ベリー村
王都に向かうべく、町の中央にある飛空艇の発着場を目指して歩いていると、マリが思い出したように口を開いた。
「ユキの筋力値ってどのくらいあるの?」
「今は21だよ」
「なら装備ももう少し良いやつに変えられるね」
装備は追加効果が高いほど重量も大きくなりやすい。大剣や大楯、鎧といった重装備以外はそもそもあまり重く作れないのだが、それでも筋力値がある程度無いとステータスを上げられない。
「コウにクラン登録してもらえばホームにある装備をメニューから確認できるよ。共有してある分は好きに使っていいから」
「くれるの?」
ユキがぱっと笑顔になる。
「あぁそうだった、クラン登録するから申請してくれる?」
「ありがとう! 本当だ、メニューに『ホーム』が増えてる」
すっかり忘れていたがユキのクラン登録とフレンド登録を済ませておく。歩きながらだと危ないので、ユキは少し端に寄って立ち止まると追加されたメニューを確認している。
「装備のビジュアルも見れるんだ、へー……なぁこれ神官っぽくね!?」
真剣な表情でメニューを操作していたユキが、急にテンションを上げてウィンドウを見せてきた。マリ達と共に覗き込むと、胸までの短いマントを羽織り、首に細長い布を掛けて胸から腰まで垂らしたユキが映っている。
どうやら、メニューの『ロッカー』機能を使ってマイ装備のセットを保存したようだ。
「これケープとストールだよ? 気にしないならいいけど」
「ケープは分かるけど、これってストールだったのか。そもそも神官が首から下げてる帯みたいなやつって何なの?」
マリの指摘にユキが首を傾げて聞き返したが、マリも首を傾げて自信なさそうに言葉を返す。
「スモアだか何だかって名前だったかな……宗教には詳しくないけど、何か服装に特別な決まりがあった気がする。まぁゲームだし、なんちゃって神官服でも別に問題は無いんじゃないかな」
スモアはお菓子なので恐らく間違っているが、僕もあの帯の名前を知らないので口には出さないでおく。
「ふーん、俺は無宗教だし気にしない事にするわ」
「ゲーム内では守護神の信徒だろ」
ユキの大雑把な発言にケイが突っ込んだが、この世界の宗教が服装に決まりを作っているのかも不明であるし、特に止める気は無いようだ。
うきうきと着替えたユキが再び歩き出す。
「僕ももう少し筋力値に振るべきかなぁ」
このアバターは生産と投擲メインで作られたため筋力値を捨てているのだ。接近戦をしない予定だったので、装備で防御力を上げる必要も無かった。
しかし速度にもそれなりにステータスを振ってあるので、もう少し筋力値を上げて攻撃力と装備による防御力が加われば、接近戦も多少はこなせるのではないだろうか。
「確かに現状だとカスダメでも死にそうだしな」
ケイも言っている通り、大会で攻撃特化の相手に当たった場合うっかり掠るだけでも死にかねないのだ。
「それはもうコウのアバターだし、好きに育てたらいいよ」
「そうだね。次のレベルアップでは筋力値に振ってみるよ」
ぽっかりと空いた立坑が見えてきた。採掘しに降りていくプレイヤーやNPC坑夫達を尻目に、発着場へと続く階段を登る。
「レバのすぐ手前にあるベリー村には平らな土地があって飛空艇も降りれるんだけど、他の小さい村には基本的に発着場が無いから、メタい事言うとレバのボス戦に行きやすいように発着場があるんだろうね」
「そのおかげで楽に移動できるね」
「ここから歩くとなると一時間近くかかるからな」
ごうんごうんと降りてくる巨大な飛空艇に四人で乗り込み、マリが行先をベリー村に指定する。
「ベリー村の特産品はベリーなんだよ」
「そのまんまだね」
「えっ、ベリーってそのベリーなの?」
「逆にどのベリーだと思ったんだよ」
ユキの意外そうな声にケイが呆れたように問う。
「てっきりベリーダンスのベリーかと」
「なんでだよ」
本当になんでそう思ったんだよ……多分ユキ以外の全員の心の声が揃った瞬間だったと思う。
「ベリーダンスは直訳すると腹踊りだって前に聞いたからさぁ。ベリーってお腹って意味でしょ?」
「確かにベリーはお腹だけど……村の名前につけないでしょ」
「だってお腹の位置じゃん」
……???
