暴走するゴーレム
ユキ達が次のイベントについて考察していた頃、工房に入ったコウはマリお手製のモンスター図鑑を読んでいた。
『ゴーレム。分類:魔物、非生物系、人形種。魔石を核として土や石などが集まり、人型をとって自立行動するようになったモンスター。物理攻撃が得意。
核である魔石を破壊しないと討伐できないため、ゴーレムとの戦闘では魔石の位置を把握することが重要。ただし魔道具のように魔石の魔力が尽きると休眠状態に入ってしまうので、テイムした場合は魔力の残量に注意する必要がある。
体を構成する物質は取り換える事が可能。より硬度の高い物質を取り込もうとする性質があるため鉱脈に集まる事が多い。
長らく鉱物を食べていると思われていたが、取り込んでもエネルギーに変換しないため現在では防具のように装着しているだけだと考えられている。
捕食行動を取らないので非生物系の分類だが、近縁種であるドールは他生物の生気を摂取して活動するためアンデット系に分類される。生物系モンスターのスライムもゴーレムと同様に魔石を核とするため、実はこちらも近縁種ではないかという説が──』
何度も読んで既に頭に入っている内容だが、マリが新しい情報を得る度に更新されているので時々確認するようにしている。
最近ではそれに気付いたマリがメモ帳に更新箇所を記録してくれるようになったので有難く活用させて貰い、コウも読んだ日を改訂日が書いてある行の下に書き残した。
メモ帳を閉じる前にインクを乾かそうとして、この世界ではインク移りなんてしないことに思い至る。あまりにリアルな質感についつい忘れてしまいそうになるが此処はゲームの内なのだ。
試しに指先で書いたばかりの文字を辿ってみたが、インクが掠れる事は無かった。
メモ帳を仕舞うと複数の足音が廊下を通り過ぎて行った。屋内でも靴を履く世界観なので乾いた革靴の音がよく響く。
続いて玄関の方で扉が開閉する音が聞こえたので三人が出て行ったことを確認し、工房の隅に置いてある木箱からゴーレムを五体取り出した。
自然発生した野生のゴーレムは瓦礫を土で固めたような姿をしているが、このゴーレムは複数の金属板を人型にして関節部分を粘土で繋げている。
金属板を使用した理由は単純で、コウの錬成アーツ『金属加工』で変形できるギリギリの厚さだったからだ。これ以上は『鍛治』スキルの領域という事だろう。
ゴーレムは核を壊さない限り周囲の土や石を取り込んで再生し続ける。しかし生きているゴーレムから核を抜き取れば、核に土や石を触れさせない限り行動を止めることができ、そして取り出した核を別の体に移すと新しい体で再び活動を始めるのだ。
このゴーレム達の核は胸の中央に粘土で貼り付けてある。弱点が剥き出しになっているが試作品なので問題ない。
急ぐあまり取り出す時に粘土を少し床に溢してしまったが、ホームは汚れたり壊れたりしても元に戻る仕様なので数秒もすれば綺麗になるから安心だ。
(マリが戻ってくるまでに完成させて驚かせたいけど、どのくらいで戻るか分からないな。早くしないと)
以前マリが零した「重量オーバーによる速度低下を無視できないか」という言葉から着想を得たコウは、密かに移動用ゴーレムの作製を進めていたのだ。
しかしマリの総重量は約50。筋力50で速度も高く、欲を言えば乗ったまま戦闘しても壊れない程度には防御と精神も上げておきたい。だが、流石にそんなゴーレムは現在のスキルや素材では不可能だ。
そこでこのゴーレム達を使って重量の仕様について検証を行い、その結果、中々面白い解決策を見つけた。
──それは『合計筋力値が50の集団で一列に並び、先頭がマリを運んで残りは前の者の腰を掴む』という方法である。
当たり前だが、重量20の荷物は筋力10の者が二人居れば速度低下を受けずに運ぶことができる。しかし、持ち上げるのがどちらか一方でも、残った者がもう片方を両手で掴んでいれば速度低下を受けなかったのだ。
不思議に思って条件を変えながら何度も検証したところ、どうやら一緒に運んでいる扱いのようだ。システム的には『板に乗せた荷物を二人で持つ』のと『荷物を持つ誰かを支える』のは、どちらも『間接的に運んでいる』と判断されるらしい。
「一列に並べ」
休眠状態だったゴーレムが魔力を与えられて動き出す。声帯を持たない彼等は言葉を発する事なく静かに整列した。
『テイム』を持たないコウの指示に彼等が従うのは、活動状態に戻す前に『惚れ薬』をかけたからだ。繁殖しないゴーレムが魅了にかかるのは釈然としないが、仕様なのでそういうものだと受け入れるしかない。
「移動形態」
命令の通りに隊列を組んで動き出すゴーレム達。以前教えた形態もちゃんと覚えているようだ。
『移動形態』は薄い上半身をお辞儀をするように前のゴーレムに重ねながら両腕で胴体をホールドする、パッと見は鉄色のムカデのような形態だ。戦闘に入っても被弾を減らせるようにした形態だが、ここで偶然にも板状の体が活きている。
「僕を部屋の反対側まで運びなさい」
共有倉庫にあった大楯を取り出して再び命令する。コウ自身は速度低下を受けているが、先頭のゴーレムは大楯を持つコウを軽々と持ち上げて運んだ。
(動作は問題なし。あとは先頭の個体に座席を溶接するだけだ)
痛覚を感じないゲームとは言え金属板の腕にホールドされ続けるのは辛いと思うので、座り心地には拘りたい。マリのためにふかふかの椅子を取り付けてあげよう。
しかも先日エストの高級家具店で購入したこの椅子は、座っている間『HPとMPの自然回復速度上昇』という効果を持つ中々有用な魔道具なのだ。重量10という大楯並みに持ち運びに適さないデメリットもゴーレムに取り付けてしまえば解決だ。
椅子の骨組み部分の表面を『金属加工』で少し溶かしてゴーレムの胸に押し付け、仮固定する。続いて針金で接着面をなぞりながら溶かし、はんだ付けしていく。
突然、ゴーレムが動いた。
「え?」
何故かホーム内の寝室に飛ばされて困惑する。リスポーンにしか使わないのでベッドが四台並んでいるだけの殺風景な部屋だ。
バグで瞬間移動したのかと思ってログを見ると、どうやらモンスターに殺されたらしい。加工に集中していたので何が起きたのか分からなかったが、どう考えても原因はあのゴーレムだろう。
(『惚れ薬』の効果時間はまだ切れていない。直前までは問題無かった事も考えると、最後に足した椅子が良くなかったのか……?)
ゴーレムは体を構成する物質によってステータスが変わる。もしかすると、椅子に使われていた素材がゴーレムに何らかの影響を及ぼしたのかも知れない。
一緒にリスポーンした大楯は移動が遅くなるので置いていこう。
とりあえずゴーレムを確認するべく寝室を後にしたが、工房の扉を開けた瞬間に飛び出してきたゴーレムに掴み掛かられ、そのまま鯖折りにされて再びリスポーンする。
(いや無理!!)
パーティメンバーに救援要請を送ろうとチャットを開いた瞬間、廊下からガチャガチャと金属音が聞こえてきた。
寝室に入られると詰むのでチャットを送りながら慌てて退避し、やっとの思いで玄関に辿り着いて扉に手を掛けたところで、はたと気付く。
(このゴーレムはきっと外まで追いかけてくる……暴走するゴーレムを町に放ったとなれば騎士団に目をつけられてしまうのでは?)




