暴れ森牛(マリ)
マリ視点です。
ユキとフレンド登録を済ませて教会を出る。
攻略情報だと神官のストーリー進行はふた通りある。冒険者としてステータスレベルを上げる戦闘ルートと、冒険者ギルドで教会からのクエストを受注してスキルレベルを上げる職業ルートだ。ユキは後者を選んだのだろう。
(ユキは一人でも大丈夫そうだ……)
ほっとしながら冒険者ギルドに向かう。盾のスキル上げのためにボス周回をするので、ついでにボス討伐クエストを受けておこう。
職業『盾士』は『中級盾士』または『大楯使い』に転職できる。現在マリが装備しているのは腕につける小さな小楯だが、全身が隠れるような大楯は取り回し辛い代わりにカウンター型の攻撃スキルが優秀なので早めに転職したい。
(大楯使いになるには『盾』のスキルと『筋力』を上げないと)
転職先の職業によって前提条件が異なるが、条件を満たしている時に教会または神殿にある祭壇で祈ると転職できる。大楯使いは『盾Lv.3』と『筋力25』以上が条件だ。
『中級』と付く職業は、職業固定スキルと職業に関連する何らかのスキルレベルが4以上になっている事が必要だ。中級職や上級職は職業に合ったステータスの補正値が上がる。
大楯使いのように派生した職業はそれ以上昇格することは無いが、特化型のスキルを取得できるようになるのでどちらを選ぶかは自由だ。
(『暴れ森牛の討伐』を受注……商業ギルドの方は受けなくていいや)
冒険者ギルドのクエストボードからボスモンスターの討伐依頼を受注する。
商業ギルドでは『風の魔石を1個納品』というボスドロップの納品クエストが受けられるが、チップの商業ギルドには嫌な思い出があるので近寄りたくない。
森は島の東側にあり、同じく東側にあるキンキッドへの連絡船の停泊場に出没する『暴れ森牛』を船員の安全のため討伐してほしいというのが討伐クエストの内容だ。
『暴れ森牛』は大きな角を持ち背中から草花が生えた雄牛で、角の小さい雌牛である『森牛』の群れを殲滅させると出現する。
ちなみに森牛の群れは複数ある上、群れが減る度に森の奥でリポップして停泊場付近に移動して来る。すぐに補充されるので全滅させても他のプレイヤーに迷惑をかける心配は無い。
チップの森はアクティブモンスターが居ないため穏やかだ。のんびりと草を喰む森牛達は牧歌的で、これから群れを潰さなくてはならないのが申し訳なくも感じる。
(しかも周回しないといけないんだよね。早く大楯欲しいなぁ……)
近くに居た森牛の群れを出血ネズミ達に襲わせ、マリも盾のアーツを使用する。
「『挑発』」
ネズミ達だけでも倒せるが、盾のスキル上げのために積極的に戦闘に参加しなくてはならない。挑発はヘイトを集める効果があり、まだ盾スキルがレベル1のマリが唯一使用できる初期アーツだ。
近くの敵全てにスキルが適用されてしまうので森牛達に群がられる事になるが、相手はせいぜい2〜3レベルなのでマリの防御力ならほぼノーダメージだ。残念ながら攻撃スキルがまだ無いので攻撃はネズミ任せだが。
優秀なネズミ軍団の働きにより森牛の群れは10分程で全滅した。他にも群れはあるが、暴れ森牛は1つの群れにつき1頭出現するのでそちらは放置する。
「ブォォオオオ!!」
森の奥から怒り狂った暴れ森牛が駆けて来た。
角だけでなく背中の草も長く成長していてボス感があるが、頭からも生えているのでロン毛っぽくも見える。
「攻撃を受けないように戦って。『挑発』」
「キュー!」
流石にボスの攻撃はネズミ達の防御力だと厳しそうなので指示を出しておく。
がつん、と重い音がして角と小楯がぶつかる。
現実だと吹っ飛ばされていたであろう華奢な身体は暴れ森牛の突進を難なく止めた。
暴れ森牛の動きは直線的なので素人のマリでも正面から受けられる。盾はタイミングを合わせて防御できればダメージがかなり減るため、マリはたたらを踏む事すら無かった。
「ブモォォッ!」
暴れ森牛は焦ったように少し下がり、再び突進して来た。しかし、先程より助走が少ないせいか威力がやや落ちている。
20分程の攻防の後、結局、暴れ森牛はマリ達に大きなダメージを与えることなく討伐された。
(暴れ森牛がネズミ達を狙わなかったのはラッキーだったな。挑発が効きやすいのかも)
狙ったところで小さくて素早いネズミ達を攻撃するのは難しかっただろうが、暴れ森牛の体は大きいので偶然当たる可能性もある。
(レベルが上がった。ステータスポイントは全て筋力に振ろう)
視界の端にレベルアップの表示が出ていたのでステータス画面を開く。レベルが1上がる毎に任意のステータスを3ポイント上げる事ができるのだ。
(これで筋力16か。盾スキルはまだレベル1……先は長そうだな)
一旦ギルドに戻ってクエスト報告をし、再度同じクエストを受けて森に戻って来る。
3回程繰り返した頃、やんちゃそうな茶髪の少年が森にやって来た。何故かこちらを見ているので居心地が悪い。
(……他にもいっぱい森牛居るでしょ。他当たってよ)
心の中で見学者に文句を言った時、なんと少年がこちらに走り寄って来た。
(は!? やめてよ来ないで私人見知りなんだから!!)
話しかけて来るつもりかと身構える。
しかし、少年は思わぬ行動に出た。マリの戦っている森牛を攻撃し始めたのだ。
(え!? 私が負けそうだって勘違いしたのかな)
そう思って少年の顔をまじまじと見つめると、にやにやと嫌らしく笑っていた。
生理的嫌悪感で思わず後退する。
(何で笑ってんの……まさか横取り?)
思い当たった瞬間怒りで頭が冷えた。
嫌悪感を抑えて割り込んで来た少年を観察し、この先の展開を予測する。
(相手は恐らく剣士。森牛を一撃で仕留められない辺りレベルは低い。このままボス戦に入れば私が盾役になってコイツをサポートしなければならない。挙句に経験値まで持ってかれるなんて……)
最悪だ。
(……ボス戦に入る前に殺すしか無い)
少年を盾にするように後退する。ヘイトはそちらに向かったようで少年は森牛達に群がられた。
「なっ……!?」
少年は驚いたようにこちらを見たが構わない。先に盾に使ったのはそっちだ。
「あいつを殺せ!!」
「ヂヂッ!」
マリの怒りに当てられたのか、ネズミ達も横槍を入れられて気が立っていたのか。
急所の首を念入りに噛まれた憐れな少年はあっという間に死に戻った。




