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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第二章 第一回闘技大会
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ドルオーテと獣寄せ

ユキが野苺ををひょいと一つ摘んで食べる。


「甘酸っぱくて美味しい! 野苺ってもっと味薄いのかと思ってた」

「キュー……」

「ん?」


ポケットから微かに鳴き声が聞こえたので見ると、吸血ネズミが物欲しそうにヒゲをひくひくさせていた。


「あ……そういえば入ってたんだった」

「キュ!?」


忘れられていた事にショックを受けたのか、がーん、と効果音がつきそうな様子で吸血ネズミが見上げてくる。


「これあげるから許してよ」

「ンキュ」


野苺を渡すとはしっと手で受け取って食べ始めたので、ポケットが汚れないようにそっと小さな体を掬って掌に取り出した。


「随分懐いてるね。私が飼い主のはずなんだけどなぁ……」

「ずっと一緒にいるからかな。えーっと、3号だっけ?」

「ヂヂッ!」

「違ったか。怒られちゃった」


鑑定したら6号だった。ごめんね。


「マリ、この子に分かりやすい名前を付けてくれない?」

「おっけー。じゃあ君は今日から『ドルオーテ』ね」

「キュ!」


今までの名付け方から考えると『サブリーダー』とかになるのかと思っていたのだが、思ってた十倍はまともな名前で正直驚いた。


「懐かしいなー、ドルオーテ」

「懐かしい?」

「そういうハツカネズミが出てくる本があるんだよ」

「私あの本好きだったな」


ユキは元ネタを知っていたのか……気になるので僕も今度読んでみよう。



「せっかく大量のベリーがあるからさ、ワイバーンに獣寄せぶつけてみない?」


ベリーの入った籠を見ていてふと思いついたので提案してみる。

『獣寄せ』とはモンスター誘引ポーションの一種で、使用すればエリア中のモンスターが襲ってくる強力なアイテムだ。


「効果切れたら私達も襲われるよ?」

「いや、妙案かも知れないな。ワイバーンはスタン効果のある『咆哮』を定期的に使ってくるんだが、その余波で近場のモンスターが逃げ出すんだ。効果が切れたらそれで追い払われるんじゃないか?」


ケイも乗り気なのでダメ元で試してみる事となり、早速ギルドで部屋を借りて錬成を行う。


「なぁ、ボス戦録画しても良いか?」

「何に使うの?」

「面白い映像が撮れたら配信出来ないかと思ってな」


手早く素材を準備しているとケイが聞いてきた。この思い付きをネタにするのは構わないが、配信に載るのは少し恥ずかしい気もする。


「ワイバーンの反応がメインだからな。お前らは極力映さないように気をつける」

「声もカットできない?」

「環境音も入れたいんだが……」

「ならできる限り喋らないようにするよ」

「悪いな」



獣寄せに使う素材はベリーや肉だ。比較的簡単に手に入る素材で作れるのだが、その代わりに作成してから三十分間しか効果を発揮できない。

レシピに従ってミンチにした肉にベリーを練り込んでいると、なんだか料理をしている気分になってくる。ピンクの肉に赤紫のベリーがお洒落な創作料理っぽさを演出していた。


「『錬成』」


そして出来上がったのは瓶詰めの赤黒いドロリとした液体だ。蓋を閉めていても漏れる腐りかけの果実のようにべったりとした甘ったるい匂いにげんなりする。


(途中までは美味しそうだったのにどうしてこうなったのか……)


しかしこれが完成形なのだ。

予備も何本か錬成して薬品ホルダーにセットする。


「さて、そろそろ行こうか」

「そうだね」


四人で集めたので大量に残ったベリーはホームに送り、僕らは漸くボス戦へと向かう事にした。



三十分以内にボス戦に入らなくてはならないので、北へ真っ直ぐ延びる一本道を一気に走る。

マリは鈍足なのでコウが抱き上げているが、装備分の重量を足すとコウの筋力値を超えるため、重量オーバーによるペナルティを受けて速度低下状態になっている。しかし、他二人も速度はあまり振っていないので速度値の高いコウの方がペナルティを受けてもまだ速い。


