自動給餌器
「うーん……」
どうしたものか、と手の中で金属板を組み合わせながら唸る。
錬成のアーツ『金属加工』で多少の成形や溶接なら簡単に行えるので小さい模型を作って試行錯誤しているのだが、加工よりも構造自体が悩ましい。
鳩時計を改造して自動給餌器を作ろうと考えたまでは良いが、給餌が二十四時間に一度であるのに対して鳩が出るのが一時間毎なのだ。
鳩時計の裏板を外して鳩を押し出す部分の構造を確かめる。時計部分の仕組みに金属の細い棒が接続されて連動しているようだ。
(時計部分は弄りたくないから金属棒に部品を後付けしよう)
鳩の動きに合わせて仕掛けが動くようにしたい。だがしかし問題は鳩が一時間毎に出てしまうことだ。
(餌皿そのものを押し出すのではなくて、錘を押し出して容器に落とし、二十四個分の重さになるとストッパーが外れて餌が餌皿に落下するようにした方がいいか……?)
金属棒に付け足す部品を形成する。
縦長の箱の中に積み重ねた錘を、下に開いた錘一つ分の隙間からだるま落としの要領で押し出す造りだ。
(二十四個積むと高さが嵩むな。それに、最低でも二日分使えるようにしたいんだよなぁ)
毎回セットし直すのでは自動化する意味が薄くなってしまう。考えた末、螺旋状にスロープを作りコイン状の錘を並べることにした。
スロープ入りの箱を鳩時計の上に取り付ける。箱の上部に貯金箱のようなスリットを開けたので、錘のセットもそこから一枚ずつ投入するだけで済む。
(これなら全部セットすれば三日は保つな。次は餌の供給方法か)
連続使用するとなると、餌は大瓶にでも詰めて瓶底から一定量ずつ落ちる仕掛けにするべきだろうか。
(大瓶はとりあえず金属で代用しよう)
残量を確認できるように餌入れはガラスにしておきたいのだが、ガラスには金属加工が使えないので金属板で餌箱を作っておく。実用化の目処が立ったらガラス工房に発注すれば良い。
構造が固まってきたので次は餌箱の仕掛けだ。しばらく金属を弄った後、頭を抱えて机に突っ伏す。
(餌が減る毎に餌箱の底にかかる負荷が変わるから、ストッパーを外すための錘の必要量が変化してしまう……!)
「進捗どう?」
「ちょっと駄目かも……」
次々に現れる問題点に唸っているとマリが工房に入ってきたので、作りかけの部品を見せて説明する。
「鹿おどしみたいに餌をちょっとずつ溜めて、一定量で餌皿に供給されるようにするのはどう?」
「なるほど……!」
鳩時計からは離れたが、光明が見えた気がして模型を試作する。餌箱の底に砂時計のように少しずつ餌が落ちる穴を開けて、その下に鹿おどしを模した機構を組み込む。
しかし。
「固形飼料が穴に詰まっちゃうねぇ……」
「穴を大きくすると餌の供給速度が上がってしまうし、どうしようか……」
大型モンスターなら大丈夫かもしれないが、僕らが使用を想定しているのは出血ネズミ達やリトルパンテラなどの小型モンスターだ。全員分の餌を一皿にまとめて与えると考えても多すぎる。
「そうだ! さっきの鳩時計に戻って、錘を鹿おどしに落とすのはどう?」
マリがさらさらとノートに設計図を書いていく。
鹿おどしの受け口に錘を溜めて、持ち上がった後ろの部分で餌箱のストッパーを外す構造だ。これなら受け口が空になって鹿おどしが戻るとストッパーもまた閉じるので、餌が無くなるまで連続使用できる。
「これで部品は一旦完成かな」
「組み立ててみよう!」
実際に時計と連動させても動作するのか確かめなくては。と、その前に問題が一つ。
鳩時計は壁掛けだったのだが、錘とスロープ入りの箱を上に追加したため重量がかなり増えているのだ。壁から外れる可能性が高いので置き時計のようなケースを作って時計を嵌め込む。
餌箱もそれなりの大きさなので時計の下に組み込み、ケースを閉じて内部機構が見えないようにしておく。
