魔法講義と浜辺の魔物(ユキ)
「次に四大属性についてですが、火は風に強く、風は水に強く、水は火に強い三竦みの状態です。土は他の三属性に対して強いのですが、攻撃魔法が殆ど無いので戦闘で使うとしたら土壁を作る防御魔法が主でしょうね」
「それだけでもかなり有利に感じますが……」
「壁は正面からの攻撃しか防げないので回り込まれてしまうんですよ。対人は兎も角、モンスターは素早い者や群れを作る者が多いですから」
「そうなのですか」
「光魔法には雷を降らせるアーツがありますから、壁を張られた時は上から攻撃するのが良いでしょう。光と闇はどの属性にも平等に攻撃できます」
「俺の光魔法はまだレベル1なのですが、雷はどのくらいで取得できるのでしょうか?」
「雷はレベル4のアーツなので大会までに取得するのは難しいかと思います。回復役として出るなら問題ありませんが、どちらにしろ戦闘の立ち回りを覚えなくてはいけませんね」
「他に大会までに鍛えた方が良いスキルはありますか?」
戦闘スタイルは自分で考えるべきかとも思ったが参考までに聞いておく。NPCしか知らない情報もあるかもしれない。
「そうですね……毒はメジャーな状態異常なので『浄化』と、防御力も上がる『身体強化』は上げた方が良いと思いますよ」
「ありがとうございます。浄化はどうやれば上がるのでしょうか?」
「状態異常を解除し続けるしかありませんね。チップには毒持ちのモンスターはいませんから、別の町の教会に行けば治療の機会がありますよ」
そういえばマリは出血ネズミをテイムしていたな。いつ来るか分からない患者を待つより、ちょっと噛んでもらって自分を治し続ければ良いか。
掲示板では毒耐性を得られないかと解毒や毒による自殺を繰り返したプレイヤーがいたが、何度やっても耐性はつかなかったようだ。検証の結果、精神ステータスを上げれば状態異常にかかりにくくなるというのが分かったが、接近戦だと魔力と精神は捨てている者も多い。
精神が高いと魔法攻撃によるダメージも軽減できるので神官は魔法や状態異常に強い職業なのだ。魔法は遠距離攻撃が多いので前線に出ない回復役には助かる仕様だ。
「連れて来たわよ!!」
バーン! と効果音が鳴りそうな登場でオバチャンが戻って来た。後ろには警備隊らしき四人組の若い男性達を引き連れている。
服装は全員紺のシンプルなTシャツとグレーのズボンで、武器は槍と盾で統一されているので支給品だろうか。
「神官様が回復役で同行してくれるって聞いたんだが……」
「強引に頼まれたんじゃないか?」
「断れなかっただけなら無理しなくて大丈夫だからな」
「ウチの母ちゃんがすまねぇな」
「何言ってんのよー!! 神官様が行きたいって言ったのよ!」
いや言ってはいなかったが。
どうやら無理矢理オバチャンが誘ったと思われているようだ。まぁ実際そうだったしな。
「いえ、俺も実戦を積まなくてはいけませんから助かります。戦闘は素人なので足手まといかと思いますが、治療なら任せてください」
「いやいや、こっちもすぐに治療してもらえるのは助かるよ」
「定期的にモンスターを間引かねぇと怪我人が増えるからな。特にオオトゲウニは弱いくせに数が多い」
「待たせたわね!!」
ババーン! ともう一人のオバチャンも戻って来た。後ろには偏屈そうなおじさんを連れている。
「神官様にはウチの娘を治療してもらったからね。討伐に行くならこれを使って!」
「ふん、孫が世話になったな」
おじさんに渡されたのは綺麗な石が埋め込まれた身長ほどある木製の棒だった。鑑定を持っていないので効果が分からないが、よく魔法職が持っている杖だろうか。
「それはMP消費を抑える杖なの。ウチは代々続く魔法杖の店なのよ」
「魔石が切れたら取り替えなきゃならん、石の色が濁ったら持ってこい」
「ありがとうございます。大切にしますね」
現実だったら初めて会った人から無料でこんな物を受け取ることは絶対に無いが、ゲームなので貰えるものは遠慮なく貰っておく。
そんなこんなで教会を出て西の海岸に向かう。ゲーム開始の時に流れ着いた海岸だが、あの時とは違い体長1mほどの巨大なウニが砂浜に点々としていた。
(いやデカッ!?)
