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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第二章 第一回闘技大会
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航空便

「……思ってたのと違う」


マリが航空便の中でぺたりと座り込みながら言った。ちらりと空の上からの景色を見てもすぐに目を逸らし、かたかたと震えて唇をぎゅっと引き結ぶ。


「どんなのだと思ってたんだ?」


珍しく弱っているマリを見たケイがにやにやと意地悪く尋ねる。


「飛空艇のちっちゃいバージョンかと思ってた……命綱すら無いなんて聞いてない……」

「マリ、可哀想に……」


航空便は六人乗りの大きな気球だったのだ。籠の縁を力一杯掴んでマナーモードの如く振動しているマリをぎゅっと抱きしめて頭に口付けようとしたが、唇がもいんとした感触に阻まれた。


「……ハラスメントコードが出てる。『通報しますか?』だって」

「頭にキスするのもダメなの!?」

「私まだ12ちゃいだから……」

「厳しすぎるよ!」

「妥当だろうが」


ケイが冷めた声でバッサリと切り捨てる。


「通報されなくても何度も繰り返せば牢屋行きになるから気をつけろよ」

「僕は怯えるマリを慰めることも出来ないのか……!」


大袈裟な嘆きは呆れたように嗜められた。


「この気球は一応魔道具だから落ちる事は無いぞ? そうでなきゃ気球で決まった航路なんて飛べないだろ」

「私だってそんな事は百も承知で怖いんだよ」


今まで本人を含めて誰も気付いていなかったが、どうやらマリはやや高所恐怖症気味のようだ。飛空艇のように窓越しの景色なら大丈夫だが、周囲を隔てる物がないオープンな気球に乗っているとふらふらと力が抜けて足元が不安定になってくるらしい。


「マリ、今だけR18に変えてみない?」

「うーん、王都はPKが多いっぽいから嫌だなぁ」

「だが最近はR12狙いのPKも流行ってるらしいぞ」

「え……どうやって?」


物騒な流行だな。R12だとフレンドリーファイアがオフになるので、PKの攻撃でもダメージは入らないはずだが……。


「トレイン?」

「いや、違うな」


トレインとは誘導した敵モンスターを押し付けて別のプレイヤーを襲わせる迷惑行為の事だ。それならフレンドリーファイアの穴を突けると思ったのだが、そのPKは別の手法で行われているらしい。


「あーもしかして『お礼参り』?」

「マリは知ってたのか」

「うん、一度やられた事あるわ。返り討ちにしたけど」

「え!?」


突然の告白にユキが驚きの声を上げたが、僕はそれよりも話に意識が向いたからか元気を取り戻しつつあるマリに集中していた。ケイは優しい子なので、もしかすると気を紛らわせようとして話を振ってくれたのかも知れない。


「お礼参りって何?」

「まずR12にしてるPKがいるとして……それ以外の相手を一方的にキルできてしまうだろ」

「確かにそうだね」

「だからその救済措置として、キルされたらやり返せるんだよ」


コウがマリに気を取られている間もユキへの解説は続いている。

内容を掻い摘むと、一方的にキルした場合は敵対関係となり、所属するパーティからキルした相手へのフレンドリーファイアが解除されるので、わざと一度キルさせてからパーティメンバーで囲ってPKすることが『お礼参り』と俗称されているそうだ。