ぽっぽ、ぽっぽ。ちゃりん。
鳩時計が鳴くと同時に錘が落ちる音がする。
針を指で進めて錘を落とすのを二十三回繰り返す。タイムラグを考えて二十三時間毎に餌が供給されるように調整したのだ。
ざざー、と箱から落ちてくる固形飼料を餌皿が受け止める。カタン。箱の底がばね仕掛けで閉じて餌の流れが止まった。
「成功だ!」
思わずマリと歓声を上げる。閉まる時に餌が二粒ほど蓋に挟まれてしまったが、漏れてくる訳でもないのでそこはご愛嬌だろう。
連続使用のテストを続けて行い、問題なく動くことを確認したので餌箱用の大瓶の仕様書を作成する。
「これ、プチドラゴンを入手した人達に売れないかな?」
確かに今回のイベントでプチドラゴンを入手した人は、元々テイムモンスターを育てるつもりが無かった人も多いだろう。
召喚士のようにカード化しておけるのなら別だが、毎日ログインできない人もいるはずだ。
「需要があるならいいんじゃないかな。瓶は多めに発注しておこうか?」
「そうだね。仮に売れなくてもそのうち私のテイムモンスターが増えるだろうし、特注の値段って依頼料が殆どだから一個も二個も大差ないしね」
「分かった。こっちは使用した金属の量。安くするためケースは木製にしようか」
「完全に特注だと高くつくから、似た大きさの既製品の棚をベースにして扉を付けてもらおうよ」
「その辺は任せるよ。木工工房は詳しくないから発注お願いね」
「おっけー、でも発注する前に需要確認しておこうかな」
マリがウィンドウを開いて何やら操作し始めた。需要確認と言っていたので欲しそうな人に連絡しているのだろうか?
「プチドラゴン入手できたフレンドでも居るの?」
「いや、掲示板に情報流して購入者募集してる。プチドラゴンを入手した全員が見てる訳じゃないと思うけどね」
しばらく掲示板を見ていたマリが驚いた声を上げた。
「えっ、もう購入者見つかったよ!」
「早いね!?」
「召喚士や農家でも欲しがる人居るかもしれないと思ってテイマー板にも情報流したんだけど、プチドラゴンを入手したけど育て方が分からないっていう人が丁度相談してたところだったみたい」
「あー、それもそうか……」
「正確にはプチドラゴンは騎獣であってテイムモンスターではないんだけど、育て方は同じだからね」
言われてみれば、プチドラゴンを手に入れてもテイムモンスターの扱いが突然分かるようになる訳ではないのは当然だ。そして分からなければネットで調べるのはもはや現代人の習性と言っても過言ではないだろう。
イベントが終了したのは約三時間前、テイマー板で質問している最中なのは寧ろ当たり前の流れですらあった。
「まずは原価計算しないと……」
鳩時計の購入費、特注の大瓶、木製ケース、金属板……とマリがぶつぶつ呟いている。
「このゲームは特許申請できないから真似される可能性もあるんだよね。最初に高値で売り抜けたいから技術料と人件費は多めに取っておきたいな。ガラス工房や木工工房との打ち合わせとか、色々動かなきゃいけないし」
「技術は安売りするなって言うしね」
「そうそう。……でも、4万5千Gになっちゃったけど大丈夫かな!?」
鳩時計が1万Gなのでちょっと強気の価格設定になってしまった。ちなみに現在の最前線より少し劣るランクの剣と同じ位の値段である。
「攻略組なら普通に出せるけど、攻略組は毎日ログインするだろうから必要無さそうだし……」
「中堅ランクなら数日で貯めれると思うけど、買うかどうかは分からないね」
「……とりあえず掲示板に流して受注生産にしようか」
売れるかどうかは不明だが、売りたくて作った訳ではないので僕としてはどちらでもいい。
売れればマリは喜ぶだろうか?
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