第一回闘技大会 表彰式2
「それでは第1位!」
試合をすっぽかしたため優勝者と直接顔を合わせる事は無かったが、対戦表によると長い黒髪をポニーテールにしたクール系の顔立ちの青年だったはずだ。
「レイン! おめでとうございます!」
思った通りの相手がコウの隣に現れる。と、何故か彼がこちらを見て少し目を細めた気がした。
(急にスポットライトの下に来たから眩しかったのかな……?)
それより彼の肩に透明な何かが乗っているのが魔力視で見えることの方が気になったのでその思考は流れた。
ボリューミーな尻尾にふわふわの大きな耳、シルエットから察するに恐らく狐系のテイムモンスターだろう。尻尾が複数あるような気もするが、魔力視のレベルが低いのでハッキリとは分からない。
鑑定しようとしたが魔力だけ見えていても鑑定はできないらしい。
魔力視は人やモンスター、魔石など、魔力を持つものの周りにオーラのような揺らぐ光が見えるスキルだ。魔力の色は属性ごとに違うのだが、狐らしきソレは特定の属性ではない薄紫の光を纏っているので属性魔法での攻撃は行わない可能性が高い。
「それでは一言お願いします!」
インタビューが始まると、今度は間違いなくコウを睨むように見遣った彼が静かに宣言する。
「俺は相手の不戦敗で1位になったが、納得はしていない。ちゃんと戦った上で勝敗を決めたい」
「……えーっと、確認しますので少々お待ちください」
彼はどうやらコウと対戦したいらしいが、司会役は突然の話にまごついている。しかし彼は不憫な司会役を放って続けた。
「なぁ、あんたはどうなんだ。不戦敗で納得しているのか?」
その男はこちらに真っ直ぐ向き直って問いかけてくる。
そう言われてもな……。
「僕以外にも、予定が合わなくて出場できなかった人は居ると思います。僕だけが特別扱いされるのはフェアではありません」
「……成程」
「それに僕は自分の意思で棄権しました。それに伴うペナルティも理解した上で、それより重要な用事だと判断したからです。ならばその結果も受け入れるべきです」
プロとしてやっている訳でもないコウにとって、ゲームはあくまで遊びの一種だ。それより家族を優先するのは至極当然の事だと思う。
「そうか。だがそれを聞いて益々あんたと戦いたくなったよ」
はぁそうですか……割とどうでもいい話だ。
此方としては戦っても戦わなくてもどちらでもいいので、この時間を早く終わらせてほしい。晒し者にされるのは好きじゃない。
と言うかここでグダグダする事で好感度が下がってカフェの客入りが減ったらどうしてくれるのか。
「お待たせしました。確認したところ、ポイントの配布が既に完了しているので順位の変更はできませんが、表彰式の後に試合を行えるように取り計らう事はできます」
「なら良いだろ? 戦ろうぜ」
「運営の方で問題が無いのであれば、僕は構いませんよ」
こんな我儘に付き合ってわざわざ確認までしてくれた司会者には頭が下がる思いだ。
コウの返答に満足そうに頷く彼……レインだったか。順位も変わらないので何故試合を行う必要があるのか全く理解できないが、何か彼なりのポリシーがあるのだろう。
「では続きまして──」
事態が丸く収まったので、司会が安堵したように進行を続ける。
(今の内に鑑定しておくか……)
レインの職業は『中級召喚士』と『中級弓士』だった。装備品の質は悪くないが特殊なスキルは付与されていない、よくある店売りの品のようだ。
ステータスは技術値に極振りしている。攻撃系のスキルはあまり育っていない代わりに支援系のスキルレベルは高めなので、テイムモンスターをメインウェポンにしているのだろう。
また、コウよりレベルの高い『魔力視』スキルがあるので、自分のテイムモンスターの位置は把握していると思われる。
(変則的な召喚士といったところか……弓はあまり警戒しなくてもよさそうだ)
『騎乗』というスキルを持っているので、普段は速度値の低さをテイムモンスターに乗って移動する事で補っているのかも知れない。
速度値がかなり低く回避スキルも無いので、高レベルの投擲を避けるのは難しいだろう。試合開始と共に攻撃を仕掛けるのが効きそうだ。
「……表彰が全て完了しました。これにて第一回闘技大会を終了します!」
表彰式終了後。最後は拍手で締めくくられてプレイヤー達が次々に転移で戻っていく。
そんな中、コウとレインだけが場内に残された。
司会者に促されて表彰台から降りるとずらりと並んでいた全ての台がパッと消えて、同時に司会者の姿も見えなくなる。
《これよりレイン対コーエンのリベンジマッチを開始します。お二人共、準備はよろしいでしょうか?》
「いつでも大丈夫だ」
「こちらも問題ありません」
どこからか聞こえる声に答えるとコウの体がフィールドの端に転移した。レインも反対側の端に移動させられている。
《それでは、試合開始!》
先ずは小手調べに棒手裏剣を数本纏めて投擲する。
さて、どう出るだろうか──と思ったのも束の間、なんとレインは全ての棒手裏剣を的確に射落とした。
「わぁ! 凄い!!」
まるで曲芸のようなそれに思わず感嘆の声が口をついて出る。
ステータスや動体視力向上などの補助スキルによる補正もあるだろうが、MPは全く減っていないのでアーツではなく自前の技術なのがまた凄い。純粋に感動した。
「ありがとよ」
素直な気持ちで出た言葉だったのが伝わったのか、少し困ったようにお礼を言われた。もしかして照れてる……? 意外と面白い人だな。
しかし困った。
棒手裏剣は攻撃力が低いので数本当たったところで出血が入らないと大した効果は無いし、爆薬を投げても効果範囲に入る前に射抜かれてしまうだろう。
「今度はこっちから行くぞ!」
打開策に迷って手が止まるコウにレインが次々と矢を射かけてきた。
(仕方ない、接近戦に持ち込むか)
距離を詰めようと走り出すと、僅かに彼の表情が翳る。やはり近距離での戦闘には慣れていないのかも知れない。
飛んでくる矢を回避するのは容易かったが、彼の肩から飛び降りた透明な影がぶるりと身を震わせると大型犬ほどの大きさに膨れ上がり、彼の前に出て体勢を低くしたのが見えたので警戒を高める。
(──今だ!)
透明な影と接敵し、飛び掛かってくる瞬間にタイミングを見計らって右手に握ったアイスピックを振り抜く。
「ギャン!」
「何だとッ!?」
パリィ成功に加えてクリティカル攻撃まで入った。
スタンしたらしくどさりと地に伏せたソレを確認するより先に、弓の握りと弦の間にアイスピックごと右手を突っ込んで弓を引かせまいとする。そのまま予期せぬ展開に狼狽えるレインの喉に左手で取り出した『獣寄せ』を叩きつけた。
「うっ、何だこの匂い?」
この至近距離で外す訳が無い。甘ったるい匂いに警戒する彼から素早く距離を取って巻き込まれないように避難する。
「グォオン!」
「は……?」
直後、獣寄せで正気を失ったテイムモンスターがレインに襲いかかった。咄嗟に腕でガードしたようだが獣寄せがべったりと付着した喉を執拗に狙われて身動きが取れずにいる。
テイムモンスターが透明なせいで一人でドタバタしている非常にシュールな光景になってしまっているが、本人は真剣だ。
「おい、イナリ! くそッ何をした……!」
その質問には答えずに手持ちの全ての爆薬を投げつける。避ける事も射落とす事もできない状態で直撃したレインは、爆音と共に跡形もなく消え去った。
《勝者、コーエン!》




