フィートと水着選び
ようやく辿り着いた温泉郷。
早速入ろう、と向かった先は町の外からも確認できるほどの大きな建物。中が見えないよう周囲はぐるりと高い塀で囲われており、入り口の看板には『Spa Resort Feat』と書かれている。
スパリゾート・フィート。そのまんまだ。
「フィートの綴り違くね?」
「音だけが残ったんじゃないかな」
足を意味する『foot』なら綴りが違うが、地名の元々の意味が後世で忘れ去られるなんてそう珍しくもない。それかただ単に、音の響きを地名にかけた施設名なだけなのか。
個人的には『feat』の方がリゾートっぽくて良いと思う。『foot』じゃ足湯専門店みたいだし。……え、無いよね? ここまで来て実は足湯でした、ってオチじゃ無いよね?
今更ながら地名と施設のダブルミーニングだった説に不安を感じていると、他の皆がさっさと進んでしまったので慌てて後を追う。
建物の中に入ればそこにはマンションのエントランスのように落ち着いた空間が広がっていた。受付にスタッフらしき女性NPCがいたので話しかけてみれば、観光地らしい愛想の良さで対応してくれる。
「当施設にお越しいただきありがとうございます。今回は初めてのご利用でしょうか?」
「はい」
「では水着はお持ちでしょうか。当施設は水着の着用が義務ですので、お持ちでない場合はご購入いただく必要がございます」
こちらでご購入いただけます、と女性スタッフが示したのは受付のすぐ隣。男女のマークで左右に別れていたためお手洗いかと思って見逃していたが、よく考えたらこの世界には排泄という概念が無いのでトイレは存在しないんだった。
「一番可愛い水着選んでくる!」
「あんま待たせんなよ。遅かったら俺達は先に行くからな」
マリだけ女性アバターなので別室に別れる。
直角に曲がった通路を進むとやや広めの部屋があり、そこには様々な水着が陳列されていた。ポップアップウィンドウに表示される商品情報を見れば、どの商品にも『水中呼吸』スキルが付与されている。
「なんでビキニが売ってんだよ……」
入ってすぐに目に飛び込んで来た真っ赤なビキニを見たケイがげんなりと言う。
一番目立つ所にディスプレイしてあるので、もしかするとネタ装備の方が売れ行きが良いのかも知れない。
「あはは! 俺これにしようかな?」
「やめろ視界の暴力だ」
ユキは面白がっているが、流石に冗談だと思いたい。
アバターと中身の性別が違うなんて珍しくないのに男女で分けているのは、女性アバターが装備できるのは胸を覆うデザインのものだけだからだ。
だが、男性アバターは女性物の装備も問題無く着ることができる。装備すると体に合わせて自動で調整されるので、サイズが合わないということもない。
……しかし着られるとは言っても着たいとは全く思わないので、コウは適当にその辺にあった黒無地のサーフパンツを手に取った。
「僕は普通のにするよ。先に外で待ってるね」
「待て、これも買ってけ」
選んだ商品をカウンターに持って行こうとするとケイに呼び止められて、革のブレスレットのような物を手渡された。
商品情報を開くと『小型モンスター専用装備』と表示されている。装着位置は首。ブレスレットではなく首輪だったようだ。
「へぇ、テイムモンスター用の装備まで売ってるんだ。教えてくれてありがとう」
今日はドルオーテを連れて来ていたので助かる。
手足の無い種族でも装備できるようになのか品揃えはアクセサリーのみだったが十分だ。
会計を終えて廊下の椅子で待っていると然程時間をかけずにケイとユキが出てきた。まぁ男共の水着選びなんて大して悩む必要もないだろう。
「やっぱマリが最後か。俺は先に行くからな」
ケイは最初に宣言していた通り、マリを待つつもりが無いらしい。マリも待たせていると感じれば焦ってしまうだろうから、コウとユキも「先に行ってる」とチャットだけ送って先に行くことにした。
受付に戻るとそれぞれにバングルが配られる。施設に入ってからの時間が表示される魔道具だ。支払いの時に必要らしい。
利用料金は一時間につき300G、後払い制。テイムモンスターは使役者と一緒であれば無料。思っていたより安いな。
「それではご案内いたします」
スタッフの先導で廊下を進み、またしても男女別の入口へと通される。案内はそこまでだったので三人で進むと、その先はロッカールームへと繋がる通路だった。
バングルに刻印された番号のロッカーの前に立つとメニューウィンドウが表示されたので、装備欄をささっと弄るだけで着替え完了。元々の装備はロッカーの中に預けられたようだ。
鍵は無いが番号の同じバングルを着けている者にしかロッカーは開けられないので盗まれる心配は無い。
ケイが選んだ水着は白地に黒の植物模様で、形はコウと同じ膝丈のサーフパンツ。総柄だが白黒なので派手過ぎないデザインだ。
ユキはネタに走ったのではと予想していたが普通の水着だった。白無地で裾だけ黒縁のサーフパンツ。全員モノクロ大好きか。
こういう時、結局最後は無難なものに落ち着くところに血縁を感じる。
「温泉だー!」
一番乗りをするのだと風呂場へ突撃するユキ。ケイはそんなユキに呆れた顔をしていたが、実は彼自身も結構楽しみにしていたようで直ぐに後を追う。
ようやく温泉に入れる。
そう思ってロッカールームから出たコウは、想像とは全く違った光景に目を疑った。
「……いやこれプールだよね?」
どう見てもプール。
それもレジャー施設タイプのやつだ。渦を巻く巨大なウォータースライダーが圧倒的な存在感を放っている。でかい。
「……とりあえず入ってみる?」
「そうだな……」
入口の近くにシャワーが並んでいたので、ざっと体を流す。
シャワーの近くに女性マークの入口があったので、ロッカールームは男女で別だったが中は男女共通のようだ。アバターと実際の性別が同じとは限らないので別にしたところであまり意味が無いものな。
プールに手を入れてみると満たされていたのは水ではなくぬるま湯だった。成程、温水プールか。
温泉だと思って入ったので困惑したが、これはこれで楽しめそうだ。
「ごめん。待たせたね」
しばらく男衆で駄弁っているとマリが到着。
その出で立ちたるや、思わず目を奪われるものだった。
黒一色の水着。そう、その姿はまさに……。
混浴だけどなんのハプニングも起こらないしドキドキ感も無い。何故なら全年齢対象の施設だから。




