない。

怪物はゆっくりと近づき、右腕を大きく振り上げる。

雪は避けることができない…

雪(死ぬ…!)

雪は死を覚悟する。

雪(ごめんなさい…私はあなたを…)

巨大な腕が振り下ろされる!

ズドン!

………

しかしその腕は彼女を叩き潰すことはなかった。

雪「………!?どうして…」

なぜならその瞬間…

「良かった…なんとか間に合って」

一人の人物が彼女に飛びかかり、窮地から救い出したのだ!それは…

雪「なんで…ここに…?…薫」

昨日彼女が追い払ったはずの生徒会副会長、八神薫だった。

薫「無事かい?雪さん」

雪「どうして…」

薫「やっぱり、君が心配だったから探しにきたんだ」

雪「私が?」

薫「うん」

雪には理解できなかった、昨日あれだけのことをしたにも関わらず、彼はなぜ自分のことを心配してくれてるのだろうか?

彼女がにはその理由が分からなかった。

薫「なんとか無事だったみたいで良かったよ」

薫が安心したように言う。

薫「それで…これからどうしようか…」

薫が怪物の方を向く。

怪物は獲物を奪った相手を睨みつけるかのようにこちらを見ている。

薫「こっそり抜け出してきたから、生憎僕一人しかいないんだよね…逃げる?」

雪は首を横に振るう。

雪「逃げるわけにわいかない…ここで…仕留める!」

薫「本気かい?」

雪は首を縦に振るう。

雪「だから…あなたは逃げて!」

薫「そう言うわけにはいかないな」

薫は雪の願いを拒否する。

雪「!?どうして…」

薫「どうして…て聞かれると難しいな…そうだな…あえて言うならそれは…君を放っておくことはできないからかな、生徒会副会長としてではなく、僕自身として」

雪「!」

その言葉を聞いた瞬間、彼女はあることを思い出した。

それは彼女がまだ幼い時…彼女の叔父から言われた言葉…

「いいかい、雪、このことをしっかり覚えておくんだよ」

彼女の前にいる年老いた男性はこう続ける。

「人は獣だ…獰猛な狼達よりも遥かに獰猛で狡猾な獣なんだ。彼らは常に…獲物が油断して…弱点である首元を晒し出すのを待っている。そのためなら平気で嘘をつき人を騙す。

どんな狡猾な手段も用いてでも、獲物を狩ろうとするんだ」

男性は続ける。

「人を信じてはいけない…例えどれだけ親切そうな人間でも…その中には、今か今かと獲物が油断するのを待つ獣が潜んでいるんだ」

雪「…」

「だからこそ、肝に銘じるんだ。人を信じてはいけない。人は獣なのだと」

雪「うん」

「だが…」

雪「?」

「これも覚えておきなさい、人が皆全て獣だとは限らない」

雪「どういう…こと?」

「獣しかいない人間の中でも、ほんの一握り…本当の人間がいる。彼らは見返りも、名誉も何一つ求めない。彼らはその純粋無垢な心で他者を助ける。獣には持ち得ないその心で……雪、お前の前にもきっとそんな人間がいつか現れる。その時は…おまえもその人物に心を開くのだ、そうすればきっとそのものは…お前の助けになってくれる。いいかい、雪?しっかり覚えておくんだよ」

雪「分かった…おじいちゃん」

……

雪(本当の…人間)

薫「雪さん!危ない」

雪「!」

雪がそんなことを思い出している間に怪物は痺れを切らし、二人に突進していく!

薫は雪の腕を引っ張り、なんとか攻撃を回避する。

薫「危なかった…大丈夫?」

雪「うん」

薫「それで…逃げないとして…どうやってあれを倒そうか…」

雪「方法…話す!でも…まずは…」

雪はそう言いながら身につけていた袋から筒のような何かを取り出し、ライターで火をつけ怪物に投げつける!

ボン!

筒が爆破し煙が吹き上がる!

