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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第一章 錬金術師
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竜の卵

鍋がコトコトと音を立てている。蓋を開けてふつふつと沸騰する中身を掻き回し、火を止めた。

入っているのはポーションではなくカレーだ。

三日目が美味しいとよく聞くが僕は作りたてのサラサラしたカレーも好きだ。まだ味の染みていないジャガイモも蒸かし芋のようで嫌いじゃない。


「ご飯できたよー」


マリに声を掛けてカレーを皿に盛り付ける。最後に温泉卵を乗せて出来上がり。


「ありがとぉ……」


しょんぼりした顔をしたマリがとぼとぼ歩いてくる。


「どうしたの? 元気無いね」

「竜の卵ゲット出来なかった……」

「竜の卵? 盗まれたやつ?」


セイレンが封鎖された原因である盗まれた竜の卵のことだろうか。


「うん。そのイベント報酬が竜の卵なんだよ」

「えっ、持ち主に返さないの?」


何故盗まれたものが報酬になるのだろう。依頼主が損をするだけではないか。

そもそも、竜の卵はアイテムなのか? 使用方法も何も分からないのだが。


「正確には孵化した『プチドラゴン』なんだけどね。犯人を捕まえる時に偶然孵って、プレイヤーについていくようになるんだよ」


マリが今回のイベントの詳細を教えてくれる。

今回のイベントはセイレンだけでなく各地で起きており、また同じ町でも別時空ごとに発生しているらしく、孵化したプチドラゴンを入手したプレイヤーは既に30人を超えているのだとか。

犯人確保の貢献度が高かった人を最初に見る仕様のようで、たとえ間に割り込んでも横取りは出来ないらしい。


テイム以外の方法で手に入れたモンスターは『騎獣』と呼ばれ、戦闘には参加しないが乗って移動できるらしい。しかしやはり召喚スキルを持っていないと餌やりが必要で、放置すれば逃げてしまうようだ。

その手間を緩和させるためかホームを持っていればNPCの世話役を雇えるようになったが、商業ギルドを通さないといけないため商業ギルド嫌いのマリはなんとか自動給餌器を開発したがっている。


「プチドラゴンは子猫サイズだから騎乗できるのは随分と先だろうけど、ほぼ確実に飛べるようになるだろうし、竜騎士への転職条件に含まれるんじゃないかって言われてるんだよね」

「竜騎士になりたいの?」

「いやなりたくないけど。ていうか竜騎士自体プレイヤーがなれるのか判ってないし」


プチドラゴンを手に入れたのは所謂『攻略組』が多かったが、各地でイベントが発生したためそうでない者もちらほらと居たようだ。MMOとはいえ先行プレイヤーの独占状態にならないようにそうしたのだろうか。



夕飯のカレーを食べながら今後の目的を考える。今日もログインするつもりだが、特にやりたい事も無いのでマリの言う自動給餌器について考えることにした。

魔道具ならエストの方が情報がありそうだ。町の封鎖は解かれただろうから戻って図書館にでも行ってみようか。


猫舌のマリは熱々のカレーに苦戦している。はふはふと少しずつ食べるマリに声を掛けて先に食器を片付けた。

食器を食洗機にセットしてリビングに戻ったら、ソファーで食休みしつつスマホを取り出して自動給餌器の構造について調べる。

うーん、構造はどうとでもなるが問題はタイマー機能だな。


(僕の専攻は工学じゃないんだよなぁ……)


