漁場での共闘(ユキ)
「ゴォォォオオ!!」
「うわっ!」
岩の亀裂から何本もの触手が飛び出して襲いかかってくる。警備隊は攻撃をいくらか食らったようだが離れている俺の所までは届かない。
(蛇の正体はこれか……!)
イソギンチャク、いや岩っぽいのでフジツボだろうか。推定フジツボは見た目通り防御力が高いらしく警備隊の攻撃はあまり効いていないようだ。
「くっ……槍は通んねぇな」
「魔法が掠っただけで嫌がっていましたから、魔法攻撃してみましょうか?」
「頼んますっ!」
「少し離れてください……『ライトボール』」
的がデカい上に岩部分は殆ど動かないので、触手の根元、亀裂のど真ん中に命中する。うぉん、と苦しむようにフジツボが呻いた。
「効いてるみたいです!」
「神官様、触手は俺達が抑えるんでどんどん撃ってください!」
「分かりました。『ライトボール』、『ライトボール』」
回復魔法のためにMPを残しつつライトボールを撃つ。モンスターのHP残量は見えないが、めちゃくちゃに触手を振り回して暴れ始めたので順調に削れているようだ。
「ォォオオ!!」
「うぐッ! ごほっ、退避しろ!」
「『ヒール』! 」
横切るように一際大きく振り回した触手に警備隊が弾かれる。そのまま下に向かって何度も触手が振り下ろされ、鞭のようにしなる攻撃が砂浜に鋭く跡を刻んだ。
二人は盾を上に構えて攻撃を凌ぎながら距離を取りなんとか抜け出したが、残りの二人は連続する振り下ろし攻撃を受けてHPがかなり減っていたので回復しておく。
「この野郎! うらァあああッ!」
「ジェレミー落ち着け!!」
攻撃を受けていた警備隊の一人がやけになったのか岩に突撃して亀裂に槍を差し込んだ。
「オォグゴァァッ!!」
「くっ!? 放せッ!」
「ジェレミー!」
怒り狂ったフジツボが叫びながら触手を伸ばし、突撃した青年、多分ジェレミーが触手に捕まって持ち上げられた。他のメンバーが悲痛な声を上げる。
(やめてくれ俺は笑い上戸なんだよ!)
俺はこの緊迫した状況で『フジツボの叫び声』という現実で聞くことの無いであろうシュールな音にツボってしまってもうダメだった。笑ってしまえば好感度が下がるのは目に見えているので真面目な顔を作って必死に耐える。
「ゴォォ……」
「クソッ、ジェレミーが……!」
フジツボが見せびらかすように高々とジェレミーを掲げる。面白すぎる絵面だ。
(エロ同人かよ)
ジェレミーは腕ごと螺旋状に巻きつかれて身動きが取れないようだ。ちなみに触手の質感はタイヤみたいな感じなのでエロさは全く無い。レーティングによっては違うのだろうか?
