十四年後の私・十四年前のあなた⑦
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そしたら
そしたら
また会えるから
また
俺は
父さんに会えるから
だから
つれてきてほしい
もし俺が望んだら、
つれてきてほしい
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光孝は呆然としていた。
周囲は見慣れた景色だというのにそこだけがすっぽりと抜け去っていたからだ。
「どうして?」
光孝は真紀に尋ねた
「壊されたのよ。あなたたち家族が去った後にね」
「去ったって?」
「引っ越したの。もう七年も前の話よ」
彼女がそう語る。
「あなたにとってはまだ先の話だけどね」
真紀は付け加えた。
「どこにいるの?」
「それは知らないわ。引っ越したのは確かよ」
「どうして?」
真紀は口を閉ざし光弘をじっと見つめた。
「それは、そのうち、わかるわ」
「え?」
「そのうちにね。その前にあなたはやらなきゃいけないことがあるでしょ?」
光孝は首をかしげる。
「あなた、言ったじゃない。お父さんに会いたいって」
「でも、どうやって?」
真紀は考え込んだ。
「わたしは、ただ、ここに連れて来いって言われたの」
「だれがいったの?」
「あなたに……」
「え?」
光孝は目を見開いた。
「あなたに言われたの。もし、あなたが私の前に現れたら、ここに連れてきてほしいって……。
そうしたら、あなたはあなたのお父さんに会えるからと……」
光孝には、彼女の言っていることが理解できなかった。
なにもない
この場所でどうやって父親に会うというのだろうか
「帰るのよ。あなたの望んだ場所に……。あなたが言ったのよ。ここに連れてきたら、会える。
帰ることができるって……」
いつ?
いつ言った?
答えは簡単だ
未来
未来の自分が彼女に言ったのだ
ということは。自分は帰れるということだ
過去に……
自分が生きている時代に……
同時に、ここは十二歳の自分のいる時代ではないことを悟った。
この時代にいる自分は十二歳の自分ではない
もっと大人になった自分だ
いったい、自分はどういう大人になっているのだろうか?
光孝は尋ねてみたかった。
「俺はどんな……」
「それは教えられない。自分で見なさい。あなたが生きて……ずっと生きて……成長して……そしたら、あなたがどんな大人になったかわかるわ」
彼女がそういった。
あれ?
なにかおかしい?
目の前にいる彼女の姿が徐々に薄れていくのだ。
いや薄れていっているのは彼女のほうではない。
周囲の景色もなにもかも薄れていった。
俺は帰るのか?
光孝は自覚した。
帰るのだ
自分の育った時代に……
自分の生きるべき時代に……
「黒江。おれは……」
真紀の目の前で薄れていく少年は、真紀になにかをいおうとしていた
「それはいつか……」
真紀はそういって微笑む。
光弘はなにかを言おうと口を開くも、すでに彼女の姿は消えてなくなり真っ白な空間が広がっていた。