「もうすぐアプデだし、その辺修正してくれると良いんだけど……」

「それだとやられっぱなしになるだろ」

「うーん、いっそフレンドリーファイアは完全に無くしちゃった方がいいんじゃない?」

「対人戦を楽しんでる層も結構多いから、それは難しいだろうな」


色んな人がいるので全てのプレイヤーが満足するように調整するのは不可能だろうが、あまり治安が悪くなりすぎないように運営には頑張ってほしいものである。


「いっそ治安が滅茶苦茶悪い地域とか作ればアウトロープレイが好きな人はそっちに流れたりするのかなぁ」


まぁそういう事を考えるのは運営の仕事なので、別に思いついたところで要望を出したりはしないが。



雑談している間に気球が高度を下げていた。王都の一つ前の町、レバに到着したようだ。


「腰抜けて上手く立てない」

「産まれたての子鹿って感じだね」


マリに問題が発生していたので抱っこして一緒に降りる。


「待って抱っこされたまま人前に出るの無理なんだけど」

「見られるとしてもNPCにだけだろ」


レバの町には用事が無いので、特に観光する事も無く飛空艇に乗り換える予定だ。しかしそれでも恥ずかしがるので抱っこからおんぶに変えて乗り場へと向かう。

飛空艇と航空便の発着場は一纏めにされているので、すぐ隣の乗り場から飛空艇に乗り込みマリをそっと座席に設置した。


「受付の人にガン見された……」

「どうせNPCだろ」

「気分的に恥ずかしいんだよ〜」


マリは表情が変わりにくいので全く恥じらっているように見えない。本人も自覚しているため口元を手で隠してジタバタとジェスチャーすることで恥ずかしさをアピールしているのだが、態とらしい動きのせいで余計に演技っぽく見えてしまっている。



《まもなく、王都ハーツに到着いたします》


「おっ、隣町だからすぐだね」

「マリは立てそう?」

「もう全然平気!」


ぴょこんと立ち上がって元気アピールをする姿に思わず頬が緩む。マリの先導で飛空艇を降りると、そこには陽気な音楽が流れる発展した街並みが広がっていた。


町のあちこちで薔薇が育てられており、風に乗って華やかな香りが流れてくる。他にも竜を名物にしているらしく、店先には竜を模した置物が飾られ、噴水のある広場には大きな竜の彫刻があった。


「ムービーでも見たけど、実際来てみると思ってた以上に賑やかだね」

「よくNPCの吟遊詩人が道端で演奏してたり、大道芸をやってたりするからだな。夜も割と騒がしいぞ」


とりあえずセーブポイントを更新しようと宿屋街へ向かう。ケイだけは王都にホームを持っているのでここからは別行動だ。


「泊めてやれたらいいんだが、他の配信者と共有してる拠点だからな」

「王都は物価高いから宿代も結構するけど、配信に映り込んじゃったら面倒だもんね」

「なら俺は教会に泊まれないか聞いてみるよ」

「そういえばユキは教会に住んでたんだっけ」


宿代が浮くのは助かるのでユキも別行動し、僕とマリは二人で宿を取りに行く事となった。

とは言えユキが断られたら三人で泊まるつもりだ。宿は追加料金を払えば宿泊人数を増やせるので、後から合流しても大丈夫なのだ。



「町の中心部の宿は高いから、少し外れたところにしようか。大会まで泊まり続けても問題無いくらいのお金はあるけど、ログアウトするだけの施設にそこまでかける必要も無いと思うんだよね……」

「現実と違って安全性は何処の宿も同じだしね」


高級宿だとプールやエステを利用できたり、レストランやバーがあったりするらしいが、今回は大会に向けて準備したいのでレジャー施設を利用する予定は無い。



マリは既に下調べを済ませていたようで、取った宿は郊外のお洒落なコテージだった。


「貸切なのに人数によって宿泊費変わるのって謎だよね」

「宿の仕様なのかなぁ……」


とりあえず宿は確保できたのでベッドに触れてセーブポイントを上書きし、今日はもうログアウトすることにした。


「キリがいいから私も切り上げるわ。ユキに宿の位置だけ連絡しとく」

「ありがとう、先にログアウトするね」


ベッドに横になるとドルオーテがもそもそとポケットから出てきて額の上で寝始めた。定位置になりかけているが、ここをキャンプ地とするのは止めてくれないだろうか。


避けようかとも思ったが、この状態を見たマリがくすくすと楽しそうに笑っていたので良しとしてそのままログアウトした。

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