両想いだけど進めない私が見た夢は【好感度A】
朝焼けの中、私は待ち合わせの場所に急ぐ。
私にとってお気に入りの高台。
そこに、『彼』が居た。
…………いや待て、待ち合わせ?
何で私が待ち合わせをしているのよ?
「ご、ごめんユリウス……待った?」
「いいや、僕も来たばかりさ。会いたかったよ」
彼はそう言うと私の手を握る。
「うん……私も……」
あれ?
毎日会っているっていうのに?
何だか言っている事がおかしい。
ていうかそもそも普通に手を握っているんですけど?
男性恐怖症の私ががっつり手を握ってるんですけど?
普通ならここから『何するのよ!』ってドランゴンスープレックスの流れよね?
「リリィ、愛しているよ……」
え、いきなり愛の告白?
待った、私たちまだそこまで行ってないでしょ?
ていうかユリウスが妙に輝いてる。
おかしい、何かおかしい。
そもそもナダ人的にはどうなのよそれ?
「嬉しい、私も……」
はぁ!?
私ったら何を言っているの?状態異常?
まさかモンスターに操られている状態?
そんな事を考えていたらユリウスが私を抱きしめてきた。
待って!おかしいから、そんな事したらドラゴンスープレックス2連発待ったなしよ!?
そしてそのままユリウスが顔を近づけ……唇が……
□
「はっ!?」
目を開けた先にあったのはユリウスの顔ではなく長年見続けた自室の天井。
「ゆ、夢か……そう、夢……」
ほっと胸をなでおろして目を閉じ……
「はぁぁぁっ!!?待って、何、今の夢は何!?夢だからって何てことしてるのよ!!?やっていい事と悪い事があるでしょうが!!?」
身を起こし目を剥いて大声で叫んだ。
するとしばらくしてあわただしい音と共に隣の部屋の扉が開く音がし、間もなく姉のケイトが飛び込んで来た。
「ちょっとリリィ、あんた大丈夫!?」
「あ、えっと……」
更に逆サイドの部屋からも音がして妹のアリスがこれまた血相を変えて飛び込んで来た。
「リリィ姉!もしかしてまた昔みたいに怖い夢見ちゃった!?」
「えーと…………」
私は一時期、悪夢にうなされて泣いて飛び起きたりすることがあった。
同い年の姉と妹はそんな私を心配して一緒によく寝てくれていた。
ふたりはその時を特によく知っているので今回もこうやって飛び込んで来てくれたわけだが……
「いや、その……ね……」
うわ、どうしよう。
クッソ甘い夢を見て思わず大声でツッコミを入れてしまったなんて恥ずかしくて言えない。
とか思っているとしばらくして他の部屋からも人が出てくる気配。
あー、これは……ちょっとマズイな。
「リリィ、悪夢ですか!?」
母様が入ってきて。
「ちょっと待っててね。ボク、温かい飲み物作って来るよ」
リズママが階下へ急ぎ。
「これが起きたのは久しぶりね。とりあえず落ち着くハーブでも……」
アンママが気持ちを静めるハーブを探しに行く。
三者三葉、我が家の母親3名も遅れて参戦してきた。
収拾がつかなくなってきている。
多分、時間差で他の家族もかけつけるだろう。
「待って!ちょっとみんな慌てないで。そういうのじゃないから、悪夢とかじゃないから!!」
泣きそうになりながら皆を止めるのだった。
□□
翌朝、私は恥ずかしい気持ちでいっぱいになりながら居間のソファに腰を掛けていた。
あの後、恥ずかしい夢を見たという説明で騒動は一時的に収束した。
「それにしてもあんたがユリウスの夢を見て飛び起きるとはねぇ」
姉がポテトにビネガーをかけながら笑う。
よくそんな酸っぱいもの掛けられるわね。
そこは黒コショウでしょうが。
「だって……夢とはいえユリウスとあんな事になるなんて……」
姉が勧めたポテトを断り私は両手で顔を覆った。
今日が仕事お休みの日で良かった……
あんな夢を見た翌日に彼とどんな顔して会えるだろうか?