薫「あれは?」

雪「煙幕!一旦、隠れる!」

二人は煙で怪物がこちらを見失っている間に距離をとり、木の影に隠れる。

薫「このあとは?」

雪「お願いが…ある!時間…稼いで!」

薫「時間を?」

雪は頷く。

雪「時間…稼いでくれれば…私、あいつを仕留める!だから…お願い!」

薫「分かった、任せて!」

……

時間が経ち、煙がだんだんと晴れていく。

怪物は獲物を探しだすためあたりを見渡そうとしたその時…

バン!バン!

乾いた発砲音が響き2発の弾丸が怪物に命中する。

薫「こっちだ!怪物!」

薫の拳銃から放たれた弾丸は、怪物にダメージは与えられなかったものの、注意を引くことには成功した。

怪物は咆哮を上げながら突進してくる。

薫はそれを横に飛んで回避する。

怪物は薫の後ろにあった木に激突するが、何も気にしていないかのように体の向きを変え、再び突進していく。

怪物は大きく右腕を振り上げ薫に向かって薙ぎ払う!

薫「!」

薫は咄嗟に横に転がりそれを回避する!

そして起き上がり際に怪物に向かって2回発砲する!

バシュン!

弾丸は怪物に命中するものの、全くと言っていいほど効いてはいないようだ。

薫「やっぱり効かないか…!」

ダッ!

薫は攻撃するのをやめどこかに向かって走り出す!

薫「こっちだ!」

薫がそう叫ぶと、怪物はそれに釣られるように彼を追いかけて行く!

雪(今だ!)

雪は怪物が離れたのを見計らい、物陰から飛び出して落とした猟銃を拾い上げる。

雪「!」

雪は猟銃を構え神経を研ぎ澄ます!

雪(必ず…仕留める!)

薫(確かここに…あった!)

薫は木々に結び付けられたロープを発見する。

薫(これを使えば…!)

薫が振り向くと怪物はものすごいスピードでこちらに迫ってきていた。

薫「これでも…喰らえ!」

薫がロープをナイフで切ると、上に固定されていた丸太が動き出し、怪物の横っ腹に命中する!

怪物は苦しげな声を上げる、大きく怯む。

薫(これが雪さんの言ってた”罠”か)

時間は煙幕が切れる少し前…

雪「罠がある」

薫「罠?」

雪「あそこ!」

雪がある場所を指差す。

雪「私が…この時のために用意した…それを使って…時間を稼いで!それと…自分がかからないように…気をつけて!」

薫「分かった」

薫(どこまでやれるか分からないけど…やれるだけのことをやるだけさ!)

グオオオオォォォ!!!

怪物は体勢を立て直すと怒りの咆哮を上げ、薫に突進していく!

薫(次は…)「こっちだ!」

薫は再び走り出す!

薫「はぁはぁ!」

怪物が木々を薙ぎ倒しながら、徐々に薫に迫ってくる!

薫「…ッ!はぁ!」

薫は何かを避けるかのように勢いよく前にジャンプする!

薫が着地すると同時に怪物は追いつき右腕を振り上げるが…

グオッ!?

突如として地面が崩れる!

そう、落とし穴だ。

怪物は落とし穴に落ちる!

その中には無数の鋭利に削られた木の枝が設置されており、いくつかが怪物に突き刺さる!

薫(どうだ!?)

怪物には多少きいたものの、すぐさま落とし穴から這い出ようとしてくる!

薫はそれを見て、急いで距離を取る。

雪(後…もう少し…)

雪はその間も狙いを定め続ける。

薫「くっ!」

薫の頭上を巨大な腕が通り過ぎる!

怪物の巨腕は薫のすぐ横の木に命中し、木はへし折れる。

薫「はぁ!はぁ!」

薫は雪が用意した数多の罠を駆使して時間を稼いでいた。

後どれだけ稼げばいいのだろうか?薫の体力は既に限界に近づいていた。

そんな薫とは打って変わって怪物に疲弊した様子はない、顔は怪物が無尽蔵の体力を持っているのではないかとさえ思った。

薫(次の罠は!?)

薫が辺りを見ると離れた場所に罠が見える。

薫「ッ!」

薫はそこへと全力で向かう!

怪物も薫を追いかけて行く!

雪(後…少し…!)

