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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第三章 ハロウィン
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利用規約をよく読んで(マリ)

運営らしき青年を真っ直ぐに見つめながら、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。開きっ放しのメニューには現在の心拍数が表示されており、普段より少し高いそれがマリの緊張を示していた。


(落ち着け……大丈夫、バレない。証拠なんて無いんだから)


平然として見えるマリだったが内心かなり焦っている。と言うのも、実は不正に心当たりがあったからだ。


(アカウント『譲渡』なんてバレる筈ない……!)


ゲームの利用規約ではアカウントの売買、譲渡、交換、複数人での共有を禁じていた。

ケイとユキに渡したソフトは未プレイでデータが空の状態だったから問題は無い。しかし、コウに譲ったソフトは別だ。


コウのアカウントは元々マリが使っていたもの。つまり、アカウント譲渡である。


マリはコウに譲った後でその事に気付いたのだが、普段あまりゲームをしないコウが珍しくハマっていたので見て見ぬふりをしたのだ。

一応、突然BANされないか不安になって調べたところ、他人のアカウントではログインできない仕様なのでアカウント譲渡でのBANの前例は見つからなかった。


本来なら他人のVR機器に接続された状態でログインすると「アカウントIDとご使用のVR機器のIDが違うため、ゲームデータがリセットされます。現在のキャラクターを消去しゲームを最初からやり直すことになりますが、それでもよろしいですか?」と通告され、それに従ってソフトを初期化するとアカウントの再取得が行われるらしい。


中古のソフトはそうして初期化されるのだが、コウの場合はVR機器もマリのお下がりだ。そしてVR機器は買い替えてもデータが消えないように購入者の固有IDが紐付けられる。

コウはソフトとVR機器のアカウントIDがどちらもマリのものだったためログインできてしまった。システム的にはマリのサブアカウントとして扱われたのだ。



「……嘘だ」


呆然と呟く青年に目を向けながら、この場をどう切り抜けるか思案する。早いところログアウトしてコウと情報共有をしたい。


「嘘だ、そんなのでまかせ……っ!?」

「失礼します」


荒げようとした声を遮ってスーツ姿の女性が現れた。彼女はそのまま、流れるような動作で頭を下げる。


「申し訳ございません。こちらの手違いで大変ご迷惑をおかけいたしました」


青年が所在なさげに俯いた。

急に大人しくなった彼に、もしかすると彼の上司だろうかと当たりをつける。


「スタッフの方でしょうか?」

「はい。詳しく調査しましたが、コーエン様のデータには改竄された形跡はありませんでした。改めてお詫び申し上げます」


その言葉に一瞬ひやりとしたが、調べられても問題なかったのならアカウント譲渡の件もバレてなさそうだ。


……ところで、コウは何処へ飛ばされてしまったのだろうか?

漸くコウの心配をできるようになって尋ねたが、女性スタッフは気まずそうに目を伏せる。


「コーエン様は現在ログアウトしているようです。……その、大変申し上げ難いのですが……アカウントを削除してしまったため、ソフトに保存されているデータがリセットされてしまいました。本当に申し訳ございません!」

「え」


いやどうするよこれ。ていうか放送してて大丈夫なのか。一人のスタッフが大暴走してアカウントを勝手に削除するって結構な問題では?


平謝りで説明してくれた彼女曰く、地形やアイテムなど全プレイヤー共通のデータは運営のサーバーに、そうでないデータは各々のソフトに保存されるらしい。

具体的に言うと、レベル、スキル、所持金、アバタースキン、NPCとの交流データ、そしてイベントで得たポイントが消去されたようだ。所持金の大半はパーティ資産として預けていたのと、イベントで得たポイントは全てレアアイテムやホームの備品に変えた後だったのが不幸中の幸いだろうか。


「えっと……私からは何とも言えないので、一度ログアウトして本人に聞いてみますね」

「お願いします……」


安全なホームの中にいるのでログアウト中のアバターは心配せずとも問題ない。その辺にあった適当な椅子でログアウトする。

現実世界へと意識が浮上してVRカプセルから出ると、コウはすぐ側のハンモックでのんびりと寛いでいた。


「ケイの生配信で状況は把握してるよ」


ひらりと端末をふって画面を見せた後、ゆったりと体を起こしながら大きく伸びをしている。自分の事なのにちょっと呑気過ぎやしないか。


「アバターの体格が違うからちょっと違和感あったんだよね。キャラメイクやり直す前に、VRショップ行ってスキャンデータの更新したいな。今保存されてるのマリのデータだから」

「え、あ、うん。ついでにVRアカウントも再設定しようか。……あと、私のデータを引き継いだのは内緒にして欲しいの。本当は規約違反だったから」


あまりにもあっさりとした反応にこちらが面食らってしまう。反射的に返事をすれば、いいよ、と大して気にした風でもなく相槌を打つコウ。


「どうしたの、スタッフさん待たせてるなら早く行かないとでしょ」

「うん……それでいいの?」


全くショックを受けていない様子にマリが頭に疑問符を浮かべていると、目が合ったコウがふっと笑った。


「いきなりデータ飛んだ時は流石に驚いたけど、丁度良い機会かと思ってね」

「良い機会?」


益々よく分からなくて困惑するマリにコウが向き直る。


「折角アバター貰った手前、言い出せなかったんだけどさ。ユキが手探りでゲーム進めてるの見て、実はちょっと羨ましかったんだよね」


折角だから最初からゲーム始めることにするよ、と前向きに笑うコウに、マリも漸く安堵して微笑んだ。

再びVRカプセルへと体を横たえながら、思う。


(私の夫、人生二週目なのかな……私だったらプレイ中のデータ勝手に消されたら絶望するしブチ切れてるわ絶対)


規約違反を犯しているこちらが100%悪いので完全なる逆ギレである。人間が出来ていない妻で申し訳ない。

今後は利用規約をよく読んでゲームをしよう、と流石のマリも反省したのだった。

アカウントの売買・譲渡は規約違反の場合が多いです。特に売買は不正プログラムが使われていたり、個人情報を抜くためのウイルスが仕込まれていたりするので危険です。


たとえ家族でも自分以外のデータを使うのは良くないので、コウのリセットは必ず書こうと思っていた話です。BANさせたかったのですが、家族間での譲渡なら証拠がないと思ったのでリセットだけにしました。

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