女騎士と治療薬
先程登録したフレンド情報を確認する。
『リナリア』と『アヤノン』か。どっちがどっちなのか分からないが、どっちでも良いだろう。どうせ連絡する予定も無い。
《まもなく、セイレンの町に到着いたします》
飛空艇から降りる前にレーティングを18才にしておく。R12だと見落としてしまう情報があるかもしれない。
セイレンの発着場は海に面した崖にあった。
飛空艇に乗れる町は広い場所か海が発着場になっていることが多い。飛空艇は常に浮き続けているので発着には開けた空間が必要なのだ。
例外としてエストは廃鉱山の大穴を発着場にしているが、これは周囲を岩山で囲まれた狭い土地だからである。
また、エストは土地に対して住人の数が多いので町が多重構造になっており、建物同士を繋ぐ細い橋のような空中通路や、蟻の巣のように張り巡らされた地下街もある。この世界で地震が起きない事を祈るばかりだ。
「待ちなさい」
セイレンの町に入ると細身の鎧を着けた金髪の女性に呼び止められた。キリッとしたポニーテールで、いかにも騎士といった出で立ちだ。
「私は王都から派遣された竜騎士です。ポケットに入っているものを見せなさい」
「猫です」
猫としか言いようが無い。
預かってからずっと白衣の大きな両ポケットに入れていたキジトラとサバトラを取り出す。
「ナ」
「……ンナ」
ポケットでうたた寝していたらしい猫達が迷惑そうに返事した。
「えっ!? あっ……す、すみません。人違いでした……」
「いえ、何の嫌疑だったのですか?」
「……もう噂になっているので言ってしまいますが、この町で竜の卵の盗難事件が起きたんです」
「もしかして、今この町は入出が規制されていますか?」
運が良いのか悪いのか。
イベントが発生しているようだが、町から出られなくなったら流石に困る。
「はい。申し訳ありませんが解決までは町の外に出るのは禁じています」
どうやら出られないらしい。
いつまでかかるイベントなのか予測ができないのが痛いな。
「ここは港町なので着いてしまった人々を追い返すのも問題がありますから、町に入るのは止められないんですけどね……」
「まぁ、仕方のない事だと思います……ですが何故僕が疑われたのでしょう。犯人なら卵を何処かに隠すのでは?」
「竜は最初に見た者を親だと認識するので、犯人は必ず卵を持ち歩いているはずです」
刷り込みなのか。
鳥は小さな恐竜とも聞くし、竜も似た様なものなのかも知れない。
「売るためだったら持ち歩かないのではありませんか? この町は商業が盛んな様ですし」
「犯人のアジトにあった資料から、竜の生態を研究をしたがっている錬金術師である事が判明しているんです」
あぁ、錬金術師である上にポケットに生き物を入れていたから間違われたのか。
「そういえば、よくポケットの中に生き物が居ると判りましたね」
「『気配察知』というスキルを持っているんですよ。入隊試験にもあるので竜騎士は皆持っています」
そんなスキルがあるのか。便利そうなので是非とも手に入れたいところだ。
「他にも『看破』というスキルで職業が分かります」
一瞬『指名手配中』を見咎められたかと思って肝が冷えたが、ネットで調べた情報では特殊状態の称号は自分にしか見えないとあったことを思い出して息を吐く。
「どうすればスキルを得られるのでしょう?」
「私は見習いの時に騎士団で教わりました。……っと、すみません。任務に戻らないと」
「お忙しいのに失礼しました。大変でしょうがお気をつけて。応援しています」
「ふふ、ありがとうございます」
微笑んだ竜騎士と別れて冒険者ギルドに向かう。
(……騎士見習いになるつもりも無いし、役に立たない情報だったな)
収穫はイベントが起きていることを知れたぐらいだが、今すぐ事態が動く訳でも無さそうだ。
先程の騎士を思考の隅に追いやってギルドに入る。クエストボードを眺めていると『スキュラの討伐』という依頼が目に入った。
