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妻と始めるほのぼの闇堕ち錬金術師VRMMO  作者: hama
第一章 錬金術師
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スキュラ

コウ視点に戻ります。

店の裏口から出ると視界の端にクエスト受注のアイコンが出ていた。


(依頼主は『人魚の歌声 メアリー』……あの人メアリーって名前だったのか)


コウにとってはメアリーの弟とその幼馴染の名前の方が重要だが、クエスト詳細には表記されていない。

気持ちを切り替えて次のクエストに向かおうとした時、ピアスをバチバチに開けたあからさまにチャラい男達が絡んできた。しかも明らかに酔っている。


「ねぇ俺らと一緒に飲み行かない?」

「仕事中ですので」


面倒なのでそれだけ言って横を通り過ぎようとしたら後ろからぐいと肩を掴まれた。ぐらりと体が傾いたがなんとか足を踏み換えて体勢を立て直す。


「コーエンさ……」

「うぐっ!?」


振り返ると腕を掴まれたので咄嗟に手首を回して掴んできた手を外し、そのまま掴み返して反対の肘で鳩尾に一撃喰らわせた。

どうやら一般市民のようであっさりと倒れたのでもう一人の男も側頭部に回し蹴りをお見舞いして昏倒させた後、名前が呼ばれた方に顔を向けるとラウルが所在なさ気にしていた。


「あー……大丈夫だったみたいだね」


助けようとしてくれたようだが、流れるような反撃にやる事が無かったらしい。


「お気遣いありがとうございます」

「いや、何も出来なかったからね。……ねぇ、この後食事でもどう? 美味しいお店知ってるんだ」

「すみません。まだ仕事が残っていますので」


気を取り直したように食事に誘われるが、スキュラの討伐に行かなければならないので断る。まぁ討伐が無くても面倒なので行かなかったとは思うが。


「そっか。じゃあまた今度誘うよ!」

「ありがとうございます。機会がありましたら是非」


(こういう時絡んでくる酔っ払いはオジサンか強面がセオリーだと思ったけど割とイケメンだったな)


さっさと背を向けつつそんな事を考える。

だが女性プレイヤー達からすればゲームの中でまでセクハラされたくないだろう。イケメン無罪という言葉もあるし、不快感はあれど同じ行動ならオジサンより生理的嫌悪感は薄いのかも知れない。



「なーん」


大きく揺れたからか猫達がポケットから顔を出したので、頭を撫でて宥めておく。サバトラは頭を引っ込めてまた眠り始めたが、キジトラは目が覚めてしまったようだ。


手にじゃれついてくるキジトラをポケットの中で揉みながら浜辺へ向かうと、たどり着いた浜辺には殆ど人が居なかった。


(綺麗な浜辺なのに海水浴する人も居ないのか……)


何故だろうかと不思議に思うも、良く考えれば人に化けるモンスターが居る場所で呑気に遊ぶ人が居ないのも理解できる。

しかし現実ではキロネックスが出る海にも観光客がたくさん来るので、実はゲームよりも現実の方が人間は無謀なのかも知れない。



浜辺を歩いているとキジトラが海に興味があるらしく暴れ出したが、海にはモンスターが居るためまだ弱いキジトラを放つ訳にはいかない。

抱き上げて宥めているとなんだか甘い匂いがする気がして、キジトラのおでこをすんすん嗅いでみる。


(バタークッキーみたいな匂いがする……)


何故こんな匂いがするのだろう……。

猫の神秘に想いを馳せていると、パレオを着た赤い瞳の美女がこちらに向かって来るのが見えた。キジトラを触りたいのだろうか?


(唇と爪は赤いけど、目は隠れていないから人間だな……)


一瞬スキュラかと思ったではないか。紛らわしい格好をしないで欲しい。

だが、ふと違和感を覚える。


(何だろう……彼女、よく分からないけど怖い)


不審に思って観察していると、違和感の原因に思い当たって背筋がひやりとした。


(よく見たら瞳孔が横長だ……!)


赤い瞳に真紅の瞳孔だったから気づくのに時間がかかったが、山羊の瞳のように横長の瞳孔をしている。

キャラメイクで選べる種族に横長の瞳孔のものは無い。


(特別なNPC住民でもなければ、ほぼ確実にモンスター……!)