雪は更に全神経を集中させる。

後ほんの少し…彼が時間を稼いでくれれば…奴を仕留めることができる…!

雪は引き金に指をかける…しかし…

薫「この!」

薫が向かってくる怪物を少しでも足止めしようと拳銃を構えたその時…

ガッ!

薫「!…しまっ!?」

怪物に狙いを定めるあまり、足元の注意が疎かになっていたのだ、不運にも薫は地面に転がっていた鳥の怪物の死骸に足を取られてしまう。

雪「!薫ッ!」

怪物が右腕を大きく振り上げ、そして…

それを容赦なく薫へと振り下ろした…

雪「!?」

薫「ガッ…」

薫の胴体が…巨大な怪物の鉤爪によって…上下に真っ二つに切り裂かれた…

雪「そん…な…」

雪の目に絶望の色が浮かぶ…

彼女の目には全てがスローモーションに見える…見えてしまう…

切り裂かれた上半身から飛び出る臓物も…彼の口から噴き出す大量の血も…すべでが…

彼女は理解した…彼女が初めて出会った人間は…薫は…もう助からないと…

雪「……あ」

彼は死ぬ、100%の善意で自分を助けてくれた彼は、自分のせいで…自分を信じたばかりに…死ぬ…

雪「あっ…ああ……」

彼女の中を絶望が支配しようとしたその時!

薫「グッ…リバース!!!」

薫が突然そう叫んだ。

雪「え…?」

彼女は一瞬何が起きたか理解できなかった…

薫がそう叫んだ次の瞬間、彼の体が消えたかと思えば、少し前に彼がいた位置に戻っていたのだ…傷も何一つない状態で…

それは…そう…まるで…彼だけの時間が…”巻き戻った”かのように…

雪「一体…どうなって…」

薫「はぁっ!あっあぶなかった!」

怪物は仕留めたはずの相手が無傷で立っていることに困惑する。

薫「能力を温存しておいてよかった…」

そう!これこそが彼の能力なのだ!

彼は自身の時間を巻き戻す、または進めることができる。

そして能力の発動の合図は「スキップ」または「リバース」と口に出すことだ。そうすることで能力を発動することができる。

時間を巻き戻せばどんな重傷を負おうが無かったことにできるのだ。

薫「だけど…これで保険は無くなった…」

しかしこの強力な能力には欠点もある。

第一に巻き戻せる、進める時間はきっかり10秒ということ。

そして第二に能力発動の間隔にはインターバルがあり、一度発動すれば5分間は使用できないということ。

そして最後に…この力はあまりにも負荷が大きいため、1日に使える回数は、今の薫ではせいぜい3回が限度だということだ。

薫(次は確実に死ぬ…だけど僕は…)

薫「雪!」

雪「!」

薫「僕のことは気にしないで!怪物を倒すことに集中するんだ!」

雪「ッ!」

雪はその言葉に応えるように再び狙いを定める。

薫はそれを見て満足そうに頷き怪物の方を再び見る。

薫(こんなところで…死ぬ気はない!)

薫「来い!化け物!!!」

グオオオオォォォ!!!

怪物はその声に応えるかのように、最大限の咆哮を上げる。

薫は怪物に発砲しながら走り出す!

怪物は自身の体に銃弾が命中するのを気にも止めず薫に向かって突進していく!

そして薫に追いつくと大きく右腕を振り上げ、薫を叩き潰そうとする!

薫は怪物が大きく振りかぶったことでできた隙間をすり抜け回避する!

怪物は薫を追撃しようと、振り下ろした右腕を真横に振り払う。

薫「!」

しかし薫はこれを後ろに跳ぶことで回避し、拳銃で反撃する。

普段の薫ならこれほどまでの動きはできなかっただろう。

しかし薫の集中力は今、極限にまで高まっていた!

1発でも攻撃が命中すれば死ぬ。先ほど死にかけた経験と、この極限の状態が、今までにないほどのアドレナリンを分泌し細胞中を駆け巡る!

彼は今、一種の”ゾーン”のような状態に入っていた!

怪物は再び薫に攻撃を仕掛けるが、薫はそれを最も簡単に回避する!

