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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第二章 第一回闘技大会
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ボス戦とキックバード(ユキ)

振り返った男は肩までの赤髪をオールバックにしたイケメンだった。無造作ヘアというのだろうか、掻き上げた前髪がはらりと額にかかっているが、だらしなさは無くセクシーな大人の男といった雰囲気だ。

このゲームはキャラメイクの自由度が高く髪の一房までも調整できるのだが、俺がマリに丸投げした通り素人がそこまでやるのは大変だ。この男は余程気合いを入れてキャラメイクしたのだろう。


「はい。貴方もですか?」


見れば分かる事だが、話を円滑に進めるために一応聞いておく。俺はこのゲームでは聖人ロールをしていくつもりなのだ。

人見知りのマリは俺の後ろで気配を消している。


「ならやめておけ。ここはショートカットルートだからな、キンキッドから向かうのは時期尚早だ。俺は大会に向けて盾の特訓をしに来たんだよ」

「ご親切にありがとうございます。ですが先に始めていたフレンドにキャリーしてもらうつもりなんです」


マリを見ると、観念したのか少し出てきて男に向かって軽く会釈する。


「そうか、お節介だったな。頑張れよ」

「いえ、俺の実力が足りていないのは事実ですからお気になさらず」


颯爽と去っていく男を見送る。初対面の相手に対して若干命令口調ではあったが、ただの助言だったようだし嫌味っぽさや見下した感じも無かったので、装備も相まって『騎士団長』という感じだった。

年齢による落ち着きというより、声が割と若そうだったので俺と同じロールプレイ勢だろうか。


それより気になった事がある。


「マリって露店商やってるんだよね?」

「うん」

「人見知りなのに大丈夫なの?」


果たしてマリに接客業など出来るのだろうかと常々疑問に思っていたのだが、今回改めて不安になったのだ。


「大丈夫だよ、ていうか私社会人だよ? 仕事中に人見知りなんてしてたら社会生活送れないし、意識の切り替えぐらい出来るよ」

「でも仕事って在宅ワークでしょ?」

「打ち合わせに行ったりWEB会議したりもするよ」

「そうなんだ……大人って大変だな」

「君もあと数年でそうなるよ」

「あーあ遊んで暮らしてぇなぁ〜〜」


嫌な未来予測を告げられて叶うはずも無い願望を吐き出す。


「職場が合わなかったらすぐ辞めた方が良いよ。新しい仕事するなら勤続年数より若さの方がアドバンテージあるから」

「へー、三年は続けろとか聞いた事あるけど」

「雇う側からすればね」


すぐに辞める人が多いと手続きが大変らしい。そんなタメになるアドバイスと会社の裏事情を聞きながらボス戦へと歩みを進めた。



「ギャギャギャッ」


浅瀬へ足を踏み入れると、巨大な魚のような姿をしたボスが水面から顔を出す。

事前に打ち合わせていた通りマリが前に出て片腕に装着した盾を構え、俺が斜め後ろで杖を照準器代わりに構えて魔法を撃つ準備をする。


「ギャッ!」

「『ライトボール』」

「ギャアッ!?」


ボスがマリに向けて水の球を吐き出した瞬間、ライトボールで反撃する。少し距離があったが道中の雑魚モンスターで練習出来ていたので上手く当たった。


「ギィィ……」


悔し気に唸ったボスがたぽんと水中に潜り、少しして別の場所から顔を出す。


「ギャッ!」

「『リフレクト』」

「ギヒッ」


今度はマリがアーツを使ったが、先程の男性のように上手く当てる事は出来なかった。


「やっぱ駄目かー」

「一応練習は続けるとしても、攻撃は俺の魔力値を上げる方向で進めようか?」

「そうだね。盾が湾曲してるから咄嗟に反射角考えるのが難しいなぁ」


マリが小楯の縁を撫でながらぼやいている。


「平面の盾は売ってないの?」

「あるけど平面だと防御力低いやつばっかなんだよね」

「へー、形によって装備ステータスって変わるんだ」

「武器や装備はカテゴリー毎に決まった形があって、定型から外れるほど作るのが難しくなるみたい」


初めて知ったが、生産職も中々大変なようだ。

会話している間にもボスがひょこひょこ顔を出しては攻撃を仕掛けてくる。


「『ライトボール』、とりあえず俺が魔法撃ちまくるから防御お願いね」

「了解」


ショートカットルートとはいえ序盤のエリアのボスなので攻撃パターンは水の球を吐き出すだけらしい。これがもう少し先に進んだエリアだと戦闘が進むにつれて攻撃に変化をつけてきたり、ステータスが強化されたりするらしい。


