守護神の加護(ユキ)
本日は2話更新です。
1話にマリ視点のプロローグを追加しています。
頭の中に声が響く。
《レーティングを変更しますか?》
システムメッセージかよ!
神の声かと思ったわ。ある意味神の声なのかも知れないが。
ちょっとフフってなった。
いけない、ダニエルに変なやつだと思われる。これから弟子入りするのにそれは避けたい。
笑ってはいけないと思うと笑いが込み上げて来るのはなぜなのか。追い討ちをかけるようにウィンドウも出た。
予期せぬ事態に翻弄されつつ、レーティングとやらを確認する。
ふむ。『12才』『16才』『18才』が選択できるのか。詳細も書かれている。
『12才』
流血表現なし。モンスターやキャラクターの外観のリアリティを緩和。攻撃時の音や感触を緩和。性的な内容を含むストーリーを修正。特殊な状況を除きプレイヤー同士での攻撃ダメージを無効化。フレンド以外のプレイヤーとの接触を一部無効化。
『16才』
流血表現なし。性的な内容を含むストーリーを修正。フレンド以外のプレイヤーとの接触を一部無効化。
『18才』
制限なし。
とりあえず『12才』にしておく。
ピッチピチだぜ!
「ユキくん、ご加護を得られたようですね」
レーティングは神の加護なのか。初めて知った。
「はい。ダニエル様の助言のおかげです」
とりあえず猫を被っておく。
なんかいい感じのスタートを切ったみたいだし、このまま聖人ロールプレイしていこうかな。
「貴方の心根故に加護を授けられたのでしょう。守護を司るセロ神のご加護は、健全な心を持つ者を守ってくださるのです。ですが、段々と大人になる内に守護が失われてしまうのだとか」
「そうなのですね。セロ神に祈りを捧げます」
「素晴らしい心がけです」
どうやらマジで神の加護だったらしい。
信心深いアピールをするために祭壇に向かって祈るように両手を組んだ。この世界の祈りの作法は知らないが何もしないよりは良いだろう。
そう考え目を閉じた時、再びシステムメッセージが流れた。
〈セロ神の信徒になりました〉
信徒……!?
またしても知らない情報だ。
「ダニエル様、無知で申し訳ないのですが信徒とはなんでしょう?」
「特定の神に祈りを捧げると、その神を信奉する信徒になれるのです。大きい教会がある町だと神によって神殿が別れていることもあります」
「他の神殿には入れなくなってしまうのでしょうか」
「いえ、一般公開されている区画には入れますよ。あまりに熱心な信徒が多い神殿だと難しい場合もありますが……」
「異なる信徒同士は親しくできないのでしょうか……」
「心配せずとも大丈夫ですよ。私も医神の信徒ですが他の神々も信仰しています。この国は多神教ですから」
「それを聞いて安心しました」
「守護神の信徒になったのでしたら、以前の赴任者が残した衣装がありますから差し上げますよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
ダニエルが奥から持ってきてくれた『信徒の服』に着替える。白いシンプルな詰襟のカフタンシャツだ。
着替えるため部屋に戻ったので、一度ログアウトしてマリに連絡する。
『今チップの町の教会にいる。NPCに弟子入りしたから修行でしばらく合流できないかも』
それだけ送って再度ログイン。
衣装の効果は防御+2だった。微々たるものだがスタート直後でこれは嬉しい。
その後はダニエルから教会に訪れる人々に俺を紹介してもらったり、治療の手伝いをしたりして過ごす。
「毎日こんなに怪我人が出るんですか?」
「ええ。この町は漁業関係者が多いのですが、怪我の大半は海岸に生息している『オオトゲウニ』という遠くから5cm程のトゲを飛ばすウニのモンスターによるものです」
刺さったままのトゲを抜いて回復魔法をかけていく。
レーティングのおかげで刺さっているトゲは半透明の影を固めたような質感になっておりグロさはない。握った感触はフェルトに近く、引き抜く時も栓を抜くようなスポンッという音になっている。
患者は引っ切りなしにやってくるので大忙しだ。
この小さな町で軽傷とはいえこんなに大勢の怪我人が出るなんて、もしや神官プレイヤーのスキル上げのために調整されているのではないかと穿った考えが浮かぶ。
「アラッ! 新しく来た神官様は随分と男前だねぇ〜」
「ユキと申します。新参者ですがどうぞ宜しくお願いします」
「礼儀正しいのね〜! やだもうウチのダンナと交換してほしいぐらいだわ!」
どこの世界でもオバチャンは強い。ぐいぐい来る。
「なぁにが男前だぁ、まだ小僧じゃねェか。そんななまっちろいのより俺らのが男前だっつーの」
「そーだぜ、海の男が一番に決まってらぁ!」