「エリアが変わった! 今何分!?」

「ここまで十七分。この調子ならあと五分くらいで着くよ」

「よしっ、獣寄せを使える時間は残るね!」

「長時間走り続けてもスタミナ切れしないのが救いだな……!」


爆走する男達と抱えられた女性という現実なら通報待ったなしの絵面だが、歩いていると四十分はかかる道のりなので仕方ないと割り切りそのまま全力疾走する。

幸いと言っていいのか、ベリー村からワイバーンの巣食う場所へは森の中の獣道で尚且つ逆走する理由がほぼ無いため、不審者を見る目を向けられたのは歩行者を追い越した二回だけだった。



「そろそろ接敵するぞ! 上空だ!」

「了解!」


マリを降ろして獣寄せを取り出す。


「『挑発』!」


マリがアーツを使用し、僕とユキにはケイから隠密スキルが付与される。僕は元々持っているスキルだが、バフをかけて貰えば効果が上昇するのだ。


「ギャルルァアアア!」


空気がビリビリと震えるような鳴き声が響き渡り、継いでばさり、ばさりと大きな羽ばたきの音が近づいてくる。

身を隠した木立の隙間から黄色い巨体が見えた。


(──今だ!)


ワイバーンの足が大地に触れた瞬間、準備していた獣寄せをニ本同時に投擲する。


「ギャウッ?」


ぐちゃりと粘度のある音を立てて左翼に命中し、クリーム色の皮膜を赤黒く汚した。

ワイバーンは突然べたりとした液体を浴びせられて驚いたのか、皺を寄せた鼻面を獣寄せが当たった部分に近づけてふんふんと臭いを嗅ぐような仕草をすると、べろりと舐め取って身繕いをした。


──瞬間、凄まじい爆発と共にワイバーンが大きく体勢を崩す。


「あまりにも油断しすぎでは?」


目の前にいて『挑発』を発動しているにも関わらず無視される形となったマリが、ありったけの爆薬を無防備な腹に投げつけたようだ。クリーンヒットしたワイバーンが縦長の瞳孔をギョロリと動かしてマリを捕捉する。


「ギャォォオオオッ!!」

「ぐっ……!」


ワイバーンが大きく一鳴きすると不自然に足ががくついたので『咆哮』スキルを使われたのだろう。間近で聞いたマリは片膝をついてしまい、そこにワイバーンが攻撃を仕掛けようとしている。


(させるか……!)


咄嗟に投擲した『炸薬』は吸い込まれるようにワイバーンの左頬に当たり、ばきりと音を立てて鋭い棘を生やす。『炸薬』は大会に向けて作った攻撃アイテムで、空気に触れると棘状の硬い結晶になって継続的な物理ダメージを与える薬品だ。


「ギィイイイーーーッ!!」


棘が眼球を傷つけたのか、悲鳴と言っても差し支えないような唸り声を上げて仰け反るワイバーン。仰け反ったことで晒された喉に再び獣寄せを投擲する。


(あの位置なら舐め取れないだろう……)


本来なら使用して数秒でモンスターが集まってくる獣寄せだが、最初の二本が効果を発揮している様子はない。恐らく、舐め取られた事か『咆哮』を使われた事のどちらかが原因ではないだろうか。


「グギィィ……」


しかしヘイトを買ってしまったようで、忌々しげに低く鳴いたワイバーンが体勢を低くする。


「『挑発』。コーエン、ハイド!」


マリがコーエンと呼んだのは録画されている事を考えてだろう。本名は幸大こうだいでコウは愛称だからそのまま呼んでも構わなかったのだが、どこから身バレするか分からないので一応配慮したようだ。


ハイドと言われた通り身を隠す。左眼からぼたぼたと血を流しながら、残った右眼をギラギラと光らせて此方に顔を向けたワイバーンだが、マリが追加した挑発の効果もあってかコウを見つけられないでいる。


「ヴェェエーーー!!」


するとそこに唐突に雄叫びを上げる山羊の群れが割り込み、山羊達はワイバーンを視界に収めるとその健脚で凄まじいスピードの突進を繰り出した。


「グギャアッ!?」


思わぬ闖入者に面食らったワイバーンだったが、攻撃の前に雄叫びがあったので気付くことができ、山羊達の猛烈なタックルを飛んで回避する。しかし、更なる刺客がワイバーンを襲った。

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