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冥帝英霊神託  作者: 弌樹カリュ
序章・第三冥帝教練編
13/17

11.Hello

「は――――――――――――――!?」


 思考停止。

 どういう状況か考えてみるけれど、やっぱり結論が出ない。

 扉が開かれることなく、扉には穴が空いていて、巨漢――第三冥帝ディートゲリンデが姿を表している。第三冥府にいたころ、何度も声を聞いたのだから間違えようがない。


 顔は見えていないけれど、間違いなく、僕の部屋の扉をぶち壊して、体をのぞかせているのはディートゲリンデ様だ。


「声紋認証の結果、第三冥帝ディートゲリンデと判明。攻撃されたとして、反撃を開始しますか?」


 ディアも僕と同じ考えに至ったようだ。

 もちろん、反撃なんてさせないけれど。


「反撃は拒否キャンセル。どういう状況なのか全く理解が追いつかないんですけれど、どうされました? 何か用事でも……」


 めきっ。

 扉の亀裂が広がっていく。


「今日から俺様によるすばらしくすばらしい『第三冥帝教練』が始まるであろう? 聞くところによると、参加する人間の中じゃオトコはお前一人って言うじゃねえか。だからこうして、わざわざ俺様が出迎えにきてやったってわけよ」


 話している間も亀裂は広がっていき、とうとう扉はただのくずになった。

 片手で扉を壊せる……それも魔力のこもった金属でできた扉を……なるほど、やっぱり全く理解できない。


「……もちろん、ガラムもいます」


「あ、ガラムさん、お久しぶりです。えーっと、ここで話すのもなんですから中へ……やっぱり、すぐに支度を済ませますから外で待っていただけますか?」


「おうよ!」


 もしディートゲリンデ様をいれるようであれば、部屋にある色んなものが扉のように粉々にされていく未来しかない。

 というか扉鈴ドアチャイムを使わなかったのだろうか。そうすれば、扉がこんなことになる未来もなかっただろうに。無念だ。


 ディアとさっさと支度を済ませていく。

 さすがのディアも理解が追いつかないようで、ディートゲリンデ様はこういう人だ――つまり脳筋だと説明するとなるほど、とうなずいていた。


 外に出てみると、ただ待っているだけでは気が済まなかったのか、ディートゲリンデ様は腕立て伏せをしている。僕の二、三倍は大きな背中には秘書であるガラムさんも乗っている。


「お迎えに来ていただけるのはありがたいのですが、準備などは良かったのですか?」


「準備? 必要なのは、この体だけだ」


 ガッハハハッと豪勢に笑うが、まさか取っ組み合いでもしようって言うんだろうか。いや、多分、この脳筋冥帝ディートゲリンデ様のことだから、その通りなんだろうな。


 僕たちが来たことで腕立て伏せは終えて、歩き出すが、ディートゲリンデ様の方にはガラムさんが乗っている。ディートゲリンデ様は見上げるという言葉が似合うほど身長が高いから、そこから見る景色は大きく違うだろう。


 これから始まる第三冥帝教練の話をするのはなるべく避け、ここ数日の間にあった話をした。執行官に推薦していただいたことに対する礼は不要だと言われたけれど、扉を壊されたのだからその通りに受け取っておこう。


 会場はアルヴァノ本部が置かれているサツェラ山脈から少し離れ、死霊樹リグルヴァの中央に位置する静寂の草原。といっても、そこまで歩くための体力はない。途中からはガラムさんの乗っていないもう片方の肩に乗り込むことにした。


 ディアは飛行魔法を使って、すいすいと進んでいった。


 静寂の草原につくと、すでに先客がいた。

 今回の第三冥帝教練に参加する、僕以外の執行官だろう。

 ひ、ふ、み、よ……合計で一六人いる――ああ、僕以外の執行官と執行官補佐官を加えてのことだろう。


 僕たちで最後だったようで、第三冥帝教練は開幕した。


「まずは自己紹介としよう。俺様の名はディートゲリンデ様だ! 第三冥府・戦火リジェールの冥帝であり、戦火規律世界の冥主でもある。此度の第三冥帝教練の主催者であり、指南者である。こちらは秘書のガラムだ。よろしく頼むぞ!」