「一体どんな夢だったか詳しく聞かせていただけませんか、お姉さま」
一番下の妹、リムが興味津々と言った表情でこちらを見ている。
私とリムとは母親が同じ姉妹である。
「そんなの……知ってどうするのよ?」
「夢というものには深層心理であるとかそういったものが隠れているらしいです。分析してみるとし不調のサインであったりすることもあるそうですよ」
妹の手には占いの本があった。
ああ、いわゆる夢占いという奴か。
うわー、胡散臭い。
「そんなの眉唾ものでしょう?」
私は占いだとかそういうものは信じない。
一応『気』の流れを見る技術だとかそういうものはあるらしいがそういうものを把握できるのって相当な使い手だ。
私が知る限りだとアリスの母親であるリズママあたりが似たようなことを出来る。
あの人、『未来視』で天気調べたりするし。
「占いなんて楽しそうじゃない。ねぇ、リリィ。あんた結局皆を夜中に起こしちゃったんだしさ、詳しく話してごらんなさいよ」
「うっ……」
そう言われると弱いなぁ……
我が家の中でケイトとリムは割と恋バナや占い、おしゃれといったものが好きだ。
そんな二人がタッグを組んでいるのだからこれは逃げられない。
「仕方ないわね……実は……」
私は夢の内容について姉と妹に話をした。
ふたりは黙って聞いいたが話し終えると同時に。
「「甘っ……!」」
そうよ。自分でもびっくりするくらいのクッソ甘い夢を見てしまったのよ。
「あんたがそんな乙女チックな夢を見るだなんて思わなかったわ。てっきり魔獣とフルコンタクトで戦う夢くらいしか見ないかと……」
「失礼ね。私だって乙女の端くれよ。まったく、ビームでも叩き込んでやろうかしらね?」
まあ、実は一昨日そういう夢を見た。
コークスベアとガチで殴り合いするという中々に楽しい夢だった。
「それにしてもなるほど……お姉さまの夢には中々興味深い心理が隠されていますね。それでは私めがお姉さまの夢を分析いたしましょう」
「何か聞くのが超絶怖いんだけど……」
「まずユリウスさんと夢の中で目が合ったそうですが……両想いの暗示ですね」
「やったじゃない、リリィ!」
ケイトが興奮してパンパンと私の肩を叩いてくるが私は冷静だった。
てか痛いから。
「いや、両想いなのは知ってるわよ。あいつずっと私に『好き』って言ってるわけだし」
そして私も彼の事を好きと自覚している。
結局のところ進展できないのは私が勇気を出して両思いであることを伝えられないからだ。
「それで、夢の中でユリウスさんは微笑んでいたそうですが……これについては現実では恋がうまくいっておらず、ストレスを抱えている現状を表しているそうです」
「うっ……」
まあ、当たっているか。
私が勇気を出せば関係は進展する。
だけど色々な事を考えてしまうタイプである私には今の関係が悪い方向へ行く可能性も考えてしまい尻込みしてしまうのだ。
「ちょっとリム、もうちょっとキュンキュンする分析は無いわけ?」
ケイト、人の事と思って完全に楽しんでるじゃない。
「ていうかあんた、人の恋でキュンキュンしてないで自分はどうなのよ?」
「あたしは今恋愛はお休み中なの。妹の恋を恋愛経験豊富なお姉さまが見守ってるわけよ」
まあ、ケイトはウチの姉妹の中では恋愛に積極的だが男運が悪い。
初デートで宿に連れ込まれそうになりビームを叩き込んで別れた男がいた。
後は有力者になりつつあるレム家との縁が欲しいだけという事で近づいてきた男もいた。
顔は良かったがクズっぽい言動が多かったので即お断りとなった。
時代は文通だとか言って交流していたのは70歳のおじいさんだった。翌日天に召されてた。
やだ、この姉男運が本当に壊滅的……
「続けますね……お姉さまはユリウスさんと待ち合わせをしていて、待たせる側だった。でも相手は怒っていなかった。これは、嫌われるのが怖いあまり、自分を隠している可能性が高いことを暗示していますね」
「正にあんたそのものじゃない!」
いや、確かに嫌われるのは怖いしユリウスに隠していることはあるけど……
そんな簡単に言える事じゃないでしょ……『あの事』は。
「というか今までのって結局の所、適当に私の状況に当てはまる内容を言っているだけでしょ?あてにはならないわ」
私の言葉にリムは少しむっとした顔になる。
「それでは……彼の手を握ったようですが……これは性的欲求の高まりを示しているらしいですよ」
「は、はぁ!?」
せ、性的欲求の高まり!?