薫は怪物と対峙しながらある日のことを思い出す。

レオ「薫、お前はたまに集中しすぎると他のことが手につかなくなる時があるな?」

それはある日生徒会長であるレオと話していた時のこと…

レオ「過集中と言うべきか…前も生徒間のトラブルを解決するために三日三晩飲まず食わずで解決策を考えてたそうじゃないか?それで解決した直後に疲労で倒れたとか…」

薫「あ…あはは…あの時はちょっと無理しすぎちゃったかな?」

レオ「ああなったのはあの時だけじゃないがな」

薫「ごっ…ごめん…」

レオ「物事に集中して取り組むのは悪いことじゃないが…流石に倒れるのはな…あまり無理しすぎないでくれよ」

薫「次からは気をつけるよ…」

薫(あの時は、これは僕の悪癖だと思っていた…だけど今は…)

怪物はもう一度腕を振り上げ、薫に振り下ろすが、これも薫に命中することはなかった…

薫には全ての動きがスローモーションに見える!

薫(それに感謝している)

雪「!?」

怪物「グウッ!?」

薫と対峙している怪物も、狙いを定める雪さえもが彼の変化に気づいた。

死と隣り合わせのこの状況、そして極限まで高め上げられた集中力が…

それが彼を…ただの人間から…

“狩人”へと至らしめたのだ!

今この瞬間・・・狩る側と狩られる側の立場は…逆転した…

グオオオオォォォ!!!

怪物はその事実を否定したいかのように、薫に猛攻を仕掛ける!

薫「!」

しかし薫はその攻撃を全て回避する!

薫(勝って見せる…彼女(雪)と一緒に!必ずッ!!!)

薫「かかってこい!!!山王ッッッ!!!」

山王「グオオオオォォォッッッ!!!」

二人の激しい攻防が幕を開ける!

雪(彼は戦ってくれている…私を助けるために…命懸けで…)

「雪…」

雪の耳に聞き慣れた声が聞こえる…もう聞くことは叶わないと思っていたあの声が…

雪(うん…分かってるよ…おじいちゃん)

雪は一度目を閉じて深呼吸する。

雪(彼(薫)が私に応えようとしているように…)

カッ!

雪(私も彼に応えたい!!!)

雪は再び目を開く。

この瞬間…彼女もまた再び”狩人”へと戻った!

雪(必ずあなたを倒して見せる…彼と一緒に!山王ッッッ!!!)

グオオオオォォォッッッ!!!

山王は薫に腕を振り下ろすがやはり回避される。

フゥー…フゥー…

流石の山王にも次第に疲労の色が見え始めていた。

だがそれは彼だけではない…

薫「ハアッ!ハアッ!」

薫も既に限界が近づいてきていた。

薫「うっ…」

薫が頭を抑える。

薫(視界がぐらつく…耳鳴りで音もほとんど聞こえない)

薫「はっ!」

薫が顔を上げると山王がこちらに攻撃を仕掛けようとしている!

薫「くっ!」

薫は攻撃をなんとか回避する!

そして反撃しようと引き金に指をかける!…しかし…

カチッ…

薫「ッ!?」

薫(しまった!?弾切れ!?)

拳銃の弾がついに切れてしまう。

薫「…いや…」

薫は拳銃をしまい、ナイフを取り出す。

薫「最後まで…諦めない」

薫はナイフを構える!

山王も迎え撃つかのように右腕を振り上げる!

薫「行くぞッ!」

山王が薫に巨腕を振り下ろそうとしたその瞬間!

雪(捉えた!!!)

雪「!」

雪は引き金を引いた!

バーン!!!

乾いた発砲音が森に響き、放たれた弾丸は真っ直ぐと獲物へと向かっていく!そして…

薫「うおおおぉぉぉッッッ!!!」

二人がぶつかり合うその瞬間!

バシュン!!!

薫「!」

弾丸は正確に…山王の眼球を撃ち抜いた!