「マリ、二十四時間計れるタイマーって作れる?」

「むりぃ」


寧ろそれはマリの得意分野ではないだろうかと思い、振り返って尋ねてみるも間髪入れずに断られた。


「無理かぁ……自動給餌器作れないかと思ったんだけど」

「私機械のことはさっぱりだからね」

「仕事でプログラム組んだりするのに?」


マリはフリーランスでIT関係の仕事をしている。僕よりは機械に詳しいかと思ったのだが……。


「コードが組めるからってパソコン本体にも詳しいとは限らないよ。ハードとソフトじゃ根本的に違うの。コウだって毎日スマホ使ってても中の構造なんて知らないでしょ」

「まぁ確かに」

「そもそもゲーム内じゃ電気工学も半導体も再現出来なくない?」


驚いた。そんなレベルの技術が必要なのか。


「タイマー作るのってそんなに大変なんだ……」

「前提としてデジタル時計が必要だからね。電気要らずのキッチンタイマーもあるけど、あの構造で数時間単位を計るのは難しいと思う」


そう言われてそれもそうかと納得する。まずはゲーム内で使用されている魔道具などの技術を調べるべきだろうか。


「どうしてもって言うなら、からくり機構の方が再現性が高いかも。ネジ式の懐中時計ならエストで売ってたよ」


その言葉に、ハッと閃いた。

ネジ式の懐中時計があるなら振り子時計もあるのでは? あれも確かネジ式だったはずだ。

鳩時計を改造すれば定時で餌皿を押し出す自動給餌器が作れるのではないだろうか。


マリに礼を言い、善は急げとばかりに自室へ行ってヘッドギアを取り出す。ゲームにログインすると視界の端にお知らせ通知のアイコンが表示されていた。


(内容は……今回のイベントの詳細か)


お知らせは大規模イベントの終了に伴い公開されたイベントストーリーだった。公式SNSでは動画化されてアーカイブで見られるようで、ゲームの宣伝も兼ねているのだろう。

こういった動画に映るプレイヤーには事前に通知され、出演料も多少支払われるらしい。そうでなくても映りたくてイベントに参加する者もいるのだろうが。


ゲーム内からでも動画を再生できたので視聴してみる。



羽ばたくような音がして、雲一つない青い空を赤い影が横切った。追従するように画面が固定され影をズームアップしていく。

風を切って飛んでゆく赤いドラゴンが大写しになり、背中に乗った金髪の女騎士の横顔が映る。

大きな町を見下ろすアングルから《王都ハーツ》と画面中央にテロップが出て、町の奥の城へとドラゴンが降り立つのが見えた。

画面が切り替わり、屋内が映し出される。兵士らしき人々がざわざわと噂話をしていた。


──町の封鎖を

──竜騎士の派遣は

──竜の卵が


先程の女騎士が人々の間を抜けて何処かの部屋をノックする。


「お呼びと伺い参上しました。三番隊所属、クリスティアナです」

「入りなさい」


扉を開いて入ったのは、内装からして執務室だろうか。中に居た人物に敬礼した女騎士の前に書類が置かれる。


「もう話は聞いているかもしれないが、王都へ輸送中の竜の卵が盗まれた。君には犯人確保と卵の保護のため隊を率いて捜査にあたってもらう」

「はっ!」


再び画面が切り替わり、今度は狭い地下室のような場所が映される。散乱した書類には竜について書かれているようだ。

薄暗い部屋の中でローブと白衣を合わせたような上着を羽織った不健康そうな男がぶつぶつと何か呟いている。

にやり、と嗤った男が机に置かれた木箱を開けると、中には綿が敷かれて子猫ほどはある大きな卵が鎮座していた。

にやにやと卵を眺めまわしていた男が何かに気付いたように振り返る。


「見つけたわよ! 大人しく投降しなさい!」

「くっ……!」


騎士達が部屋に雪崩れ込み男を取り押さえようとするが、男が壁際の紐を引くと、男と騎士達の間に上から鉄格子が落ちてきた。木箱を抱えた男が別の紐を引いて開いた隠し扉から脱出する。


「なっ……待ちなさいッ!」



一本目の動画はここまでだった。

他に三本の動画がアーカイブ化されており、それぞれ別のプレイヤーが解決した内容だった。IFストーリーという事なのだろうか。


馬に乗って逃げる男を走って追いかけた恐らく速度極振りのソロプレイヤーや、パーティメンバーと共に包囲網を張って追い詰めたプレイヤー、騎士達と親しくなり一緒に行動して犯人を逮捕したプレイヤーの話がまとめられていた。

前二つのプレイヤーは追いかけっこのようなアクション感が強かったが、最後のプレイヤーは普段から積極的にNPCと仲良くするタイプらしく、色々な人に聞き込みをしたり知人らしきNPCから情報が持ち込まれたりと、謎解き感があって個人的には一番面白かった。


(僕も参加すれば良かったかなぁ……)


行動によって変わるマルチストーリーは中々楽しそうだ。次の機会があればイベント参加も視野に入れてみよう。

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