「ギャッ、ギャッ」

「ユキは魔力13だよね。ならあと二、三発で倒せるはず」

「計算してたの?」

「いや、ボスが息切れしてるから残りHPが二割切ってるはず。ここのボスはHP低いから体感で二発くらいだと思う」


このゲームでは敵のHPは見えないのだが、ボスが疲労を見せているようだ。正直俺には魚が息切れしているかどうかなんて見ても判らないが、マリには判別がつくらしい。


「ならさっさと終わらせて進もうか。『ライトボール』、『ライトボール』」

「ギィッ……!」


魔法を撃つのにも大分慣れてきたのでライトボールの二連発をお見舞いする。狙い通り標的を撃ち抜いて、ボスが光になって消えた。

視界の端で『ガンディプノの鱗+2』とドロップ品の獲得ログが出ている。


「HPは大丈夫?」

「うん。全部防御したからダメージは殆ど無かったよ」


マリも大丈夫そうなので対岸へ渡る。向こう側もキンキッド周辺と同じく草原や森林フィールドが広がっているが、推奨レベルは15まで跳ね上がるので注意が必要だ。



「ねぇユキ……装備なんだけどさ」

「うん?」


マリが言い辛そうに話を切り出す。どうしたんだろうか?


「ユキは自分で装備集めたい?」

「え? 特に考えてなかったけど……」

「良かった! 実はユキの装備幾つか見繕ってきたんだけど、杖とか結構良いやつ使ってるし思い入れあるのかと思って」

「ああ、ただの貰い物だよ」


なんだ、深刻な話かと思ったらそんな事だったのか。というかボス戦の前に渡してくれても良かったのだが、マリも気を使ったのだろう。


「MP消費低下の装備なんて滅多に無いよ。杖はそのままでも良さそうだね」

「これレアだったんだ」

「一回あたりの消費低下が少ないから序盤だと弱いんだけど、レベルアップしてMP総量が増えてくると強くなる装備だよ」


ふぅん、あのおじさん凄い人だったんだな。

それにしても、NPCの好感度を上げておくとこういう恩恵を受ける事があるのか。好感度が高い事にデメリットは無いし、今後も聖人ロールでNPCを救っていこう。



「ぴひょ!」

「せいやぁ!」


エンカウントしたファイトバードをマリが盾を付けた腕で横薙ぎにする。ファイトバードは跳び蹴りをしてくる雑魚モンスターなのだが、いかんせん足が短いのでほぼ体当たりである。

飛び掛かって来る速度も大した事ないので、丸々と膨れたゆるキャラの様な鳥を撃ち落とすのは造作も無かった。


「ぴひょー……」

「ピァアーーッ!」


しかしもう少しで倒せる、という時に突然の乱入者が甲高い叫び声を上げながら飛び込んで来た。


「ファイトバードの進化先、キックバードだね」


マリが教えてくれたのは赤いダチョウを1mくらいに縮めた様なモンスターだった。どうやら同族のピンチに駆けつけたらしい。


「ピァ!」

「『リフレクト』!」


今までとは違い、がつんと重い音が辺りに響く。マリのアーツによって後ろに弾かれたキックバードだったが、進化前に比べて大きくなった翼をばさりと広げて姿勢を制御し、空中で見事な回転を決めて着地した。

どうやら飛べずとも力強い翼を持っているようだ。


「マリ大丈夫!?」

「全然平気。相手は精神値低いから攻撃お願い」

「分かった。『ライトボール』!」

「ピォッ」


しかしキックバードはしゃっとサイドステップを踏んで攻撃を避けた。無駄に華麗な動きで少しイラッと来る。


「ピォォーー!」


キックバードは攻撃を避けた事で調子に乗ったのか、己の真っ赤な羽を誇示するかのように翼を広げて威嚇モーションを行ってきた。

しかしこちらにも他に仲間が居るのだ。


「リーダー、ファイトバードを始末して」

「キュー!」

「ピォアッ!?」


しゅたたっと出血ネズミが地面を駆けていくのを見て、焦ったように背後のファイトバードを振り返ったキックバードにライトボールを放つ。


「ピァアーーッ!」

「ぴひぃ!」

「キュキュッ」


キックバードは魔法に当たりながらもファイトバードの元に駆け寄り、リーダーを追い払おうとするが、速度で優るリーダーはひょいひょいと軽く避けて的確にファイトバードを攻撃している。


「『ライトボール』」

「ピォアッ!」


キックバードがそちらに気を取られている隙に攻撃しておく。


「ピォ、ピォ……」


今度は俺にも判った。息切れモーションだ。

キックバードは羽毛に覆われた胸を膨らませたり萎めたりして荒く呼吸をついている。


「ぴ……」


そしてファイトバードの方はもう限界だったようで、リーダーに齧られ光になった。


「ピォオオオーーー!!」

「『ライトボール』」


慟哭のように叫ぶキックバードに魔法を当てれば、キックバードもまた光になって消えた。

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