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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第三章 ハロウィン
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収穫祭と身バレ防止

「来週からハロウィンイベントだって」


闘技大会から暫く経ったある日、偶然エストのホームに四人が揃った。と言っても特にやる事は無いので各々好きに過ごしていたところ、運営からのお知らせを見ていたマリが唐突にそう切り出す。

ウィンドウから目を離さないままこちらに投げかけられた言葉に、工房へ行こうとしていたコウは首を傾げた。


「ちょっと早すぎない?」


そう、八月下旬の闘技大会から然程経っていない現在は、まだ九月に入ったばかりだ。

いくら何でもハロウィンには早すぎやしないだろうか。


「イベントムービーにジャック・オ・ランタンっぽいのが映ってたから、ハロウィンをイメージしたイベントなのは間違い無いと思うんだけど……」

「ムービー公開されてるんだ? 俺も見ようっと」


ユキがウィンドウを開く。

ケイが話に入って来ないと思ったら、同じようにウィンドウを開いているので既に視聴中だったようだ。


「まずこの世界にハロウィンって存在するの?」

「そこまではお知らせに書いてないなぁ」


この国特有の行事なら時期が違ってもおかしくはないと考えて尋ねてみたが、マリにも分からないようだ。

だがハロウィンを踏襲したイベントなら、慰霊祭のような内容だろうか……そう考えた丁度その時、ユキがイベントムービーを見ながらなんて事のないように話し始めた。


「俺これ知ってるわ、正確にはハロウィンじゃなくて神々へ捧げる収穫祭らしいよ。ダニエルが言ってた」

「誰だよダニエルって」


ケイの極真っ当なツッコミをしれっと流したユキが教えてくれた話によると、今年の感謝と来年の豊作祈願を込めて捧げ物をする神事が来週から始まるらしい。

九月から十月末にかけて王国各地で行われ、ユキも既にその手伝いに駆り出されているのだとか。


「じゃあイベントは捧げ物を集めたりするのかな」

「でもそれだとハロウィン要素無くない?」

「元々ハロウィンって収穫祭の一種だったと思うから、そこまで変じゃないと思うけど」


僕はユキの話で納得したが、マリ的にはハロウィンと言われればオバケやお菓子のイメージが強く、イベント内容に違和感を感じているようだ。確かに現代でハロウィンを収穫祭として祝っている人がいたら相当珍しいだろうな。

そんな不満気なマリを見たユキがケラケラと笑って説明を続ける。


「オバケも出るよ。てか冒険者はそっちがメインかもね。カボチャやサツマイモを使ったお菓子を作ったり、この時期だけ咲く【お菓子の花】を捧げたりするんだけど、フィールドではお菓子を狙うオバケみたいなモンスターが出現するんだよ」


それを追い払って【お菓子の花】を採取するというクエストが毎年神殿から冒険者ギルドへ発行されるらしい。イベントムービーから察するに、恐らくそれがハロウィンイベントの内容だろう、とユキは締め括った。


「ハロウィンぽいしそれなら納得。ところでお菓子の花って保存できないのかな? 普通にインテリアとして欲しいんだけど」

「アイテムは腐らない筈だけど、どうだろうね。イベント専用アイテムなら回収されちゃうのかも」


確かに、ムービーに映っていたお菓子の花は中々可愛らしく、女性ウケしそうな見た目だった。うちのカフェに置いても映えるだろう。


そんな風にマリと取り留めのない話をしていると、ユキがケイを見て何か考え込んでいた。

急に見つめられる形となったケイが首を傾げ、緩くウェーブのかかった白髪が天井に吊り下げられた魔導ランプの灯りを反射しながらさらりと揺れる。


「ケイってさ、他の配信者と一緒に王都にいなくて大丈夫なの? 最近ここに入り浸ってるじゃん」

「それを言うならお前だってそうだろ。チップに戻らなくていいのかよ」


そう聞き返すケイの目元は現実とは少し変えられている。前髪はセンターで分けられてクロムトルマリンの瞳を晒しており、黒に近い深い緑は夜の森を思わせる幻想的な色合いだ。


