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十四年後の私・十四年前のあなた①

四月も最終日を迎えると、服装は自然と薄着になる。


半そでだけでは寒いので、最近買ったばかりのカーディガンを羽織っていたのだが、新幹線を下りると日光の焼けるような日差しにあてられ、汗がにじむ。


カーディガンを脱いで、それをボストンバッグに押し込めると、在来線のほうへと歩く。帰省客や旅行客でにぎわう新幹線乗り場と違い、在来線乗り場へいくと曲他店に人気が減る。新幹線のある駅とはいえども、田んぼを崩して建設された駅。ある程度は新幹線の駅らしく、建物が増えているが、ほんの少し視線を向けると、田園地帯が広がっている。


 ローカル電車がきた。昔は何度ものった電車になつかしさを覚えながら、栗山真樹(くりやままき)は電車に乗る。懐かしい街が通り過ぎていく。車掌の方言丸出しの声。年老いた老婆。携帯をいじる人たち。学生のたわいない会話。喧騒がなく、おだやかな時間の流れが刻まれていく。やがて、彼女は生まれ育った故郷へ運ばれていく。


 駅は無人駅。そこから出ると、車道で車が行きかっている。道路を挟んで向こう側には郵便局や銀行。町役場のある町の中心街なのだが、少し上へ視線を向けると山々が広がり、段々畑に太陽の光が差し込んでいる。


 真樹は大きく息を吸うと携帯をショルダーバックから取り出した。


「お母さん。いま、着いたよ……。え? いいよ。迎えなんて……。歩いてくるから……」


 母との短い会話を終えて携帯電話を切ると、再び視線を車の行きかう道のほうを一瞥したのちにボストンバックを引きながら歩き出した。


 車が真樹のすぐ横を通り過ぎていく。駅から数歩しか歩かないうちに真樹の視線に看板が飛び込んできた。


『交通事故多発注意!』


 この車社会の時代。どこにでもある看板だというのに、真樹は立ち止まったままそれをじっと見つめていた。


「また、交通事故でもあったのかしら……。いやだわ……」


 交通事故というのは思いもよらない悲劇だ。被害者側も加害者側もその後の人生を左右されかねない悲劇。


「どうして、こんなのばっかりなのかしら……」


 たとえ、どれほど年月がたとうとも消えることのない傷をどれほどの人が背負っているのだろうと思うと、真樹は胸が苦しくなる。同時に彼女の脳裏に一人の少年の姿が思い浮かんだ。


 小学時代の同級生の少年が交通事故にあったという知らせは子供ながら衝撃的なことだった。


 それもすでに十年以上も昔の話になる。


 他人のことだというのに、『子供が交通事故に巻き込まれた』という言葉を聞くと、嫌でもそのことを思い出し、胸が苦しくなる。


「いやだわ。もう……」


 しかも、彼が事故に巻き込まれた場所にその看板が立てかけられているということがさらに真樹の心に傷みを生じさせる。


 真樹は、早くこの場を去らなければならない衝動に駆られた。その一方でまだしばらくここにいなければならない使命感まで生まれてきた。


 逃げたい。


 けれど、逃げてはならない。


 車の音だけが響き渡る。その音に恐怖する。


 もういいだろう。


 真樹が歩き出そうとした瞬間、看板付近がほのかな光が浮かぶ。


 何だろうと光の方に釘付けになっていると突然光の向こう側から子一人の子供が飛び出してきた。


「うわっ!」


 子供は、前のめりに倒れ膝を突く。


「いててて」


 青い短パンと白トレーナーと白い帽子の小学生ぐらいの少年が座り込み膝をさすっている。


 真樹はその様子を呆然と見ていたが一呼吸すると少年に話しかけた。


「大丈夫? 君?」


 少年が顔を上げると、真樹は息を飲み込んだ。


「み……光弘(みつひろ)くん?」


 名前を呼ばれた少年は真樹を見ながら首をかしげた。


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