山王「グオォォォ…」

そしてその巨体はついに…地面へと倒れた…

薫「はぁ…はぁ…終わっ…た…?」

雪「薫!」

薫「雪さん?」

雪「大丈…夫?」

薫「うん…なんとか、それよりも山王は?」

二人が地面に倒れた山王を見る。

雪の放った弾丸は眼球を貫き、そのまま脳髄を破壊していた。

山王は瀕死の状態ではあるものの、まだ生きていた。

その生命力にはもはや尊敬すら抱くほどだ。

薫「どうする?」

雪「介錯を…する」

雪は山王に近づく。

彼(山王)にはもはや顔を上げる力さえ残されていなかった。

雪「山王…」

雪は彼を見る。

雪「ごめんなさい…こんなことしか…できなくて…」

雪は猟銃を構える。

雪「私は…強くなる…もっと…強く………そして…生きて見せる…貴方の分も…ずっと…」

それを聞いた山王は…

山王「グルル…」

小さくつぶやくようにそう鳴いた。

雪「!」

薫にはなんと言ったのか分からなかったが、雪には分かったようだ。

雪は微笑む。

雪「うん…今までありがとう…」

雪は引き金に指をかける…

雪「…おやすみなさい…”お父さん”」

そして…引き金を引いた。

山王はついに力尽き、眠りについた…

雪「…森神よ…せめて彼の魂が、父なる大地へと還れますように…」

雪は懐から、狼のような姿をした木彫りの像を取り出すと、そう呟いた。

薫「…」

薫はその行動を何も言わずに見ていた。

雪「…もう…大丈夫…ありがとう」

薫「別に、お礼を言われるようなことはしてないよ。それで…聞いてもいいかな?」

雪「なに?」

薫「その、彼(山王)とはどう言う関係だったの?」

雪「彼は…私の父親のようなものだった…」

薫「父親?」

雪「うん…私は…赤ん坊の頃…幻想山の森の中に捨てられた」

雪は昔のことを語り始める。

雪「捨てられていた私を拾ったのは…そこに昔から住んでいた老人だった…森に捨てられていた私を…本当の娘のように育ててくれた…森での生き方も…沢山教えてくれた、それが私の叔父だった…でも…叔父は私が…10歳にもならない時に病気で死んだ」

薫「…」

雪「私は…一人になった…」

「うう…おじいちゃん…ヒッグ…」

一人の少女は森の中でただ泣きじゃくっていた。

たった一人の家族を失い、彼女は森の中でひとりぼっちだった。

そんな少女の前に…

ズシ…ズシ…

1匹の巨大な熊が姿を現した。

熊はゆっくりと少女に近づいていく…

そして少女に近づくとその巨大な口を開いた。

側から見たら、巨大な熊が少女を食べようとしているようにしか見えなかった。

しかし現実は違った…

ペロ…

「え…?」

熊はその舌で少女の涙を優しく拭ってみせた。

「…貴方も…ひとりぼっちなの?」

グルル…

熊はそう小さく鳴いた…

そして少女の側に寝転がる。

「…うん…ありがとう…」

少女はそうお礼を言うと、彼の体に身を預けた…

雪「それが山王との出会い…それからも彼は…私が一人で生きていけるようになるまで…ずっと側にいてくれた…時には獰猛な狼達から…私を守ってくれた…彼は…私にとって…父親のようだった…私が今生きているのは…彼のおかげでもある…」

