毒薬と棒手裏剣の強化
(戦闘スタイルも考えなくては……)
今の基本スタイルはアイテムによる攻撃だが、今回のイベントでは収納アイテムの使用制限があるのだ。薬品ホルダーや投擲武器用のホルスターは装備しても良いが、鞄カテゴリーの装備は駄目らしい。
コウの装備だと収納できるアイテムは薬品と投擲武器がそれぞれ5つずつ。棒手裏剣は10本で1セットなので実質50本持ち込めるが攻撃力が低い。
(やっぱり強力な毒を作って棒手裏剣に付与する方向になるか)
出血ネズミを呼んで口を開けてもらう。出血毒の採取のためにマリに頼んで工房に一匹だけ常駐させている個体は、AIが学習しているのか言葉が通じるようになってきたので指示が出しやすくて助かる。
シャーレの上に横向きに置いたガラス棒を噛ませて牙からポタポタと分泌される毒液を集めるのだが、いかんせん体が小さいので溜まるのが遅い。
噛み続けるのは苦ではないようなのでそのまま待機させる。最終的には小さな体のどこに入っているのか不思議なほどの量が集まるが、特に体調を崩すこともないようなのでそういう仕様なのだろう。
それに普通のネズミとは違ってヘビのような形の牙をしていたりするのだから、現実に即して考えるよりモンスターだから頑丈なのだと割り切ってしまった方が気が楽だ。
出血毒を採取しながら大会規定を読む。
大会前に出場部門と使用する装備の申請をしておいて、レベル分けは大会直前にされるのか。大会中の装備の変更は認められないが、装備の損耗や使用したアイテムは試合毎にリセットされて元に戻るようだ。
テイムモンスターはプレイヤーにつき一匹まで出場できる。
予選はバトルロイヤル形式で数を減らし、本戦はトーナメント形式となる。
(出血毒以外の選択肢も持っておくべきだろうな)
出血対策をされていたら詰む。特に神官は状態異常耐性が高く、回復も行えるので相性は最悪と言えるだろう。
神官は精神のステータスが高く魔法攻撃は通り辛いため、倒すには物理攻撃力の高い武器が必要となる。しかし、防御が高い相手の時に出血付与の棒手裏剣が無くなっても詰むので、ホルスターは棒手裏剣で埋まる予定だ。
(つまり、物理攻撃ができる薬を薬品ホルダーにセットできれば解決する……!)
幸い、物理攻撃ができる薬には心当たりがある。どうせ耐久力の低いステータスなので大技が当たれば一撃死もありうるのだ、回復薬の本数は少なくても良いだろう。
(毒の採取もそろそろ終わりか)
ネズミに労いのクッキーを渡して休ませる。カリカリと大人しく食べているが、ヘビのような形状の牙でどうやって咀嚼しているのかは謎だ。
(まぁ、気にするだけ無駄か)
気を取り直して毒薬の作成を進める。
取り出したのはベノムバイパーの毒腺だ。
毒薬のレシピは有毒アイテムを粉砕して水に溶かし、薬瓶に詰めて『錬成』スキルを使う。これは基本のレシピなのでポーションと同様アレンジ次第で効果を高める事ができる。
生産系の掲示板で有名なのは水の代わりに酒を使うこと、丁寧に濾すこと、そして同系統のアイテムを組み合わせること等だ。
例えば、蛇系モンスターであるバイパーの牙は無毒なのだが、上位種のベノムバイパーの牙と組み合わせることで、ベノムバイパーだけを素材にするよりも効果が高くなる。
蜂モンスターであるハニービーの針とハニービーソルジャーの針でも同様だ。
そんな訳で、毒薬の素材といえば蛇からドロップする牙か蜂からドロップする針、大抵この二種類。どちらも森林系のフィールドならすぐに見つかるモンスターなので簡単に入手できる。
しかし出血ネズミの毒液とベノムバイパーの毒腺を組み合わせても効果が高まることは掲示板には載っていなかった。まず出血ネズミから毒液を採取するのがテイムしていないと難しいし、ベノムバイパーの毒腺は牙より少し毒性が強いだけなので価値はあまり高くないがレアドロップなので流通が少ない。
試行錯誤の末に編み出したのは、まずベノムバイパーの毒腺を絞って毒液のみ取り出し、先程採取した出血ネズミの毒液を混ぜ、さらに度数の高い酒を足して錬成するというレシピだ。
濾す過程は入れても変化が無かった。元々液状だからだろうか?