「グォォア!」
「なっ!? 止めろ!」
「不味いッ、『ヒール』!」
フジツボが高く掲げたジェレミーを地面に叩きつけたので慌てて回復魔法を飛ばす。しかしフジツボは再びジェレミーを持ち上げ始めた。
「『ライトボール』!」
「ギャッ!!」
ジェレミーを避けつつ動く触手に魔法を当てるのは難しそうなので、亀裂を狙ってもう一度攻撃を放つ。無事に当たった攻撃でフジツボが怯んだ隙に他のメンバーがジェレミーを救出した。
「MP残量が少ないのであまり突出しないで!」
「はい! ジェレミー、隊列を乱すな!」
「すんません……っ」
見た目も一番若いし、もしかするとジェレミーは新人なのかもしれない。強敵と初めて戦って逸ってしまったのだろう。
「おい、俺らも手伝うぞ!」
「こいつで押さえ込む!」
離れた場所で見守っていた漁師達が頑丈そうな大網を持って来る。触手より網の目が細いので動きを止められそうだ。
「おお、助かる!」
「攻撃が当たらないように気をつけてください!」
「任しとけ! オイお前ぇら、投網の準備だ!」
フジツボの攻撃が届かない位置で漁師達が網を持って広がる。
「神官様、もう一度魔法をお願いします」
「分かりました。『ライトボール』」
「ウゴォォ!!」
亀裂への攻撃で怯ませたら漁師達が網を投げる。暴れるフジツボを完全に押さえ込むほどの力はなかったが、触手に絡まる網で動きを鈍らせる事はできたようだ。
「ググゥ……ッ」
「気をつけろ、様子が変わったぞ!」
しばらく暴れていたフジツボだったが、今度は触手を岩に押し付けるようにモゾモゾと動きだした。そして。
「取れた!?」
「ングゥ、ムグゥ……」
亀裂を含む岩の四分の一ぐらいが剥がれて、触手が地面を這いずり海に逃げようとしている。どうやら元々存在する岩にくっついていたようだ。
「逃すかぁ!!」
「『ライトボール』」
漁師達が網を引き、警備隊が槍を突く。俺も光魔法を撃ち込んで支援した。
どうやら岩から剥がれたことで防御力が下がっているらしく、ムガムガと苦しげに呻きながら必死で逃げようとしている。岩にくっついたままならもう少し耐えられたのにと思うが、どの道ジリ貧だったので一か八か逃走を図ったのだろう。
「ンググゥゥ……」
「やったぞ!」
「うぉおおお!!」
しばらくしてフジツボが光に包まれて消え、警備隊と漁師達は勝鬨の声を上げたのだった。
「あんがとよ。助かったぜ」
「いえ、漸くご恩返しができました」
「気にせんでも良いのによ。律儀なお人だなぁ」
寧ろ今の今まで忘れていて思い出すことも無かったし、結局おじさんの名前も思い出せなかった。
名前を呼ぶ空気になるとまずいので会話が広がる前に教会に戻ろう。
警備隊の面々と別れて教会に戻る道すがら、使い道の無いドロップ品を売ろうと思い冒険者ギルドに寄ってみる。
収納鞄を開いてドロップ品を確認すると『イワヘビガイの触腕』と『イワヘビガイの殻』が追加されていたので、あのフジツボはイワヘビガイという名前だったようだ。
ついでにウィンドウを開いてステータスを確認すると、フジツボとの戦闘でレベルが1上がっていたので魔力に振っておく。今までは防御を優先して上げていたが、先程の戦闘で攻撃も重要だと思い知らされたからな。
ーーー
【ユクテスワ】Lv.6
種族:人間
職業:神官・戦士
筋力:15
防御:16 (+2)
魔力:13
精神:21
速度:10
技術:10
〈スキル〉
回復魔法Lv.3
光魔法Lv.1
浄化Lv.1
身体強化Lv.1
拳Lv.1
〈装備〉
・木の杖(重量3、MP消費低下)
・信徒の服(重量1、防御+2)
・綿のスラックス(重量1)
・革のボディバッグ(重量1、容量5)
・革の靴(重量1)
ーーー
(ん……?)
戦闘に集中していたので気づかなかったが、マリからチャットが届いていたようだ。
〈しばらく一人でレベリングしてるね〉
うーむ。俺もチップじゃレベリングし辛そうだし、マリと合流した方が良いだろうか。
飛空艇に乗るにもコウと会わなくてはいけないので、どのみち大会前にキンキッドへ出る必要がある。それならマリに手伝ってもらいながら自力でエストまで進んだ方が戦闘経験も積めるのではないだろうか。
〈合流したいんだけどチップに来れる? あとイワヘビガイのドロップ品って要る?〉
なんかレアモンスターっぽかったし欲しがるかもしれないので聞いてみる。
〈ドロップ品は全部ホームに入れたい。最初必要無くても後から役に立ったりするから〉
〈オオトゲウニの針も残してた方がいいかな?〉
〈あれば欲しい。棒手裏剣の芯材に使える〉
危なかった。もう少しで二束三文で売り払うところだった。
〈了解。チップの教会で待ってる〉
〈すぐ行くよ。素材分のお金は渡すから〉
じゃあ教会に戻るとするか。




