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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第二章 第一回闘技大会
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第一回闘技大会 本戦5(マリ)

毒を受けてジリジリと減るHPに、マリは無表情の下で静かに焦っていた。

相対した白衣の美女が真っ白な髪を靡かせて悠然と微笑み、それを守るようにフードを深く被った剣士らしき青年が立ちはだかっている。


「そろそろ降参したらどうかしらぁ?」


女の煽る様な声に苛立ちが募る。

と言っても煽られた内容ではなく、レベル30以下の癖に強キャラムーブをしている事に対して共感性羞恥で辛くなってきただけだ。

家族にも全く伝わらない感覚なので、きっと私が少数派なのだろう。


実は私は共感性羞恥を感じやすく、強キャラムーブをしているロールプレイヤーが弱いと、本人以上に恥ずかしさで死にそうな気持ちになるのだ。


(でも、こいつにだけは負けたくない……!)


この女は、マリがアバターを変える前に散々突っかかって来た女なのだ。キャラ被りしているのが許せなかったらしいが、白髪白衣なんてベタなキャラは他にも時々見かけるので、ただの難癖である。

あと単純にねっとりした喋り方が嫌い。仲良しこよしの関係じゃないんだから要点だけ言って。


「うーん、あの子と似てるから親戚かと思ったけどぉ、正直期待外れだったかも?」


こちらとしては恥ずかし過ぎて殺意が湧いてくるので、今すぐその口を閉じていただきたい。

彼女は自分から突っかかってくる割に、毎回負けては噛ませ臭を漂わせて去っていくのが常だった。レベルをリセットした私に気づいていないようだが、先輩面するのはやめて欲しい。


「お友達も居なくなっちゃったしぃ……もう諦めたらぁ?」


彼女の言う通り、ユキは既にキルされている。死因は剣士による魔法攻撃だ。

これは彼女がペラペラと話してくれたのだが、ペアの剣士が持っているのは魔法攻撃を放てる【魔剣】という武器で、つい最近見つかったダンジョンからのレアドロップらしい。


チームが負けていなければキルされても幽体になってフィールドに残るので、ユキは透明の状態だが今も見守っているはずだ。応援しているであろうユキの為にも負けられない。


「もぉ、諦めの悪い男はモテないわよ?」


(女ですけど)


流石にちょっとイラッと来た。

現実ではあんまり似合わないボーイッシュな服装を楽しみたくてショートカットとぺたんこの胸にしてみたが、顔立ちはバチバチに目立っていた睫毛を抑えただけで現実と殆ど変えていない。

と言うか前のアバターも同じ仕様で大人っぽくしただけだった。その時は女性だと認識していた癖に、お前の目は節穴か。



「往生際が悪いわぁ」


それはこちらのセリフだ。

私は毒こそ受けているが回復ポーションにはまだ余裕があるし、追撃はリフレクトで跳ね返している。

それに対して相手は状態異常系の薬品で持ち物が埋まっているようで、戦闘が後半に入ってからは回復する様子が無い。


このまま制限時間が来ればHP残量で勝敗が決まる。その直前に回復してHPを満タンにしておけば私の判定勝ちにできそうだ。


「仕方ないわねぇ……これでも喰らいなさいな!」


彼女が焦れたように白衣のポケットから何かを取り出す。

彼女との距離は三メートル程。私の速度値は低く、回避系のスキルも持っていない。


(投擲されればきっと避けられない……!)


先手を取ろうと咄嗟に手榴弾を放つ。

この至近距離では防御特化とはいえ自分のHPもかなり削れるだろうが背に腹はかえられない。未知のアイテムをまともに食らうよりはマシだ。


しかし既に彼女の手から離れた『それ』が地に落ちてゆくのは止められなかった。

かつん、と地面に当たった瞬間、目を焼くような眩い光が放たれた。



視界が暗転する。



「あ……」


どこまでも続く暗闇。

目を開いているのに何も見えない。


(今、私はどうなっているの?)


キョロキョロと瞳を動かしても視界は変わらず、逃げなくてはと思うのに立ち尽くしたまま何も出来ない。

ただ焦りが募り、喉がひゅーひゅーと鳴る。


(落ち着かなきゃ……)


そう思っても恐怖で動けなかった。上下の感覚も曖昧になり、今自分の体が真っ直ぐ立てているのかどうかすら分からない。

だんだんと呼吸が浅くなりパニックを起こしそうになる。


「あっ……はぁ、はぁ、は……」


自分の呼吸音がうるさい。耳を澄ませて周囲を探ろうとしても、荒くなった呼吸のせいで何も分からず不安が煽られる。



ひたひたと、何かが近づいてくる音が聞こえた。



この状況でそんな素足で歩くような足音が鳴るはずは無いので、これは自分の恐怖心が作り出した幻聴だと頭では理解しているのだ。

それでもやはり体は言うことを聞かない。かたかたと震える腕を抱きしめることすらできなかった。


(私、どうしたらいいの? 何をするのが正解なの?)


理性と感情が剥離していくようだ。ぐちゃぐちゃの心が辛うじて冷静さを保っていた思考を蝕む。


手足に上手く力が入らなくなり、徐々に体が傾いていく気がしてその場にずるずると座り込んだ。

走り回った後のように息が苦しい。突然の負荷に肺が痛む。

思考が散らばって碌に纏まらない。恐怖なのか、怒りなのか。感情がめちゃくちゃになる。


《パルスオキシメーターがバイタル異常を感知しました。安全のため強制ログアウトを行います》


システムメッセージが聞こえて、気がつくとマリは現実のVRカプセルの中で横たわっていた。



深く息を吐き出してカプセルを開ける。

まるで悪い夢を見ていたかのようだ。Tシャツが汗で貼り付いて気持ち悪い。


そのまま暫くぼーっとしていると、廊下を走る音が聞こえたのでカプセルから半身を起こす。

そう言えばイベントに関するシステムメッセージはパーティメンバーと共用されるので、今日組んでるユキには通知が行ったはずだ。自転車で五分程の距離に住んでいるので、心配して来てくれたのだろうか。



「マリ!」

「……コウ?」


部屋の入口を振り返ると、そこに居たのは珍しく取り乱した様子のコウだった。

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