薫「そうだったんだ…ごめん…辛いはずなのに…こんなこと聞いちゃって」

雪「ううん…大丈夫…それに彼は最後にこう言ってくれたから」

薫「なんて言ってたんだい?」

雪「…「成長したな」…てそう言ってくれた。私のことを…あの時の泣きじゃくるだけの少女じゃないって…認めてくれたんだと思う」

薫「そうなんだね…」

雪「うん…それに貴方のことも」

薫「ぼっ僕のことも!?」

雪「うん…貴方のことを…立派な狩人だとも言ってた」

薫「そっそうなんだ…」

「僕は狩人じゃなくて弁護士を目指してるんだけどな」…と薫は内心思った。

薫「それで…これからについてなんだけど…」

雪「私は、貴方についていく」

薫が何か言う前に雪はそう答えた。

薫「本当に!?」

雪「うん、貴方は私が出会った…初めての…”人間”だから…それに今日…私のことを命懸けで助けてくれた…だから私は…貴方に…一生ついていく」

雪はほんの少し頬を赤らめながらそう言った。

薫(一生の部分が気になるけど…まあいいか!)「ありがとう!」

薫が雪の手を握って嬉しそうにそう言った。

手を握られた雪の頬は、更にほんの少し赤みを増したような気がした…

薫「…て言うことがあったんだよね」

アリシア「なるほどね…で、この女を連れてきたと」

雪「…」

寮に戻ってきた薫と雪はロビーで皆に囲まれるような状態になっていた。

九尾「それでたった一人で何も言わずに寮を出ていったと…」

薫「あっあはは…」

アリシア「呆れた…貴方…みんながどれだけ心配したのか分かってるの!?」

アリシアのヒステリックな声が響く。

薫「うっ…」

エレン「まあまあ…二人とも無事に帰ってきたわけだし…」

エレンが怒るアリシアを宥めようとする。

アリシア「無事?動けなくなって、この女に担いでもらってきたやつが?」

薫「すっすいません…」

薫はあの後過集中の影響か倒れてしまい、雪に担いで来てもらったのだ。

アリシア「本当に何を考えてるんだか…一人で何も言わず出てくし…ボロボロになって帰ってくるし…本当…バカよバカ!大体貴方はいつも…」

アリシアが更に何か言おうとすると…

スッ…

雪がアリシアの前に立つ。

アリシア「!」

雪「それ以上薫のことを悪く言うのは…私が許さない」

アリシア「なっ何よ?やろうって言うの!?」

二人の間に一触即発の雰囲気が流れる。

九尾「まあまあ待て待て待て!喧嘩はやめろ!」

そんな二人の間に九尾が割って入る。

アリシア「でも…」

アリシアが何か言おうとするが九尾が手で静止する。

九尾「今回は無事に帰ってきたんだ、それに怪我も大したことなかった。彼女もここに連れてきた。それで十分だろう?」

アリシア「むう…」

九尾「君も、仲間になってくれるのは嬉しいが、仲間になる以上、無用ないざこざは起こさないように」

雪「…」

九尾「薫、お前も今回のようなことは二度としないように!お前を探しにいくと言ってやまないレオを止めるのに苦労したんだぞ!反省するように!」

薫「はい!」

九尾「よし!ならこの話はこれで終わりだ!解散!」

九尾が無理やり場を仕切って話を終わらせる。

アリシアは納得できないと言った様子で頬を膨らませている。

ロザリア「まっまあとにかく…これからよろしくお願いしますね、雪さん!」

雪「…」

ロザリア「あっあれ?」

無視をする雪にロザリアは困惑する。

田中「雪ちゃんだっけ?俺は田中、いや〜君みたいな可愛い女の子が学園にいたなんて知らなかったよ!これからよろしく!」

まるでナンパでもするかのように馴れ馴れしく田中が雪に話しかけながら手を肩に置こうとすると。

ギロッ!

