コーエンさんとマリオンくん(別視点)
納品先に辿り着いたあたし達は、その外観に圧倒されて店の前で立ち尽くした。
「ここって入って大丈夫なの……?」
そこはド派手なネオン看板が掲げられた、どう見ても未成年お断りなお店だった。
「納品クエストの方ですか?」
「ひぁっ!? あっ、そうです!」
入るのを躊躇っていると背後から話しかけられて飛び上がる。び、びっくりしたぁ……!
「おや、お久しぶりですね」
「コーエンさん!?」
お店の人かと思ったけど、話しかけてきたのはなんとコーエンさん!
前はつけてなかったモノクルが似合ってる。知的さ三割増って感じでカッコいいけど……えっ、まさかこのお店に入るところだったの!?
「コーエンさん……どうしてここに……」
リナがショックを受けてる……いやいや、お客としてじゃなくてきっとコーエンさんも納品しに来たんだよ!
「隣に店を開くので挨拶回りです。店の前だと迷惑になりますから裏口に回りましょう」
さっさと歩いて行くコーエンさんの後を追いかける。お隣って……この辺はどこも似たようなお店ばかりだけど、もしかしていかがわしいお店なんじゃ……。
(なぁ、あいつ誰だよ?)
(えっと、前にフレンドになった人だよ)
(……ふーん)
ユーゴが小声で聞いてきたからリナが狙ってることは伏せて答える。なんだか面白くなさそうなので、もしかしたらリナの反応で気付いちゃってるのかも。
「納品に来てくれたのね、ありがとう」
裏口から出てきた口元の黒子がセクシーなお姉さんにリナが治療薬を渡してクエスト完了っと。
「僕は隣で店を開くのでご挨拶に参りました」
「あらあら、商売敵かしら?」
ふふっと艶やかに笑うお姉さん。
「いえ、動物と触れ合えるカフェですよ」
「まぁ素敵ね。あら、このチョコレート動物の模様なのね? とっても可愛らしいわ!」
「これは店で出すメニューの一つです。他にも様々なメニューをご用意していますので、よろしければ是非いらして下さいね」
和やかに話す二人をリナがハラハラした様子で見ていたけど、コーエンさんは挨拶が終わったらあっさりと離れた。
「あの、コーエンさんのお店って猫ちゃんも居ますか!?」
急いで追いかけたリナが尋ねる。
「ええ、居ますよ」
「今から行ってもいいですか?」
ちょっとリナってば、皆が置いてきぼりになってるじゃない!
それにお金はどうするのよ……セイレンに来るまでの素材売却で多少は貯まってるけど、また誘引クッキーが遠のくよ?
「残念ですがまだ開店前なんです」
「そんなぁ……!」
ガックリと項垂れるリナに、コーエンさんが憐れんだような眼差しを向けた。
「オーナーに入ってもいいか聞いてみましょうか?」
「ホントですか!?」
「少々お待ちくださいね」
そう言って誰かにチャットを送るコーエンさん。ていうかオーナーじゃなかったんだ。
「許可が下りましたので此方へどうぞ」
「やったー! ありがとうございます!」
リナがご機嫌でぴょんぴょん跳ねている。もう、落ち着きなさいよ……。
「特別ですよ?」
悪戯っぽく言ったコーエンさんにぽーっとなりながら、ふらふらとついて行くリナ。ちょ、ちょっと待ってよ!
あたし達も慌ててついて行くと、まだ看板もかかっていない隣の店へと案内されて、中に入ると黒いベストを着たすらりとした男性がやって来た。ウェイターさんかな?
「支配人、そちらの方々は……?」
「一日早いですが、お客様です」
「し、支配人……かっこいい」
目をキラキラさせるリナを見てユーゴが面白くなさそうにしている。
「では当店のシステムについてご説明しますね。当店は全席個室で10分毎に200Gの料金が追加される仕組みです。──カラオケみたいな感じですよ」
「なるほど、分かりやすい!」
「それから触れ合いたい動物の種類は指定できますが、個体を指名するのは追加料金になります」
「わたし猫ちゃんがいいです!」
「かしこまりました。最後に、猫ちゃんが意地悪されないように世話役が同席するのと、大勢に囲まれてストレスを受けないように入室は各部屋二人までなんです」
「俺は別に猫とか興味無ぇし……」
「いーじゃん、俺らも入ってみようよ!」
ユーゴは不服そうだったけど、あたしとリナ、メリナとルーナ、ユーゴとトウマに別れて入る事になった。
ウェイターさんの案内で部屋に入るとシックな壁紙に大理石っぽいテーブル、革張りの黒いソファーがででんと置かれていて、カラオケって聞いて予想してた百倍は豪華な内装でザ・高級店って感じだった。ここ本当に10分200Gなの!?
(後から請求されたりしないよね……?)
ちょっとドキドキしながら座ると、ウェイターさんがソフトドリンクのメニューを持ってきてくれた。
(一杯500G!? どうしよう、やっぱり高級店だった……!)
「こちら支配人からのサービスですので、お好きな物をお選び下さい」
「えっ! じゃあこのシンデレラってやつでお願いします」
「わたしピーチカクテルにする!」
「かしこまりました」
ホッとしてドリンクを頼んで席を立つウェイターさんを見送ると、入れ替わりで燕尾服の男性が入って来た……って、あの人は!
「コ、コーエンさん!?」
「はい。猫ちゃん連れて来ましたよ」
「みゃあ〜ん」
燕尾服姿で抱っこした子猫の手をふりふりするコーエンさんに、リナじゃないけど心臓を撃ち抜かれる。
「ひぁ……」
リナはもう言葉も出なくなってる。
その後何を話したのかはよく覚えていない。気が付いたら10分経っていて、あたし達はヘロヘロになりながら部屋を出た。
「いやー可愛かったね」
「ああ、また来たいな!」
先に受付にいたユーゴとトウマが盛り上がっている。入る前は不服そうにしてたけど、実際に撫でてみたらやっぱり可愛かったみたい。
と、そこにメリナとルーナも戻って来た。
「最高だったね……」
「うん……」
そう言い合う二人の顔が心なしか上気している。
大満足で店を出ようとしたところに人相の悪い二人組の男の人が入って来た。
「邪魔すんぞ〜」
「申し訳ございません、開店は明日からなんです」
ウェイターさんがそう言っても二人は止まらず、怒鳴りながら近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
「客が来てやってんだぞ!」
「いいから早く酒持って来いよ!」
一触即発な空気だけどリナにいいところを見せようと思ったのか、ユーゴが前に出る。
「おい止めろ! お店の人が困ってるだろ!」
「うるせぇな、邪魔だ!」
「ガキはすっこんでろ!」
ハラハラと見守っていると、カウンターから落ち着いた声がかけられた。
「騒々しいですね、何事ですか?」
「オーナー……あちらの二人組が急に暴れ出したんです」
出てきたのは燕尾服姿のマリオンくんだった。かっ、カワ……かっこカワイイ!
きゅんきゅんしながら見つめていると、マリオンくんはすたすたと二人組へ近付く。危ないよ……!?
「素晴らしいマナーですね。余程親御さんの教育が良かったのでしょう」
「ああ゛!? なんだとテメェ!」
「バカにしてんのか!?」
痛烈な皮肉をかっ飛ばしたマリオンくんは、流れるような動作で細身の拳銃を二丁取り出して構える。
「って、銃!?」
「おいおい、世界観間違ってないか!?」
ルーナ達が思わずツッコミを入れている。そうだよね、あたしもこの世界に銃があるなんて思わなかったよ。