「よろしく……おねがいします」


 ディートゲリンデ様の挨拶を筆頭に、自己紹介が始まった。


「まずは、私から始めようか。私の名前はアメリィ・レストクイニー。蒼穹総軍が第三提督だ」


「わたくしはクォル。アメリィ様にお仕えする自立型人形執事バトラーにございます」


 蒼穹総軍――第六冥帝の護衛部隊みたいな組織だったような……キリッとしている雰囲気がまさに軍人っぽい。

 燃えるような右目と深海のような左目の左右変眼オッドアイだ。


 そんな彼女の補佐官は王道執事。まとっている雰囲気が主人であるアメリィに似ていて、どこか油断できない。


「私はミシェル・アーディガン。花園の一家、アーディガン家が当主である」


「ぼくはツェイン。ミシェルのおそばにひかえる、愛玩人形ペットだよ」


 ミシェルだ! 昨日、あのあとエクス教授とはどんな話をしたのだろうか。というより、彼女の補佐官は痴女に相応しくないというか、何の穢れも持っていない純真無垢な少年、といった感じだ。


 痴女ミシェルは絶対悪影響でしかないだろう。


「……リリィ・ランジェール……服屋……」


「ワタシは、ランジェール先生に設計図デザイン通りに、ありとあらゆるモノを作りあげる唯一無二な創造人形オートクチュール、ノーウェンにございます。ワタシに作れないモノなどないっ!」


 物静かなリリィに対して、その補佐官のノーウェンは自信満々で動きがうるさい。声も。

 リリィの倍ほどの長身なノーウェンと小柄なリリィで、対比が取れている組合わせ(コンビ)だと思う。ノーウェンがかぶっている帽子はおしゃれ帽子というやつだろうか。


「稀代の賭博師ギャンブラー、セレヌ・イレーナッ! おお、ここに賽の香りがしてきたぞ! どうだ、俺と一賭けしてみないか?」


「こらこら、初対面の方に賭けを挑んではいけませんよ。教え諭すのは年長者の役目、ということなのでしょう。精神型教師人形マスターワングスタフにございます」


 明らかにやばそうなにおいがぷんぷんする。

 セレヌには近付かずにおこう。

 打って変わってというか、そのせいというのか、彼女の補佐官は気苦労が絶えない雰囲気だ。同情するよ。


「おおっ! みんなすごいなあ。わしなんて風を操るぐらいしかできないからうらやましい……ポポ・ホッシィじゃ」


「ポポ様にもよいところはございますよ。わたくしは、防御型守護人形ボディガードケイザス」


 ポポ様……何というか、語感が面白い。

 意匠が凝らされているものばかりを身に纏っていて、溢れ出んばかりのお金持ち臭をさせているところを見るに、かなりの富裕層だろう。

 補佐官の衣装もかなりの高級品だ。


「わしゅほにぺむら、しゅわのっとみるあぽーじぇ」


「”現存する唯一のスワート古語使用者 カレン・アリシアン”と申しております。どんな言葉も思いがあれば、びびっと分かっちゃう最速翻訳機トランスレイターカールと申します。以後お見知りおきを」


 スワート古語……初めて聞いた名前だが、ほんとうにあるのだろうか。

 どう見てもリリィ同様幼女にしか見えないし、でたらめではないか。

 いや、執行官に選ばれている時点でそんなことはない。ないであろう……


異形種セルチェが一人とは……まあいい。龍殺しの末裔ラスト・ドラゴンスレイヤーサーニャ・ヴォルチェフ。私にできることと言えば――そうだな、けがを治すことが出来る」


「お嬢様は不思議な気を持っておられますから、近くに蛆虫が湧いてしまうのです。それを払いのけるのが私の役目。混合獣型暗殺人形シャドウ・ビーストルータです」


 唯一の異業種ペアのサーニャとルータ。

 ヴォルチェフというのは原初の龍殺しと呼ばれる英霊の姓だ。まさかその末裔が蛇の異業種だったとは知らなかった。

 そんな彼女の補佐官は、なんと形容すれば良いのだろうか。尻尾が生えていて、顔はまるで獅子のようで、胴は太った牛のような……よくわからない。


「創造の姉、グリンと~」


「破壊の弟、シェンです~」


 よくわからないが、そういう系統の魔法が得意ということだと解釈しておこう。

 双子を模しているのか、二人の見た目は対になっていて、黒髪と白髪。赤眼と青眼。顔にいれずみのようなものが入っているのは共通していて、これもまた右側と左側に分かれている。


 そして、とうとう、僕たちの出番がやって来た。


「僕の名前はアヒム・ロトムエルです。こちらにいる第三冥帝ディートゲリンデ様の推薦で執行官になりました。よろしくおねがいします」


「当機はディアリスです。愛称はディア。完全自立型人形オートマチックであり、自己決定自由型人形フリーダムでもあります。以後、お見知りおきを」


 こうして、九人の執行官と九機の執行補佐官の自己紹介が終わった。

九人と九機は邂逅する――――――――――!!

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