キジトラをポケットに戻して警戒する。

手を伸ばせば届くのではないかというほど近くまで来た時、ずばん、と女の腹から狼の頭が飛び出してきた。


(やはりスキュラか……!)


警戒していたので難なく避ける。

工房にあった資料にはスキュラは前髪で目が隠れているとあったが、これはどう見てもスキュラである。


(そうか、レーティングによってモンスターの描写が変わるんだ!)


人間だと思っていたものが突然モンスターに変化するという心理的負担を軽くするため、子供向けでは目が隠れるように調整されたのだろう。


「キィャアアア!」


スキュラが耳をつんざくような悲鳴にも似た鳴き声を上げた。


(距離さえ取ればこっちのものだ)


攻撃が当たらない位置から出血を付与した棒手裏剣を投げる。

出血の確率は低いが棒手裏剣は10セットでアイテム枠を一つ使うので、実質50本持ち歩いているのだ。いくつかが発動すれば良い。


「ギギィイーーッ!」


髪を振り乱して暴れるスキュラから距離をとりつつ投擲を続け、棒手裏剣を半分くらい消費した後は攻撃力を上げた投げナイフに切り替える。


「ンナンナ」

「ナァ」


弾幕を絶やさないようにしていると猫達が騒ぎ出した。戦闘に参加したいのだろうか?


(テイムしている者以外でも命令できるのだろうか……)


そんな疑問も浮かんだが参戦させるには防御力が心許ないのでやめておく。その後、数分間の一方的な攻撃でスキュラの討伐は完了した。




(マリに鑑定のことを相談しよう)


ギルドに戻ってクエスト報酬を受け取った後、ログアウトのためエストに戻ろうとすると飛空艇の乗り場で止められた。


「すみません、現在この町から出るのは禁止されているんです」

「あっ……そういえば何か事件が起きているんでしたね」

「はい。ご迷惑をお掛けします」

「いえ、この辺りで泊まれるような場所はご存知ありませんか?」

「ギルドの近くでしたら宿泊施設が多いはずですよ。冒険者の方が泊まりますから」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「またのご利用をお待ちしております」


エストに戻れないのなら仕方ない。ギルド周辺に戻り今日の宿を探すとしよう。

ゲームだからか町に人が入る一方でも混雑とは無縁のようで、問題なく部屋を取ることができた。


「宿泊料は300Gです。……確かに受け取りました。お客様のお部屋は202号室です」

「ありがとうございます」


(現実じゃこうはいかないな)


ストレスフリーな仕様にほっとしながらログアウトすると、リビングには丁度マリが居た。

小腹が空いて夜食を作っていたらしく、僕にも分けてもらう。



「指名手配されないように殺す方法?」

「うん。鑑定のモノクルを奪いたくて」


ぱくり、とミニトマトのカプレーゼを口にする。酸味が効いていて美味しい。


「呑気にモグモグしてる場合? 相手はギルド職員だから失敗すれば二度と冒険者ギルドに行けなくなるよ」

「ギルドの外で会えたから行けるかもと思って。でも僕よりマリの方がそういうの得意でしょ?」

「うーん……リスクが高すぎる気がするけど、コウのゲームだから好きなようにプレイしたら良いんじゃないかな」


マリ的にはリスク回避のため別行動したいようだが、できれば協力してほしい。


「無理そうだったら諦めるけど、鑑定欲しいなー」


寂しげな顔を作ってねだってみる。

マリは長女だからか頼られるのに弱いんだ。僕と弟達限定だけど。


少し考え込んだマリが、ちょっと内容を端折り過ぎてて何とも言えないけど、と前置きして続ける。


「計画を立てるにも相手の行動パターンとか友好関係とか生い立ちとか趣味嗜好とか、何でも良いから情報が欲しいな」


前2つはともかく、生い立ちや趣味嗜好が役に立つ事があるのか僕にはさっぱり分からないが、マリなら情報を上手く扱うのだろう。とりあえず、現在わかる範囲で判明している関係性や会ってみた印象を伝えておく。



「僕の奥さんは頼もしいな」


僕がそう笑うと、マリは照れたようで僕の脇腹をてしてしと叩いて逃げていった。

『酔っ払いイベント』

酔っ払いに絡まれるイベント。自力で撃退するかNPCが助けてくれる。

テストプレイではおじさんだったがプレイヤー達から「あまりにも不快である」と批判が殺到したためチャラ男に変更された。

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