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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第三章 ハロウィン
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鎮圧

儘ならない現状に歯噛みしながら扉に掛けた手を下ろす。ベッドに横たわる現実の体はきっと冷や汗をかいていることだろう。

ただでさえチップで指名手配されている身の上だ、エストでまで揉め事を起こすのは避けたい。


それに騎士団が大丈夫だったとしても問題はそれだけではなく、ホームの外にある庭では錬成の素材である花や薬草を栽培しているのだ。

庭もホームの敷地に含まれるため許可した者以外は侵入できず盗まれる心配は無いが、屋内と違って庭に植えた植物は成長したり枯れたりと時間や環境で変化する。

手に入りにくいものや高価なものを中心に栽培しているので、ゴーレムが庭で暴れて希少素材をめちゃくちゃにするのだけは何としても阻止せねばならない。



背後からはガシャガシャと重たい金属音が鳴り響いている。

追い立てられているようで若干のホラー感はあるが、落ち着いて考えれば此方の方が遥かに速度値が高いので逃げ回るのはそう難しくない。


どうせ外に逃げられないならと、一度寝室に戻って置き去りだった大楯を回収してゴーレムと対峙することにした。多少動きは遅くなるが一撃で倒される今よりはマシだろう。


金属音が段々と近づいて来たので、狭い場所は不利と考えて一番広い音楽室へと誘い込む。

部屋の中央で暫く待ち構えていると鉄色に鈍く輝く体が姿を表した。


作っていたときは合理性を突き詰めた形状に対して特に何か思う事はなかったが、こうして相対してみると中々に悍ましい形だ。

核さえ奪えれば動きを止めることができるのだが、ゴーレムの胸に貼り付けた核は偶然にも椅子の背もたれとの間に挟まれてしまっている。外すのは至難の業だろう。


両腕を広げてにじり寄るゴーレムを慣れない大楯で押し返していると、キィ、と扉の音が聞こえた気がして半ば反射的に『魔力視』を使用する。


しかし、扉を確認しようと気が逸れたその一瞬が命取りだった。鉄の塊が圧倒的な質量を持ってコウヘと襲いかかる。


広げた両腕でコウを捕まえたゴーレムが体全体でのしかかってきた。


「ぅぐ……っ!?」


連結したゴーレムに押し潰されそうになりながら呻く。

文字通り決死の抱擁を試みるゴーレムを大楯で食い止めるも、腹立たしい事に非武装のゴーレムの方が大楯の恩恵で防御力が大きく上がっている筈のコウより若干優勢だ。


椅子を追加したのが一体だけだったのが不幸中の幸いか、掴みかかってきたのは先頭の個体だけなので何とか耐えているがHPが少しずつ削られている。リスポーンするのも時間の問題だろう。



ギギィ、ギシッ。



不意に油切れの機械が軋むような音がしてゴーレムの力が弱まり、パッと光が散ったかと思えば危険水域に達していたHPバーがぐんと回復した。きっとユキ達の支援に違いない。


(だけど、ここからどうすれば……!?)


延命にはなったが、結局のところゴーレムを上回るパワーがないと止める事は出来ない。


懸命に打開策を探していたその時、ゴーレムの背後から革手袋を着けた小さな手が差し込まれ──そしてなんと、ゴーレムの片腕を掴んで肩関節を力任せに捻じ切る。

引っこ抜かれた片腕は核との接続が切れた粘土が弾性を失ってぐにゃりと溶け出し、肘から先のパーツがボトボトと床に落ちた。



「マリ……」


パワー系過ぎる。

確かに関節は他と比べて脆弱性があったが、ゴーレムの一部である内はステータスの防御値によって補正が入るため粘土の部分でもそれなりに頑丈だったのに。


ギ、ギ、ギ、と緩慢な動作で振り返ったゴーレムに追い打ちをかけるようにミドルキックをお見舞いしたマリは、どうっと横倒しになったゴーレムを冷めた眼差しで一瞥して掴んだままだった腕をぽいと投げ捨てる。

呆気に取られるコウをよそに床に伏すゴーレムの腰をぎりりと踏みつけた彼女は、そのまま溶接された椅子を掴んで上半身を無理矢理引き上げた。


ブチブチと音を立ててゴーレムの上半身と下半身が別たれる。

腰に連なっていた他のゴーレム達は同胞が解体されていても特に抵抗する様子は見せず、打ち捨てられた下半身の腰パーツを掴んだまま移動形態を保っている。どうやら先頭の個体に従っている訳ではなかったようだ。


「ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして〜」


椅子付きの胴体と片腕だけになったゴーレムは未だHPが尽きていないらしく仰向けのまま片腕でずりずりと床を這っていたが、マリの手によってあっさりと残りの腕を捥がれて動かなくなった。


因みに頭部には申し訳程度の粘土塊が付いている。ゴーレムは五感を持たず魔力を感知して行動するので目や耳をつける必要は無いが、パーツが不足するとHPの最大値が減少しまうからだ。



「筋力は全てを解決する」



解体を終えたマリがドヤ顔で言い放つ。

現実では米袋すら運べないのというのに得意気なのが可愛い。


「底上げしてやったのは俺だけどな」


部屋に入って来たケイが呆れたように言った。なるほど、あの素手でゴーレムを捩じ伏せる滅茶苦茶なパワーはそういう事だったのか。


続くユキは周囲を見渡して苦笑している。部屋の中はゴーレムのパーツや粘土、戦闘で薙ぎ倒された家具などが散乱して酷い有様だ。


「うわー、これは凄いねぇ」

「すぐ直るから大丈夫。火魔法乱発してホームが全焼しても一時間くらいで元に戻ったらしいよ」

「やった奴いんのかよ」


ホームって便利なんだね、と感心したように言ったユキの言葉に応えるかのように家具がふわりと浮かび上がる。

驚くユキの眼前で、荒れていた部屋はあっという間に元の状態へと戻った。


「こういったアフターケアがあるからホームは高いんだよね。でも防犯は完璧だし劣化もしないからどうしても欲しかったの。購入資金貯めるの滅茶苦茶大変だったよ」


マリが肩をすくめる。

彼女が立派な屋敷を持っていた謎が今解けた。


ホームは基本的にクランなど大人数のプレイヤーで一軒購入するので小さい家はそもそも売っておらず、購入するにはかなりの額が必要である。一度買ってしまえば宿泊費などが無料になるのを考慮しても宿屋や貸倉庫を使った方が安上がりだ。

三十年も住めば元を取れるだろうが、その頃までこのゲームを続けているとは流石に思えない。


マリは衣食住にあまり興味が無く、一人暮らししていた頃は防犯対策と寝るスペースさえあればいいと言ってお金はあるのに狭いワンルームで満足していた。そんな彼女がゲームだから維持費はかからないとはいえ何故こんな広い洋館を買ったのかずっと不思議に思っていたのだ。


「実際、田舎の安い土地を買って家は自力で建てる奴もいるみたいだぞ。デカい町だと他のプレイヤーに狙われたりNPCの泥棒に入られたりするが田舎町なら割と大丈夫らしい。町の外に建てるとモンスターに壊されるけどな」


手作りの家で自給自足のスローライフをしているプレイヤーもいるのだろうか。自由度が高いゲームは人によって全く違う遊び方をしているから面白い。

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