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捕まったクズ勇者がオーガと交渉して、伝説級の大杖を手に入れるそうですよ!

作者: 江戸前餡子

「蔵にあるって言ったの何処のどいつだよおぉぉぉぉぉぉお!」


 何処にでも転移ができる魔法の杖、そんな素寒貧(すかんぴん)な冒険者達なら喉から手が出る程欲しくなる杖が、ルモー村というかつては人が住んでいた、山奥にある村にあるんだとか。


 俺がなぜそれを狙っているのかというと、つい先日の事だ。移動の馬車や船の料金で、いつも金が無くなり、武器や防具も買えないという状態だった為、仲間達がしびれを切らして全員辞めていったのだ。故にその仲間達を取り戻す為にもその杖が必要なわけ……なのだが。


「みつからねぇ」


 朝からルモー村に入って、蔵という蔵を全て漁ったのだが何処にも無い。しっかし、さっきから一際目立ってる、大きな足跡は巨人でも住んでんのか?足跡的に全長3メートルと言ったところだろうか。


「ハハハッ!バカバカしい、んなのありえんな!」


 なーん思っていたが――


「オマエ、ウマイノカ」


 捕まってしまった。


「オデ、ニンゲン、スキ」


 しかも、よりによってオーガだ。長い間カジノに籠って、金を稼いでいたばかりにモンスターの事なんて忘れていた。そんなのも居たなぁ。異世界って怖い。


「美味しくない!美味しいくない!実はわたくし病気持ちなんですよ~、だから貴方が食中毒になるだけですから。ね?」


 まあ、いまさら抗ったところで、もう豚の丸焼き宜しく手足吊るされ背中を炙られているんですけどね。


「マジカ、オデ、ビョウキモチ、クワナイ、オマエ、ナンデ、イル」


 ですよねぇ~、気になりますよねぇ、ここは素直に言うべきか・・・・・・と思ったが、この世界に来る前に、言われた言葉がふと蘇った。


「お前、正直なのは良いけどなぁ。あれだぞ?大人の世界ってえものは、正直な奴は死ぬ!お前は死にたいのか?違うよな?なら、これからは嘘をつけ、死んでも正直に答えるんじゃあねえぞ?正直に答えたら、俺がお前を殺す」


 働いていた時の、上司のありがた~いお言葉だ。因みにその上司は、嘘が客にバレて警察に捕まった。


 腹を鳴らし、今にも喰らいついてきそうな化け物を前に、勇者とは思えない程身体をガクガクと震わせた。やはり特殊な能力を持っていても、持ち主ががしょうもなかった駄目なのか。豚に真珠とはまさにこの事。覚悟を決めろ!俺!!


「そっそそそそそそ、そう言えばオーガさん、こんな話、きっ聞いたこと~、ありませんか?」

「ナイ、オデ、シラナイ」


 いや、まだ話してねえだろこのアホ!


「この村のすぐ近くにある街には、それはそれは女や子供が沢山いて、さぞ肉は柔らかく美味しいんだとか。一部の人の間では、人身売買も行う程らしいですよ!」

「マチ、ヘイシ、ボウケンシャ、オオイ、キケン」


 おっと~?こいつアホかぁ?


 本当を言うと、その街は、だだっ広いだけの言わば住宅地が故に、冒険者も兵士も居ないのだ。こりゃ楽勝に大杖が手に入るかもしれん、クックック、俺っち良いこと考えちった☆


 この時の俺は、とにかく生きて杖を手に入れる事しか頭になく。人としてやってはいけない事をしているのに気づいていなかった。


「なら交渉をしましょう」

「コウショウ?」

「私が、貴方達が入りやすいように、兵士と冒険者を殺しましょう!」

「ウン」

「ただ、その代わりに、この村にある、クレアの大杖を私にください」


 オーガは顎を摘まんで考え始める。そんな小さい頭で、いったい何を考えれるというんだか、はよ話に乗れっつーの!いい加減、魔法の効果が薄れてきて背中が熱くなってきた。


 いつまでも何かを考えて。考えすぎた結果。あくびを漏らしてウトウトとし始めた……ここまで馬鹿だったとは。なんか、算数の問題をいつまでも悩んでいる小学生を見ている様だ。


「病気持ちの、たった一人だけを、取るか、それとも美味しい500人を取るかですよ?し・か・も!貴方は夜になるまで待っていればいい、何もせずに待っていれば一年分の食料が手に入るのです」


 異世界に行った事のない読者諸君は、この時「巨大なオーガが人一人ぐらいで満足しないだろ」なーんて思ったかもしれないが、こいつらは脳みそと同くらい胃も小さく、腹が減りにくい生物なのだ。いやぁ、脳を動かす為の消費カロリーというのは実に恐ろしいものですね。はい。


「ホントウダナ」

「と、いうと?」

「ハナシ、オデ、ダマサレテナイ?」


 変な所で疑い深いなぁ


「とんでもございません!本当ですよ」


 そう言うと、まだ疑いの視線を向けながらも、オーガは俺を吊るす縄を解いて床に優しく下した。


「コレ、オマエ、サガシテタ、オオツエ」


 いや、なんちゅう使い方してんだよ!、俺を吊るしていた木の棒だと思っていたソレは、探していた大杖だった。人を調理するには丁度いい大きさだったんだとか。


 でもまあ、近くで見ると実に神々しい、世界で一本と云われているだけあって、杖先に浮かぶ紫のクリスタルに思わず見惚れてしまう。全体的に所々焦げているが。


「さすが、大きな魔力を秘めた素材で作られているだけあって頑丈だ」

「オイ」

「あ~分かってますよ。では、明日の夜です、良いですね?このルモー村から見て西の方角、そこに大きな街があるのでそこへ向かってください。勿論、合図も私が出します。緑色の閃光が夜空に上るまで待っていてくださいね」

「ワガッタ、オデ、マッテル」

「あと、街に来るまでは、決して大きな音を立てないように、では――」


―― お気をつけて ――



 え?これで終わりかって?その後の話をしろ?


 ま~あれだ、その後はオーガの大群が街を襲ったと、たちまち人々の間で広まった。運悪く、合図をしていたのを見ていた生き残りの住人が告発したらしく。人里では暮らせなくなった俺は、オーガ達と暮らすことにしたとさ。


「前世で詐欺師をやっていた人間が、勇者なんか向いてるはずがないよね」


 破壊サイコー!

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― 新着の感想 ―
[良い点] おぉう…想像以上にやべえやつだった( ;∀;) [気になる点] …これはフィクションですよね? [一言] ここまでくると、逆にとても清々しいですね! お邪魔しました(*´ー`*)
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