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冥帝英霊神託  作者: 弌樹カリュ
序章・胎動編
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03.She




「アヒム執行官は当機に何を望みますか? 当機は執行官補佐。主たる執行官の補佐をするのが役目です。――すなわち、当機は執行官の望みを叶える自律型人形なのです」


 ディアは、エクスのようにわざとらしく大きな手ぶりをする。

 アヒムはそれを見てくしゃりと笑った。


 やがて、お互いに関する情報の共有や、これからどんな任務を受けるのだろうか、と話していると、扉が二度叩かれ、外からエクスの声が聞こえてきた。


「もうそろそろ、打ち解けた頃かな?」


 当機はそのように感じました、と扉越しにディアは言う。

 うふふ、と不敵な笑みを浮かべながらエクスは扉から姿を現した。


 研究者とは思えないような紫色の法衣に身を包み、その右手には杖が握られている。

 握りての部分は意匠が凝らされており、一目見ただけで高級品だと分かる。


 人形学会の紋章の入った魔法水晶が、部屋に入って来ると同時に軽く光を放つ。


 何度見ても、アヒムはエクスの姿が研究者のようにはみえない。

 胡散臭い笑みを浮かべて、綺麗な言葉を並べるのは、まさに天才詐欺師の技だ。

 そんな感情を抱いているとは露知らず、エクスは笑みを浮かべたまま。


「ディア、診察は終わったし、必要な動作試運転は全て通過している。これから指揮権の全権をここにいるアヒム執行官に譲渡したいのが、同意してくれるかな?」


「当機は、アヒム・ロトムエル執行官への全権譲渡を承諾します」


 エクスは魔法水晶をディアの額にくっつける。

 魔法水晶はまばゆい光を放ち、ディアを指示する全権はアヒムに移った。




 不思議なことは立て続けにおきるものだ。

 痛いほどにアヒムはそのことを実感していた。


 留年間際だったアヒムが突然、魔法の才能を開花させ、飛び級で主席卒業。


 第三冥府の中でも優秀者の多い看守への内定が決まったかと思えば、冥帝直々に呼び出され、冥帝直属の指揮下にある神託執行機関アルヴァノへの配属命令。


 急激な魔力の増加が原因とみられる昏睡状態に陥ったかと思えば、目を覚ませばこの世にいるはずもないとされていた自我を持った人形が存在して、それが日夜行動を共にする「相棒」に選ばれる。


 本当に、不思議なことは立て続けに起きるものだな、とアヒムは思った。




 ゼオスフィール教官は、冥帝院高等魔法学部で名を知られないほどの才女だった。


 在籍生徒時代は、四年連続で最優秀魔法師に選ばれ、史上初の主席合格主席卒業――それも満点で、という偉業を達成した。

 卒業して十八年が経った今でも、この偉業は塗り替えられていない。


 高等魔法学部卒業後、ゼオスフィールは晴れて教官への道を進んだ。

 自らの母校である高等魔法学部に、鬼の教官として勤めることになるのだ。


 厳格こそ正義で、悪は根絶しなければならない。

 たとえ、どんな手段を取ったとしても、悪を根絶するためにはそれを良しとする考えだった。


 あまりにも厳しすぎる教育方針、高すぎる生徒像。

 彼女が受け持つ授業や教室から、生徒の数が減っていくのにそう時間はかからなかった。


 けれども、彼女が教職を続けられているのにはしっかりとした理由がある。

 少ないながらも彼女の教室に残った生徒たちが多大稀なる経歴を積み上げていくからだ。


 初年度は、半年も経たずして、一年生が五年生までの範囲を習得し、一発合格。

 次年度は、魔法対抗戦にて、新魔法を四つ発表。

 さらに次の年には、魔法の常識を変えることになるゼオスフィール理論を産み出した。


 そして、そんな彼女は――そんな彼女だからこそ、この状況に苛立っていた。

 自分は不満がある、と言うことを微塵も隠そうとはしていなかった。


 ただあふれ出る殺意で、周囲の人間を圧迫させていた。


「ひぇ……あの、ゼオスフィール教官で間違いないでしょうか?」


「いかにも、ジーナリウス・ゼオスフィールで間違いないが。貴殿は?」


「ひぇ……わたくしは、その……何といいますか、神託執行機関アルヴァノにて、ひぇ……七役委員会の五役「執行官」をまとめております、ひぇ……ガリルヴァ・エルデアにございます、ひぇ……」


 ガリルヴァが怯えているのは、ゼオスフィールではなかった。

 彼はそういう性格なのだ。


 気さくな態度で話せる相手でも、さっきあったばかりの相手でも対応が変わることはない。

 ただ、怯えるだけなのだ。


「ほう。貴殿のような小物も……っと、無駄話をしてしまったようだ。すぐに、執行官の前へつれていけ。私にも時間がないことぐらい分かっているだろう?」


「ひぇ……」




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