それってあれよね。
性的な欲求よね?
そりゃそうよね。性的な欲求だわ。
何か思考がバグってる……
「夢の中でくらい触れあいたいとかってあんた、意外といじらしいわね」
「わ、私が、せ、性的…………」
いやいや、おかしいでしょ。
「抱きしめられるというのは更なる性的欲求でつまりは身体の関係を望んでいるという事が暗示されます」
「か、から……か…かん……けいッッ!?」
思わず声が裏返ってしまった。
それが事実なら私ったらどれだけはしたない夢を見てるのよ!?
いや、そんなのあり得ない。
私が最も忌避しているのはそこなのよ?
性的なものに対する恐怖が関係の進展を阻んでいるのよ!?
「そしてキスをする夢というのは……」
「それ以上はダメよ!絶対言わないで!言うんじゃないッッ!言ったらドラゴンスープレックスで投げるわよ!!」
「ドラゴンはユリウス用でしょ?パワーボムくらいにしときなさいって」
何か客観的に聞くと頭のおかしい会話だが我が家では割と普通の会話だったりする。
まあ、確かにドラゴンスープレックスはほぼユリウスを投げる時用の技と化しているけれど……
「3人とも、休みなのに朝から賑やかですね。どうしたんですか?」
洗濯を終えた母様が苦笑しながらやってきた。
母様はリムから先ほどのやり取りについて聞くと「なるほど」と頷く。
「まあ、夢占いにも色々な解釈がありますからね。思うにリリィがそれだけ彼の事を意識してきているという事でしょう」
「そ、それはまあ、否定しない……」
「お母様。お母様もお父様の事を夢に見たりしましたか?」
「うーん……わたしはどちらかというと夢も見ないくらいぐっすり寝てしまうタイプですがそれでも時々見る夢があります。お父様が変なクエスト取ってきて、アンジェラとリゼットがわーきゃー言いながらモンスターに追いかけられて私がめんどくさーいって言いながら援護する。結婚する前のよくあった光景。あれをよく夢に見ます」
何だか想像してみるととても楽しそうな光景だ。
「その夢にどんな意味があるかはわかりません。もしかしたら悪い暗示もあるかもしれません。でも私にとっては楽しい想い出のひと時でした。あの時があったから私はアンジェラ達と家族になる事を決意出来てあなた達という可愛い子ども達にも恵まれた。だから私にとっては幸せな夢ですね」
幸せな夢……か。
「その夢があなたにとって幸せな夢であればいいですね」
「うん。そうだね……」
まあ、でも性的欲求云々は……勘弁して欲しい。
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そして翌朝。
「あのさ、リム。昨日夢でユリウスと二人でタッグを組んでコークスベア相手にフルコンタクト試合してたらコークスベアの背中からケイトが出て来て口からビネガーを噴いてくる夢見たんだけど……これって何の暗示?」
「えっと……すいません。ちょっとわかりかねます……」
うん、夢ってよくわからない……




