04.Hall
ゼオスフィールが連れてこられたのは大聖堂だった。
死霊樹が飲み込むサツェラ山脈の最高峰に位置する冥帝院。
最上階には冥帝たちの会議室や有事の際の宿泊設備の整った施設が備わっている。
そして、神託執行機関アルヴァノは、その下の階にある。
大聖堂は、七役委員会でも多く使われる場所で、あちらこちらに意匠が凝らされている。
冥神アステナがいなくなり、神託が見つかってからすぐに作られた付け焼き刃の施設だと侮れるものは少ないだろう。
よく目を凝らさなければ、大聖堂が魔法で作られていることな度、誰も気付かない。
魔法の持続時間。
それは、魔法がもたらす効果の規模によって大きく変わってくる。
具体的に言えば大規模な効果がある魔法ほど、持続時間は短いのだ。
もし、初等魔法学部でも習うような火をともす魔法と高等魔法学部で習う炎を作って攻撃する魔法。
この二つの持続時間を比べたら、初等魔法学部で習う火をともす魔法が長く続く。
では、大聖堂を作り上げるほどの魔法が小規模か、と問われれば誰にでも分かるがそんなことはない。
しかし、それは大聖堂を一つの魔法で作り上げてしまえば、の話だ。
意匠を凝らした魔法大工たちは、大聖堂を部分、魔法で造り、その持続時間を長くしたのだ。
階段なら、一段一段、使っている魔法が違う。
ろうそくにいたっては、ろうそくが消える事がないように、と火をともす魔法、ろうそくを産み出す魔法、それを持続させる魔法、と三つの魔法がふんだんに使われている。
魔法の要塞。
それが、大聖堂に相応しい二つ名なのだ。
白と青。
冥神アステナの貴神色からとられたふたつのいろを基本に作られた城のような大聖堂を歩きながら、ゼオスフィールは思考する。
これから、七役委員会では何が起きるのか。
そもそも、七役委員会とは何なのか。
全ての始まりは、冥神アステナの失踪と冥帝英霊神託に行きつく。
冥神アステナの捜索と冥帝英霊神託に記されていた「この世界を守って」というアステナの言葉を執行するために作られたのが、神託執行機関アルヴァノ――正式名称は、ルカリア・ディ・アルヴァノ――では日夜、冥帝と英霊による神託の執行に向けた研究などが行われていると言う。
しかし、冥帝と英霊が手を取り合って難題に立ち向かう、と言うことなどあり得るのか。
冥帝とはいわば、この世界の覇者。
冥神アステナはあくまでも俯瞰する神である、という姿勢で、罰のみを下す存在だった。
神が統治しないのならば、別の統治者が必要になる。
そうして姿を現したのが冥神からの寵愛を受けて、冥府を持った冥帝たちだ。
冥帝と一括りに言っても億千万の星の数ほどいるこの世界で数え切れない者なのは分かっている。
この場合の冥帝とは、十八冥帝のことだ。
冥帝院に名を連ねる冥帝の中でも軒並みならぬ実力を持ち、その絶大な暴力性で民衆の心をわしづかみにする至高の存在。
十八冥帝たちには、それなりの矜持がある。
冥帝が跋扈するこの世界で、平和とも呼べる喧噪のない冥府がいくつあることか。
その冥府は、十八冥帝の冥府以外にあるだろうか。
――あったとしても、辺境の地にあるあまり、他の冥帝たちが目をつけていないような冥府だけだ。
強すぎる冥帝。
対する英霊はか弱い。
たかだが五十年から百年を生きただけで、低次元な世界の神を殺しただけで自分が強くなった気でいる愚か者ばかりだ。
英霊たちが力を合わせれば冥帝を殺すことも容易ではない?
かすり傷、一つつけることはできやしないだろう。
十八冥帝とは雲の上の存在なのだ。
けれど、冥神の失踪を気に、冥帝たちはよく姿を表すようになっていた。
第五冥帝のアリババさまは、冥帝院で魔法の研究を再開させたようで、多くの研究者たちが授業を抜け出してアリババ様の研究を見に行っているという報告を受けている。
ゼオスフィールも、高等魔法学部が私塾だったらよかったのに、と思うのだが、そうもいかない。
他の教師たちは授業をすっぽかしたり、見学は見て学ぶと書くのだ、と屁理屈をこねてアリババ様の研究を横で見ているのだが、ゼオスフィールにそんな柔軟な発想は浮かんでこない。
連日、教室で授業を続けるだけだ。
英霊と冥帝は折が合わない。
だから、協力することなんて絶対にありえない、ではここ――神託執行機関アルヴァノで行われている、神託執行とはどういうことなのか。
その一点に尽きる。
ゼオスフィールの考えによると、魔法の研究を中心に、冥神の手掛かりを探せるような技術の数々が産み出されているのでは、と思っている。
冥帝院は白い宮殿だ。
その全てに魔法がかけられており、知識を外へ持ち出さないように鎖を掛けている、といっても過言ではない。
それは、魔法を取り扱う施設や組織なら当たり前にすることだ。
しかもここ――大聖堂は、組織の中心核。
冥帝直々の魔法が数々かけられている。
だから、ここで少しでも多く魔法を吸収死体と思っている反面、それを外に出すことが出来ない歯がゆさを感じて、ゼオスフィールは大聖堂の中へと入っていくのだった。




