12.Training
「――――やはり、自己紹介だけでは足りないな! 親睦をより深めるためにも、ここは拳を交えるとしようではないか!」
いやいやいや。どうしてその結論に至ったのか理解が追いつかない。
ツッコミをするような人はいないのか――――仮にもディートゲリンデは第三冥帝ではあるし、体をほぐし始めている人もいる。
「ディートゲリンデ様、他にも親睦の深め方というのはあるのでは?」
「あるであろうが、ぬるい! お前たちは何のために執行官として推薦されたか分かっているのか? 主神の命令を熟すためであろうが。そのためには何よりも戦闘力の向上は必須」
「あの、僕は非戦闘員なので、それを守るためにディアの戦闘能力を強化していると彼女を作ってくれたエクス教授から聞いているのですか……」
「ぐしぇべるあんぴなふねーばるなな!」
「”一人だけそんなのズルい! わたしもやだ!”とカレン様は申しております。スワート古語使いのカレン様も非戦闘員として数えられる学者なのでは?」
ふぅむと悩みだしたけど、僕に打診してきた時も非戦闘員で、というはずだったんだけど……この第三冥帝は何を考えているのだろうか。
執行官として、自立型人形と呼ばれるディアと行動を共にしているけれど、僕はつい最近魔力が『覚醒』しただけの魔法使いとしては初心者も初心者。魔力と魔法こそが強さの象徴たるこの世界で、そんな人間がどうやって戦闘要員として活躍できるというのだろうか。
いや、少なくとも自分の身の安全を守れるぐらいには鍛えようと思っているけれど、戦闘能力とまでは考えていない。
「まあ、いいじゃないか。俺様としては執行官が強くなることは急務といえるな。神託の執行のために必要なのは強さと知性、そして豪運だ。お前たちは知性と豪運はある程度満たしているといえるだろう。だが強さは足りていない」
「…………でも、非戦闘員だもん」
「では聞くが、一騎当千と呼ばれるほど強い英霊を前に反旗を翻されない自信は? 他の執行官や人形どもが攻撃してきた場合に反撃できるだけの能力はあるのか? 自信を持てるやつはどれだけいる?」
まばらに手が上がる。
――つまり、ここにいる子の中には僕よりも強いと自信を持っている人間がいる、ということなのか……負けてられないな。
「それでは聞くが、第三冥帝教練を抜け出したい奴は?」
もちろんいない。
「――ヨシ! 戦闘だ!」
肉弾戦も肉弾戦。
時に束になって、時に協力して。
九人と九機でディートゲリンデひとりを相手取ってみるが、傷一つつけていない。
それどころか、こちらは魔力切れや息切れがひどいというのに、飄々としていて余裕そうに笑みを浮かべている。
一時間も経たないうちに全身がぼろぼろになった。
そして、最後の最期まで立ち上がっていた蒼穹総軍のアメリィが膝をつくと、とうとう誰も立ち上がらなくなった。
「冥帝とはこれほどまでに強いのか……」
きっと、それなりの経歴を積んできた女傑といえるような人なのだろう。
蒼穹総軍の隊長であっても冥帝に勝つことはできない。
当たり前といえば当たり前の事実なのだが、覇者たる冥帝と人の中でも強い部類に入るであろう隊長とでは大きく開きがあるということに衝撃を受けた。
一時間という時間も決して長いものじゃない。
本来ならばすぐに倒れこんでいた――最初の一撃でほとんどが再起不能になっていた。だが、ディートゲリンデの肩に乗っていた秘書のガラムが次々と治癒をかけていくので、心はさておき、体は追いついていく。
何度も何度も立ち上がり、そして全敗した。
「弱い弱い弱い! これほどまに弱いとは思っていなかった。俺様としては三時間は超えられると思ったのだがな……これは、第三冥帝教練の内容を少しばかり変える必要がありそうだな」
「……ガラム、いい案ある……」
「お、じゃあ聞くとするか。お前たちは少し休憩していろ。内容を決めたらまた指示を出すからそれまでゆっくりしていていいぞ」
ガラムとディートゲリンデが離れていく。
乱れていた呼吸も徐々に正常なものになっていき、ようやく喋れるようになった。
「ディア、情報の解析とかできたりする?」
「今、解析中です。第三冥帝については『戦闘狂い』と呼ばれるほどに戦闘が好きで強いということは知っていましたが、まさかこれほどまでとは予想を外れました」
「あれは本当に人が敵う度合いの強さじゃないよな……」
他の執行官たちも自分の人形たちと戦いについて分析しているようで、いくつか共有してたが、結論として出されたのは自分たちの力不足。
ディートゲリンデは特に全力、というわけではなさそうだ。
僕たちを最も単純な方法で倒している。
それがディートゲリンデの戦い方なのかもしれないが、恐らくそれだけで十分だ、と言いたのだろう。
帰って来たディートゲリンデに告げられたのは絶望の一言。
「――よし、それでは試練の泉へ行こう!」