(スキュラ……? 工房にあったマリの資料にあったな)
スキュラは所謂エリア徘徊型のボスで、浜辺に居ると突然襲われることがあるらしい。
動きは遅いので気付いたらすぐ離れれば逃げ切れるし、スキュラは遠距離攻撃をしてこないので離れた場所から攻撃するかヒットアンドアウェイ戦法で戦うのがセオリーのようだ。
(……僕の戦闘スタイルと相性が良いな。受けてみるか)
投擲の精度と速度の高さには自信がある。
問題は昨日始めたばかりで自分のプレイヤースキルがまだ未知数であることだが、徘徊型のボスは位置固定型のボスより基本的に弱いらしいので、この辺で軽めのボス戦を経験しておくのも良いだろう。
(たしかスキュラは遠目だと人間に見えるのだったか)
スキュラの特徴は前髪で目が隠れていることと、真っ赤な唇、同じく真っ赤な長い爪であることだ。
人間の女性に化けて獲物に近づき、戦闘に入ると腹から狼の頭がついた触腕が生えてきて噛みつき攻撃をしてくるらしい。
セイレン周辺のスキュラは触腕が2本だが、先のエリアでは4本に増えて魔法攻撃も飛ばしてくるようだ。マリから聞いた話だと、元ネタの神話では6つの頭が生えているらしいので難易度調整だろう。
『スキュラの討伐』と『治療薬の納品』を受注して受付に向かう。
「すみません、個室の作業場を借りたいのですが」
「かしこまりました。使用料は500Gです」
使用料を支払うと奥の扉に案内される。
ギルドはどの町でも同じ構造だが、以前通された訓練用の中庭と同じ扉ではないか?
「……扉の先は中庭じゃないんですね」
「あぁ、ギルドや一部の建物では内部空間を魔道具で拡張しているんです。一般の方も不動産屋で購入できますよ」
気になって尋ねてみるとあっさり答えが返ってくる。ゲームだからそんなものかと流さずに聞いてみて良かった。
作業台の前に立ち、まずはレシピを確認する。
材料は『人魚の涙』に『カレンデュラ』『エキナセア』『薔薇』……薔薇!? と言うか見事に花ばかりだ。個室の棚はホームと連動しているので問題なく材料は揃うが……困ったな。
薔薇は王都で愛されているから種類が多いのだ。
まず『植物』のアイテムカテゴリーがあり、さらに『薬草』や『薔薇』カテゴリーが存在し、そこから個別のアイテム名となる。
とりあえずストックが一番多かった『オールドローズ』と次に多い『ノイバラ』で作ってみよう。そういえば『苺』もバラ科だったな……ついでに作ってみるか。
現実だと苺も梅もバラ科だがゲーム内の苺は『果物』カテゴリーに、『梅』は『樹木』カテゴリーになっていた。
人魚の涙は大粒の青い真珠でサメ型のモンスターを倒すと稀に手に入る。
人魚自体はモンスターでは無いらしく、この世界の何処かには人魚達の住む島があるらしいが、人魚に出会えたプレイヤーは未だ居ない。
(サメから人魚の涙がドロップするって……もしや食われたんじゃ……)
うっかり気付いてしまった闇は弱肉強食と割り切る事にして早速作業を始める。
カレンデュラとエキナセアを沸騰したお湯に入れて煮詰める。その間に薔薇をすり潰したら先程のお湯で溶く。
薬瓶に注いだら最後に人魚の涙を加えて蓋をし、『錬成』すれば出来上がりだ。
ーーー
【治療薬(性病)】
性病2までの状態異常を解除
【治療薬(性病)】
性病1の状態異常を解除
ーーー
オールドローズは2までの治療でノイバラは1か。何の数字かは書いていないが、恐らく病の進行度か症状の深刻度だろう。
苺はカテゴリーが違うからか錬成失敗になった。
(素材自体には良品や劣化品は無いけど、同じカテゴリーなら優劣があるのか……? それとも単純に、治療薬に向いていたのがオールドローズだったのだろうか)
調べたい事が増えていくが、とりあえず今は納品に行こう。レーティングによるストーリーの変化を調査するのが先だ。




