十四年後の私・十四年前のあなた⑤
黒江真紀は、クラスメートだ。
光孝と身長は同じぐらいで、
少し、ぽっちゃり系の女の子。
家も近所だから、彼女の一つの兄とも仲がよいから、よく彼女の家に遊びにも来ている。
そのたびに、彼女の態度というものは冷たかった。
「また来たの?」
いかにももうこないでほしいといいそうな顔をする。
「お兄ちゃん、部屋にいるよ」
しかし、彼女は光孝を追い出すようなまねをすることもなく、光孝を兄の部屋入るのを許した。
しかし、六年になると、彼女の兄も中学生になる。
彼女の家に遊びにいくこともなくなった。
少なくとも、六年になってから一ヶ月以上は行っていない。
大型連休の後半の四日間
真紀とはまったく会っていない
会ったのは、ほんの二日前のことだから、
彼女の顔ははっきりわかる。
しかし、目の前にいる大人の女の人は光孝のクラスメートの黒江真紀といった。
「黒江? ちょっとまてよ。どうみても、おばさんじゃん。黒江はおれと同じ年だぞ」
「おばっ……オバサンじゃないわよ、まだ、二十六よ」
目の前の女の人は、眉間に皺を寄せた
「でも、私は黒江真紀よ、あなたのクラスメートだった」
「意味解らないよ、オバサン」
「だーかーらー」
「すみません。おねえさん」
光孝は、怒らせないほうがよさそうだと、慌てて謝った。
どういうことなのだろうか
目の前にいるおばさん
いや、お姉さんが黒江
おれと同じクラスの黒江
いや、どうみても自分よりもずっと年上……。
どう考えても、担任の先生と同じ年頃だ。
ただ、ひとつ思いつくことがあった。
まさかそんなことがありえるのか。
「おれ。タイムスリップしたのか?」
光孝はつぶやく。
「そうみたいね」
彼女はあっさりと答えた。
「えー!!マジ?マジで? いま。何年何月何日?」
光孝は興奮したように質問した。
「いまは西暦2009年の五月三日よ」
彼女は答える。
「え?2009年?人類滅亡してなかったのか?」
「ノストラダムス? 見事に大はずれよ」
光孝は、状況がはっきりいって理解できていない様子だった。
携帯電話という物体。
ここは未来の世界だというのだ。
光孝が知らないものが目の前にある。
あんなに小さな電話なんて見たこともきいたこともない。
それに、見慣れた景色なのに、どこか違っている。
未来なのだろうか。
本当に自分のいるべき世界ではないのだろうか。
なぜ?
そんなことが起こるのか。
そんなことが一瞬よぎったのだが、それよりも見たこともないものやおきえることのない現象に心を弾ませてしまっている。
「すげえ、すげえよ、おれ、タイムスリップしたのだ!! クラスに自慢できる」
光孝は思わず、はしゃいでしまった。
「ちょっと。君。自慢って……帰れると思っているの?」
彼女は、ため息混じりにいった。
すると、光孝もようやく気付いた様子で、不安そう顔を彼女に向ける。
「帰れないのか?」
「さあね」
「おれ、いなくなっちゃったのか? 帰れたとしたら、あんた、知っているのだろ?」
彼女は困惑の色を向けた。
もしかして、
そんな馬鹿な
帰れないのではないかと思った
帰らなくてもいいのだろうか
いや、そんなはずは……。
でも帰らなくてもこの世界で生きるというすべがあるではないか。
「だめよ」
彼女は光孝の考えを見透かしたかのように答えた。
「だめよ。あなたはこの時代の人じゃないわ。少なくとも、この時代にその年齢というのはありえないの。それに、もうあえなくなるわよ」
彼女がどこか悲しげにいう。
「黒江? だれに?」
いやな予感がした。
誰にあえなくなる?
だれに?
お父さん?
なぜ、そう思ったのかわからなかった。
会えないような気がした。
この時代に父が存在しなのではないかという不安がよぎったのだ。
「黒江!! 頼みがあるのだ!!}
「え?」
「いえ、俺の家。連れて行ってくれ!!」
「なによ、突然」
光孝は彼女の服を引っ張った。
「連れて行ってくれよ!おれの家」
彼女は困惑する。
どう答えればいいかわからない。
はっきり告げるべきなのかもしれない。
「ないわ」
「え?」
「あなたの家、ないのよ。数年前に壊されたの」
光弘はそこ言葉に愕然とする。
「どうして?」
彼女は首を横に振った。
「そのうちわかることよ。少なくともあなたは元の世界に戻らないといけないわ」
「どうやって?」
彼女は考え込んだ。
「さあ。わからないわ、もしかして、時がくれば勝手に戻るのかもしれないわね」
「そんなあいまいな」
光孝は困惑する
「とりあえず、うちにいらっしゃい」
「え?」
「ちょうど、帰省するところだったのよ。うちの両親には、彼の甥っ子ってことにするから」
「彼?」
「私の婚約者よ」
彼女はにっこりと微笑んで告げた。
「そうね、名前は偽名にしましょう。光孝だから、『ヒカル』ね」
「ひかる?」
「決まりね。じゃあ、いきましょうか 『ひかる』くん」
彼女は歩き出した。