実際見るとすごい圧迫感だ。怪我人が続出しているのも納得である。
「よし行くぞ。神官様は下がっててくれ」
「はい」
男達が巨大ウニに向かって行く。
HPバーは本人しか見えないのだが、神官は味方のHPバーが見えるので減り具合を見ておく。
しばらく観察しているとウニの攻撃パターンに気づいた。トゲに覆われているウニだが側面からしかトゲを飛ばせないようで、男達は盾を正面に構えて上から顔と槍を出して攻撃していた。
トゲは盾で阻まれるのでHPは全く減っていない。男達は慣れた動きでウニを囲み、一体ずつ安定して倒していく。
する事が無いので暇だ。光魔法レベル2でバフを与えるアーツが取得できるらしいが、勝手に魔法を打つ訳にもいかない。
(姫プレイだこれ……)
そうこうしている内にウニの駆除は終わった。
「神官様ありがとな!」
「いえ……何もできず申し訳ない限りです」
「いや、何かあってもすぐ治してもらえるって分かってると心強いんだよ」
「寧ろ出番が無かったのは良いことだぜ! 誰も怪我しなかったんだからな」
住民からすればそうだろうが、スキルは使わないと上がらないのだ。早く町を出てマリとレベリングした方が良いかもしれない。
「おーい、神官の兄ちゃん!」
闊達な声に振り向くと、見覚えのあるおじさんが手を振っていた。
(名前なんだっけ……!)
「お久しぶりです! 中々顔を出せず申し訳ありません」
「いや、元気そうで良かったよ!」
名前が思い出せないので勢いで乗り切る事にした。俺を教会まで案内してくれたチュートリアルおじさんだという事は覚えていたのだが……。
「警備隊も居んのか、丁度良いからちょっくら来てくんねぇか?」
「何かあったのか?」
「海の中から攻撃してくるモンスターが棲みついちまったらしくてよ、漁に出れねぇんだわ」
「それは大変ですね。すぐに行きましょう」
俺は食い気味で答えた。海の中なら遠距離攻撃のできる光魔法の出番かもしれない。
警備隊の面々も納得してくれたので歩きながらおじさんが説明してくれる。
「蛇みてぇな奴でよ、何匹もいるんだ。怪我人も出てるから治してくんねぇか」
「もちろんです。急ぎましょう」
漁場に着くと早速治療を開始した。と言ってもスキルレベルが上がっているから一気に回復魔法をかけられる。全員軽傷だったので治療はすぐに完了した。
「おお、すげぇな!」
「あっという間に全員治しちまった……」
テンプレなヨイショを貰いつつ問題のモンスターの位置を尋ねる。おっさん達に拝まれても嬉しくない。
「あの岩場の辺りです」
「神官様、俺達が先に行きます」
「お願いしますね」
心なしか警備隊の態度も恭しくなっている。
警備隊が先行して俺は少し後ろで待機していたが、蛇らしき影は無い。
「うーん、いないなぁ」
「もしかしたらもう逃げたのかもな」
「岩場の影に向かって光魔法を放ってみましょうか?」
「お願いします」
「ではいきます……『ライトボール』」
ばしゃんと音を立てて光の玉が海に飛び込む。水面に当たる時に水が飛び散ったので、あの光の玉には物理的な力が存在しているようだ。
「ォォォ……」
……? 何か聞こえた気がした。
警備隊にも聞こえたらしく、視線を合わせて頷いている。
「もう一度お願いできますか?」
「はい。『ライトボール』」
今度は岩に少し掠る。その途端、岩だと思っていたものが身動いだ。