それと、出血ネズミの牙と他の鼠モンスターの牙を組み合わせると効果が下がった。ハニービーの針とアイアンビーの針でも効果が下がるので別系統のモンスターに分類されているようだ。
という事は出血ネズミとベノムバイパーは近い種族なのか? 出血ネズミの牙がヘビに似ているのは何か繋がりがあるのだろうか。
ちなみにアイアンビーは無毒でハニービーより少し動きも遅いが、その分防御力が高く火耐性も持つ鈍色の蜂モンスターである。洞窟状の巣を作るのでアナバチがモデルなのかもしれない。
現状で最大限効果を高めた毒液が5本完成した。早速鑑定してみる。
ーーー
【毒薬(出血毒)】
出血+30の状態異常を与える
ーーー
(問題はここからだ……)
そう、棒手裏剣にこの特性を付与するのだ。
投げナイフで散々失敗したトラウマが蘇る。技術ステータスの高さからすれば成功率は高くなるはずなのだがリアルラックが低いのだろうか。
僕は運が収束する説はオカルトだと考えている。確率は収束するので試行回数が多くなれば成功回数が増えるのは当然だが、失敗も同じだけ増えるのだ。
つまり何が言いたいかというと、投げナイフで失敗したから今回は運が上がるなんてあり得ないという事だ。
「『錬成』」
鑑定結果を見るのにドキドキというよりもイライラする。
いっそ逆ギレしながら鑑定を行なった。
(運ゲーは嫌いなんだよ……!)
ーーー
【棒手裏剣】
ステータス:攻撃+5
属性:なし
追加効果:出血+3
ーーー
出血+3は成功である。棒手裏剣は10本で1セットなので付与も十分の一になるのだ。
攻撃+5で出血+3の場合、命中ダメージが5、継続ダメージが毎秒3で60秒間なので合計185ダメージだが、実際には相手の防御力で削がれたり部位ごとの当たり判定で変動したりするので割とギリギリだろう。
このゲームではHPは数値化されないため自分にだけ見えるHPバーの減り具合で判断するしか無いが、ポーションの回復量などから検証したプレイヤーによるとHPはレベルで増えるようで、レベル50の場合HPはおよそ300程になるらしい。
それにしても僕は確実にギャンブルを楽しめない性質だと思う。なにせこの付与だけで既にログアウトしたくなっているのだ、成功しているにも関わらず。
せめて何も考えずに終わらせようと一気に錬成していく。確認すると全て成功していた。
(疲れた……)
確実性の無い作業は本当に苛つく。失敗に理由が無いのなら尚更だ。
疲れたので今日はもうログアウトしようかと考えたが、マリに頼みたい事があったのを思い出して忘れない内にチャットを送る。返事はすぐに返ってきた。
〈ベノムバイパーってテイムできない? 毒液を定期的に採取したくて〉
〈次のテイム枠開いたら考えてみるけど、大会までには無理かも〉
〈いつでも良いよ。他にテイムしたいならそっち優先してくれて大丈夫だから〉
〈了解〉
そういえばマリはどのテイムモンスターで出場するのだろう。やはり出血ネズミのリーダーだろうか? それか大会までに強いモンスターをテイムするつもりなのかもしれないな。マリは盾役でユキは回復役なのでメインアタッカーが必要になるのではないだろうか。
後で教えてもらおう、と考えながら工房のソファーでログアウトする。一応自室もあるのだが、工房に居る事が多いのでログアウト用のソファーを置いているのだ。
まぁソファーが無くても、特殊な場所以外ならどこでもログアウトできるのだが……ただしアバターは残るので屋外でやると追い剥ぎに遭ったりするらしい。
ログアウトする直前に出血ネズミが駆け寄ってきて額の上でくつろぎ始めたが、この世界の生物は排泄しないので次ログインした時に汚れている心配は無い。特に不都合も無いのでそのままログアウトした。
未進化のバイパーはステータスに現れないほど弱い毒を持っていて、出血ネズミはバイパーを頻繁に捕食することで生物濃縮により毒性を得たという裏設定です。なので同系統の毒を持っています。
牙の形は毒を注入しやすい形になっただけで蛇とは関係ありません。ただの収斂進化です。
ベノムバイパーは進化して毒性が出血毒から神経毒に寄りましたが、バイパーから分岐する別の進化先では出血毒を持つ上位種になったりもします。
生物大好きなのでモンスターの生態を考えるのが楽しいのですが、煩くなるから本編では説明しないので裏設定が溜まっていきます……出血ネズミの設定メモだけでもニ千字くらいあるんですよ。