オバチャン達の猛攻をいなしていると、酒瓶を携えた呂律の怪しい二人組のオッサンも参戦してくる。
酔っ払い共め。状況をカオスにするんじゃない。
「ヤダヤダ、これだから男共は!」
「あんた達はガサツなのよ! また昼間っから酒ばかり飲んで! ちょっとは上品にできないの!?」
「そうそう! 神官様を見習ってちょっとくらい労ったらどうなの!」
「ほんとデリカシーってもんが無いんだから!」
オバチャン達も負けてはいない。
愚痴に関しては普段の井戸端会議で鍛え上げられた歴戦の猛者である。
「なんでェ、あかぎれの治療で手ェ握られたぐれぇでキャーキャー騒いでよ、歳考えろ!」
「なにさ、幾つになったって女は女なんだよ!」
「そうよぉ! アタシらだってまだまだ若いんだから!」
「あんなヘラヘラして触ってくる男、碌でもないに決まってる!」
段々ヒートアップしてきた。ちょっと不味いな、一応この辺で宥めておくか。
「まだ魔法が不安定で患部に手を当てないと治療できないのです。力不足で申し訳ありません」
スキルレベルが低いので魔法を遠くに飛ばせないのだ。俺も好き好んでオバチャン達の手を握っていた訳ではない。
「やだもう、ずっと握ってくれても良いのよ!」
「ありがとうございます。ですが、ダニエル様にご迷惑をお掛けしないためにも早く技術を身につけたいですね」
「ホント良い子ね〜! 若い子と話すとこっちまで若くなるわ〜!」
「分かるわ〜! ホントにそうよね〜〜!」
「けっ! 俺らだって若けぇ姉ちゃんに治療されてぇよなぁ!!」
「新しい神官サマが女だったら良かったのによぉ!」
「違げぇねぇ! ここにゃ年食ったババァしか居ねぇからなぁ!」
「なんですってぇ!?」
もぉ〜やめてよ男子ィ〜〜。
せっかく落ち着いたのにまた喧嘩しようとする〜〜。もう嫌になってきた。
素面のオバチャン達はともかく、通りすがりの酔っ払い達には早いところご退場願いたい。
キィーーー。
その時、細い音を立てて教会の扉が開かれた。
入ってきたのは白いワンピースを着た白髪の少女。服装に似合わぬ小楯を腕に着けているのでプレイヤーだろうか。
「おう嬢ちゃん、小綺麗なカッコしてんじゃねぇか。こっち来いよ!」
「酌してくれや!」
酔っ払い達が早速テンプレな言葉で絡んでいる。
少女はそちらを一瞥しただけで無視し、俺に話しかけてきた。
「ユキだよね。今話せる時間ある? 難しいなら待つよ」
声を聞いて気付いたが、これはマリか。
事前に貰っていたスクショではリアルな人間っぽい質感だったのだが、レーティングの変更に伴ってアニメ調に変わっていたため分からなかった。
「大丈夫だよ。中々合流できなくてごめん」
「合流はいつでも構わないけど、チャット使えるように先にフレンド登録だけしたくて。クランにも入ってほしいけど権限持ってるマスターがコウだから後でね」
この島はギルドランクが1つ上がった時に本土へ向かう船に乗せてもらえるようになる。
第2の町であるキンキッドに行くまで一時間程かかる予定だったが、途中で連絡したとはいえもう二時間も経っているので様子を見に来てくれたのだろう。
「おい無視すんなよ!」
「……何でしょう」
不機嫌になった酔っ払いが声を荒げる。
静かに返すマリの表情は変わらないが、少し警戒しているようだ。
「気取った話し方しやがってよぉ、バカにしてんのか!!」
「おい、お前ぇちょっと落ち着けよ。姉ちゃん悪りぃな。こいつ大分呑んでんだわ」
酔っ払いの一人は酔いが覚めてきたようだが、もう一人は更に不機嫌になっている。
「お気になさらず。お水を持っていますので差し上げましょうか」
「水なんか要らねぇよ! 酌しろよ!」
「酔い過ぎだ、もう帰んぞ。……じゃー神官様、今度は酒入ってねぇ時に来るわ!」
「ええ、あまり飲み過ぎないようにしてくださいね」
正直もう来なくていいが、そう言う訳にもいかないので釘を刺しておく。
「冷静に対応してくれて助かったよ、マリ」
「怒ってる時に丁寧に諭されてバカにされてるってキレる人は、どんな言い方したってどうせキレるよ。それなら荒っぽい口調で罵るような品の無い振舞いはしたくない」
淡々としているが、マリは怒ると逆に冷静になるタイプなので実はかなり不愉快だったようだ。
「ああいうの、結構来るの?」
「漁師が多いからかお酒を飲んでる人はよく見かけるね。酔って怪我した人が運び込まれることもあるよ」
「……そう」
マリはうんざりとした顔になってウィンドウを開く。何やら操作しているとマリの服がグレーの迷彩服に変わった。
中性的な外見なので服によっては少年にも見える。絡まれないようにだろう。
「せっかく来たからしばらくこの町にいる予定。何かあったら連絡して」
次回からコウ視点に戻ります。