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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第三章 ハロウィン
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新しいアバター

スマホを見るとマリからメッセージが届いていた。どうやら例のそっくりさんが来ているようだ。


僅かばかりの残業を終えて退社する。部署によっては残業上等だそうなので今の職場環境に感謝だ。

同族経営の会社なので親族のコウは楽な部署に回されているのだろう、内資系の会社で経営者の身内って本当に恵まれている。権力万歳。出向先でも楽に働けると良いんだけど……。


道路が混んでいるので通勤は自転車。急いで帰宅したがそれなりに時間がかかってしまった。

家に入って手洗いうがいを済ませたら部屋着に着替えてヘッドギアを被り、ゲームを起動。


クランへの再加入など諸々の準備は既に完了しているため、ログインしたのはホームの寝室だ。


ベッドから身を起こすと腰まで伸びた白銀の髪が体の下敷きになって乱れていた。そのまま人前に出る訳にはいかないので寝室にある鏡を見ながら手櫛で整える。

以前より長くなったそれは美しくはあったが少々面倒にも感じた。後で髪留めでも探して一つに纏めておこう。


鏡に写された新しいアバターを観察する。キャラクリはマリに任せたのだが、消されてしまった前のアバターの十年後をイメージして作ったそうだ。


以前のアバターはほっそりとした中性的な体格に肩まであるサラサラのストレートヘアも相まって女性にも見えていたが(と言うか実際に女性だったのだが)、新しいアバターは長身で筋肉質なコウをベースにしている。この体格なら男性にしか見えないだろう。

──とコウは思ったが、実際にはアスリート系の筋肉なため白衣の上からでは判別し辛いし、コウは声があまり低くないせいか喉仏も目立たず、さらには顔立ちを前のアバターに寄せているため中性的なままであった。


(さて、行かないと……)


寝室から出て廊下を歩いていると、視界の端にお知らせアイコンが表示されていることに気がついた。メニューを開くとログインしていなかった間に行われたアップデートの通知が溜まっている。


『魅了』の仕様変更、出血描写の修正、痛覚設定の追加、匂いに関する仕様変更……やはり『魅了』は修正されたか。強力過ぎたからな。

今回のアップデートはコウにも関係がありそうなものが多いので詳細が気になるが、先に偽物騒動をどうにかしないといけない。具体的な修正内容は後でマリ達に教えてもらうことにして、コウは玄関へと歩みを進めた。



玄関を開けようとして、いつもの癖でドアノブを握ろうと指先が触れた瞬間、自動的にロックが解除されて扉が半透明になった。遠くに門に寄りかかるマリの背中が見える。

すり抜けて外へ出た後、振り返って確認した扉は元の飴色に戻っていた。


(ファンタジーだ……)


魔法の家って感じで面白い。何なら魔法を見るよりもファンタジーを感じた。

しかし扉を開けるという日常的な動作がないと違和感があるので、この件が片付いたらエストのホームは元に戻してもらおう。

慣れてしまえばタッチ式の自動ドアにしか感じなくなるんだろうけどね。非日常は偶に感じるくらいが丁度いいのだ。



ホームの機能にちょっと気分を上げながら門へと近づくと、こちらに対面する形となった青年とバチリと目が合った。青年は息を呑んで、信じられない、とでも言いた気に口をわなわな震わせていたが、やがて堰を切ったように何やら喚き出す。

遮音されているので何を言っているのか分からない。



「ホームの中だと聞こえないので、少々お待ちくださーい!」


と言っても向こうには聞こえていないだろうけれど、遮音されているのを伝えるために敢えて口を動かしてアピールする。あの錯乱状態でそれに気付いてくれるかは不明だが。

ところであの青年、どこか見覚えがあるような……? 誰だろう。



「どうして……お前はもう消した筈だ……!」

「えっ何で僕、幹部と戦って行方不明になった仲間みたいなこと言われてるんです?」


門を抜けて早々に漫画みたいなセリフを投げつけられた。意味が分からないんですけど?

てか誰? こんな知り合い居たっけ?


謎の青年は盛大に狼狽えているが、そっくりさんを撃退しに来たというのによく分からない状況になっていて困惑しているのは寧ろこちらの方である。

傍観していたケイに何があったのか聞こうとしたのだが、コウの返答がツボに入ってしまったのかふるふると震えながら笑いを堪えていて話せそうにない。


役に立たない男達を見かねたマリが話を進める。


「ご覧の通りコーエンは新しいアカウントを取得しましたので、先程の方は『成りすまし』だったのだと思います。最近、経営しているカフェであの方が従業員に執念く絡むから困っていたんですよ」


そんな……と力なく呟いた青年だったが、すぐさまコウに詰め寄って来た。


「いや、さっき削除してからタイムラグがありますよね。今また作り直したんでしょう!?」

「え? すみません、何の話ですか?」

「スタッフさん、コーエンの瞳をよく見てください。こんな凝ったキャラクリが数分で完了する訳ないでしょう」


いや本当に何の話? 今来たばかりで状況が分からない。

とりあえずこのキラキラおめめを見せればいいのか?


「お前の成りすましが、お前だと思われて削除されたんだよ。たった今な」


マリ渾身の力作、パライバトルマリンの瞳で青年をガン見していると、笑いの波がおさまったケイが端的に説明してくれる。

漸く理解できた、ならこの人はこの前のスタッフさんか。遅くまでお仕事お疲れ様です。あんまり頑張り過ぎないでね。


「例のそっくりさん、不正ツール?ってやつをやってたのか」


それをこのスタッフさんが暴いてくれたって訳ね。働き者だなぁ。

成りすましなんてするくらいだから他にも何か悪どい事をしていたのだろう。

そう納得したコウだったが、ケイは首を振ってその考えを否定した。


「いや、それは分からないな」

「なら何で削除されたの?」

「お前に間違われたからだな」


思考がフリーズする。

どういうことなの……。


「……え、僕って存在するだけで許されないの……? 何で……?」


いや本当に何で? あまりにも理不尽過ぎない??

運営スタッフに目の敵にされるって、もう世界が殺しに来てるレベルじゃないか。



「本当に申し訳ございません……!」


青年の上司、再び。である。

上司ではなく先輩かもしれないが、女性スタッフが現れて開口一番に謝罪する。深々と頭を下げる彼女には、同じく青年に振り回されている者として同情を禁じ得ない。

頭を上げてもらい、二度とこの様な事が起きないように対処するという事で話をつけた。

今回削除されたのは僕じゃないから、特に怒りも無いしね。寧ろ成りすましを消してくれて助かったまである。


女性スタッフと話している間、青年は不貞腐れた顔でボーッと突っ立っていた。


どうしてこの青年はこうも考え無しに動くのか甚だ疑問である。つい先日問題になったばかりだというのに、全く同じ行動を何故また繰り返したのか?

これほどまでに愚かな社員を持ってしまったゲーム会社が可哀想だ。無能な働き者は仲間を殺すって本当だな。

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