田中「ヒィ!」

雪は恐ろしい形相で田中を睨みつける。

雪「私は…貴方達と仲良くする気はない…私が従うのは薫だけ」

雪はそう言うとどこかにいってしまった。

アリシア「何よあいつ!ほんっとむかつくわね!お姉様が声をかけたのも無視するなんて!」

アリシアが雪の態度に怒りを露わにする。

光「美春がいたら間違いなく切りかかってたわね」

田中「こっ殺されるかと思った…」

佐藤「あれは田中も悪いと思うよ?」

田中「いやいや、俺はちょっと仲良くしようとしただけで…」

真鈴「下心丸わかりだったんだぜ」

田中「うっ!そっそんなわけないじゃ〜ん、あははは…」

田中は冷や汗をかきながら必死に誤魔化そうとする。

薫「ごっごめんね、彼女も悪気はないんだ、ただちょっと色々あって人間不信と言うか…」

九尾「分かっている、お前が連れてくる奴は大体一癖二癖ある奴だからな、湊然り」

アリシア「癖がありすぎるけどね」

薫「あはは…」

光「人間不信ねえ…じゃあここにいる白澤だったら仲良くできるんじゃない?人間じゃないし」

霊仙「おっ!面白いトンチだね!でもそれは難しいんじゃないかな?現に吸血鬼である彼女は仲良くできそうになかったし」

霊仙がアリシアを見ながらそう言った。

アリシア「あんな奴と仲良くなるなんてこっちからごめんよ!」

九尾「はぁ…」

「これはしばらく大変なことになるな」…と九尾は思った。

薫「そう言えばさっき会長を止めるのに苦労したって言ってたけど…」

九尾「ああ、あいつは怪我してるにも関わらず、お前を探しに行こうとしたんだ」

薫「そうだったんだ、会長にも心配かけちゃったな…」

九尾「全くだ…次からは気をつけてくれよ?」

アリシア「そう言えばお兄様をどうやって止めたの?」

九尾「ああ、動けないようにベッドにロープで縛りつけた」

アリシア「は?」

その頃一方医務室では…

霊華「レオ…なんで…」

霊華はレオの姿を見て唖然とする、なぜなら彼は…

霊華「なんで…ロープでぐるぐる巻きにされてるの?」

ロープで芋虫のようにぐるぐる巻きにされ、しっかりとベッドに固定されていたからだ。

レオ「俺が勝手に動かないようにと…九尾と穂乃果がこうしたんだ」

霊華「は?」

リオン「なあ修斗?レオのやつ、なんであんなことになってるんだ?」

何も知らないリオンは修斗に疑問を投げかける。

修斗「あれは人の心がない鬼どもの仕業です」

リオン「鬼が出るのか!?よっしゃ!」

修斗「比喩表現です…聞いてますか?」

リオン「じゃあ密かに練習したこの技が役に立つな!水の呼…」

修斗「それは色々とまずいのでダメです!」

リオン「え〜!」

リオンと修斗がそんなやりとりをしてるなか…

美春(レオは拘束プレイが好みなんでしょうか?私もロザリアにロープで縛られたいです!)

横目で見ていた美春はそんなしょうもないことを考えてるのであった。

………

穂乃果「ロープで固定してしまえば動けませんからね!ナイスアイデアでしたよ、光さん」

光「ふふん…まあね!」

エレン「光のアイデアだったんだ…」

グレイ「まさか僕にしようとしたことを会長にするとは…」

アリシア「あんたら…人の心とかないの?」

九尾「すまない、俺は狐だから人の心というのはよくわからないんだ」

アリシア「…」

アリシアが軽蔑の眼差しを向ける。

九尾「冗談だ、だからそんな目で見るな」

アリシア「はぁ…」

アリシアは疲れたからかそれ以上何も言わなかった。 

九尾「とにかく、今回はお前が無事に帰ってきただけよかった、彼女のことは…まあ…お前の言うことは一応聞くようだから…なんとかしておいてくれ」

九尾は薫を見ながらそう言った。

薫「うん、もう少しみんなと仲良くするように言っておくよ」

アリシア「私は別に仲良くなんてならなくてもいいけどね」

光「あんたはいつまで拗ねてんのよ?」

アリシア「拗ねてなんてない!」

光「はいはい」

アリシア「ふん!」

アリシアは光の言葉で余計に拗ねたのかそっぽを向いてしまった。

霊仙「まあ喧嘩するほど仲がいい、て言うぐらいだからすぐに仲良くなるんじゃ…ぐえ!」

紅羽「お前は火に油を注ぐようなことを言うな!」

紅羽は霊仙の頭にチョップをお見舞いした。

薫「ははは…」

こうして新たに雪が仲間に加わり?この日は終わりを告げた…


仕事が始まってからマジで書く時間がないです。このペースだとおそらく完結まで十年はかかると思います。恐らく蒸発する方が早いような気がしなくもないですがこれからも頑張っていきます。

後鬼滅の刃の映画見ました。漫画とかアニメとかほとんど見たことないんですけど結構面白いですね。これを期に見てみようかな・・・

p.s.APEXは引退しました、普通に面白くなくなったんで(シーズン26)

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今回は、特に面白かった。^_^ 次回も、楽しみにしてます。
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