何を言っているのか分からないのは僕だけだろうか? そう思って他の二人を見るが、どちらも頭に疑問符が浮かんでいるような表情をしていたので安堵した。
「どういう意味かさっぱり分からん。一から説明しろ」
ケイが苦い顔で促す。僕も完全に同意である。
「えーと、この大陸が巨大なドラゴンの死体だっていうのは知ってる?」
「知らん」
「もうそこから初耳なんだけど」
「どこ情報なのそれ」
いきなり先制パンチを喰らった気分だ。とんでもない話をぶっ込んできたユキに一斉に突っ込みを入れる。
「神官の座学で教わったよ。ざっくり言うと創造神が世界を作った後、眷属のドラゴンがそこに横たわって体を捧げたことで他の生き物達が生まれたんだって。だからこの大陸はドラゴンの形をしてるんだよ」
「俺のマップだと北東部は雲に覆われて見えないんだが」
「そうなの? 俺のは全体図が見れるよ」
「……本当だね」
ユキのウィンドウを全員で覗き込むと、確かに大陸はドラゴンのような形をしていた。
「あ、私のマップも全体図になってる」
「僕もだ。ユキのマップを見たからかな?」
興味深くマップを眺めているとユキの言っていた事が分かってきた。
「エストはウエストの位置で、王都ハーツは心臓か。言われてみれば部位が地名になってる事が多いね」
「でしょ? レバなんてレバーそのまんまじゃん」
「いやレバって聞いて、ノーヒントで肝臓の位置だと気付く人はいないと思うよ」
《まもなく、ベリー村に到着いたします》
思いもよらないところで世界の成り立ちを知り各々マップを開いてわいわい騒いでいたが、そろそろ目的地に到着するようだ。
飛空艇が高度を下げていく。マリはぺたりと窓に張り付いて外を眺めていた。可愛い。
マリは飛行機に乗った経験が無く、普段外に出ないため電車や新幹線の類も殆ど使わないので、乗り物から見る景色に興味津々のようだ。
「もう着くぞ」
「もうちょっと……」
「ったく、飛空艇なら何度も乗ってるだろ」
「あーん、森の中に降りるのは滅多に無いんだよー」
ケイが呆れたように窓からマリを剥がしている。マリはかなり小柄だしケイは意外と世話焼きな気質なので、こうしているとケイの方が兄のように見えるなぁと姉弟のやりとりを微笑ましく眺めていると、ケイと目が合って嫌そうな顔をされた。
「……その顔をやめろ」
「え、どんな顔?」
「すっごい優しい顔してたよ」
「にやついてんじゃねぇ」
「えーそう? ニヤニヤっていうよりニコニコしてたけど」
ケイには顔を顰められたが、マリとユキは庇ってくれたのでそんなに変な顔はしてなかったようだ。
飛空艇も完全に止まったようなので席を立ってタラップを降りる。到着したベリー村はそこかしこに様々なベリーが植えられた、ふんわりと甘い香りが広がる長閑な村だった。
「ついでに苺狩りしていきたいなー」
「僕は良いけど、二人はやりたい事とか練習時間とかは大丈夫?」
「んー、特に予定は無いかな。大会も皆が出るなら出ようかなーって感じだし」
「俺はもうカンストしてるから、大会まではスキル上げと腕が鈍らないように気をつけるくらいだな」
二人とも異論は無いようなので、村の宿屋でセーブポイントを更新する。そのまま宿のカウンターで苺狩りの受付もしているようだったので、十五分間ベリー取り放題500Gを四人分頼み、案内された畑で思い思いのベリーを採取した。
僕が向かったエリアでは真っ黒に熟れたブルーベリーや、ぷちぷちと弾けんばかりの粒が揃ったラズベリーが鈴なりに生っていた。
畑はかなり広いので別々の方向に散らばる事にしたのだが、これならマリと一緒に居ても十分採取できたのではないだろうか。
豊かに実ったベリー狩りを時間いっぱい楽しみ、籠にどっさりと戦利品を詰めて畑の入り口に戻ると、既に僕以外の全員が到着していた。三人とも腕に満杯の籠を提げている。
「いやもう大収穫だったね」
「一人あたり1500Gは行ったんじゃない?」
「こんなに採る必要あったのか……?」
「まぁどうせ腐らないし、良いんじゃないかな」
それに楽しさはプライスレスだ。圧巻の四杯の籠をやや呆然と眺めているケイだって、楽しかったから籠に山盛りになるほど夢中で集めてしまったのだろう。
「エリア毎に種類が分かれてたのか」
「各自バラバラに別れたのは正解だったね」
僕の採ったブルーベリーとラズベリーの他に、苺、野苺、クランベリー、ブラックベリー、あと何だかよく分からない黒い実が二種類あったが、鑑定するとマルベリーとハスカップだった。
「マルベリーって初めて見るな」
「確か桑の実だっけ?」
「へー、これがそうなんだ」
「採ってきた本人が何言ってんだよ」
ユキが一つ手にとってしげしげと観察している。採取したのはユキなのだが、何なのか知らずにとりあえず集めてみたらしい。
「ベリーってこんな一気に収穫できる物なの?」
「さぁ……知らないけどゲームだからじゃない?」
環境や季節をガン無視しているのかも知れないが、僕としては農業ガチ勢でもないので楽しければそれでいい。それに現実だってハウス栽培が盛んであるし、年中美味しい物が食べられるという点では大差無いと思う。