大会まではスキャンデータをそのまま使っていた彼だが、大会で得たポイントで【整形券】を入手してマリにアバターの調整を頼んだのだ。

本人は「身バレ防止のため」と言っていたが、多分一人だけ仲間外れだったのが寂しかったのだと思う。その証拠に髪色まで変えている。

【整形券】で変更できるのは顔だけで髪色は変えられなかったため、コウやマリの白に近い銀髪やユキの金色がかった白髪とは違って王都の美容室で変更できる純白の髪だ。


「偶に戻ってるけど、チップに居続けても成長しないから先の町へ進めって言われたんだよね。最近はエストで聖水関連のクエスト進めてるよ」

「そうか。俺は撮れ高のためだよ、コウが出てから再生数が上がったからな」

「ええ……それでいいの?」


ユキは胡乱な目を向けたが、ケイはどこ吹く風といった様子で答える。


「配信者で組んでるって言っても普段はバラバラに行動してんだよ。ホーム買ったり格上と戦う時に協力し合ってただけだ」

「そうじゃなくて、ケイの配信なのにコウに人気奪われて平気なのかが疑問なんだけど」

「特に気にならないな。元々俺は音楽系の配信やってるから、ゲーム実況はメインで撮ってないし」


再生数が増えたのはケイが顔出し(素顔ではない)した影響もあると思うが……まぁどちらにしろ、僕にとっては大して興味の無い話だ。そう内心考えているとユキがこちらに話を向けてきた。


「コウは映されてもいいの? 目立つのあんま好きじゃないでしょ」


心配してくれているようだが、実を言えばそこまで気にしてはいない。


「目立つの自体は平気。絡まれるのが嫌いなだけだよ。それに現実とは似ても似つかないアバターだしね」

「そっか、コウが納得してるならいいけど。──マリは顔出しして大丈夫?」

「ん、私? まぁスキャンデータそのまま使った訳じゃないから平気」


『コーエン』のアバターはマリに似てはいるが、身バレしないよう調整でかなり雰囲気を変えているので生き写しという程でもない。『マリオン』のアバターも同様だ。

そもそも顔や声には若干の補正が入るので、リアルに寄せようとしても何処と無くデフォルメされたアバターになる。声も電話越しのように少し機械っぽくなるので、特徴があるか知り合いでもなければ特定は難しいだろう。

これはVRゲームで他人の容姿を使った犯罪が横行したことから施行された法律に基づいた措置である。


「つーかそんな目立つ顔でもないだろ」


ケイが面倒そうに言う。言い方は悪いが実は割とその通りではあった。

マリはやや童顔寄りの整った顔立ちなのだが、それはつまり突出した特徴の無い顔立ちという事でもある。自己主張の激しい美男美女で溢れているプレイヤーの中では寧ろ印象に残らないタイプの顔立ちだろう。

声も何処となく年齢や性別が判りにくい。肉声だとやや高めの可愛らしい女性声なので、自動補正との相性だろう。


そしてユキが使っている『ユクテスワ』のアバターは現実のコウに寄せているが、似ているのは雰囲気だけで顔立ち自体は別物だ。髪色も声も話し方も、体格すら全くの別人なので、たとえ知り合いに会ったとしても現実のコウやユキと繋げて考える人はいないだろう。


「もし身バレするとしたらコウの声でだろ」

「僕?」


そんなに特徴的な声だろうか。自分ではよくわからないのだが、マリは「あーわかる」と同意しながら教えてくれた。


「特徴的っていうか声優みたいな良く通る声してるよ。主人公感はないけど、主人公の友達くらいにはいそうな声」

「俺は黒幕っぽい声だと思ったがな。敬語の時とか特にそうだ」


いや黒幕って……ケイの遠慮の無い感想にユキが爆笑している。ちょっと失礼過ぎやしないか。


「いるいる! 仲間のふりして最後に裏切る奴だ!」

「無駄に爽やかなのが益々怪しく感じんだよ」

「私は素敵な声だと思うよ、優しそうで」

「マリ……!」


どうやら味方はマリだけのようだ。同情するようにフォローしてくれたマリが此方に向かって両手を広げたので、ハグしようとその胸に飛び込んだところバチリと跳ね返される。



セクハラ防止システムで弾かれた挙句、管理AIから警告まで出されてしまったコウはふて腐れながら工房へと向かったのであった。

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