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冥帝英霊神託  作者: 弌樹カリュ
序章・胎動編
12/17

10.Impact


「体がおかしくなった――? 人形として生まれて日が浅いんじゃないのか?」


「あなたのところのディアちゃんは最近生まれたばかりのようだけれど、私なんて半年も前から」


「半年も前から!? 執行官たちもか!?」


 僕の問いにレインは首を横に振る。

 エクス教授からは聞かされていなかった。ディアが一番最良の人形だとしか聞いてなかったのに……なんだか、エクス教授には色々隠されているみたいだ。


「一番最初に生まれた人形は五年前。今は廃棄されているけれど、最初の人形ファースト・フィギュアはディアちゃんの生まれ親、エクス教授が生み出したものよ」


「五年も前から……? 人形学会って昔からあったのか」


「人形学だなんて学問が冥帝様たちに目をかけてもらうようになったのには少し時間が必要だったみたいだけど。それで、最初の人形の誕生から次々と各工房で人形が生まれていった。それこそ私みたいな工房を破壊するような人形とかね」


「初めて自立型人形に接したのがディアだったから、てっきりディアが一番最初だなんて思ってたけれど、そんなことないんだな。それで君の不調ってのは?」


「私の不調ってのは――まあ、説明しても分からないだろうけど、簡単に言えば、計算ができにくくなってるのよね。どうしてかしら。あ、ここ右に行けばいいのかしら」


 レインの手を借りて、扉を開けて工房から抜け出す。

 長い廊下になっているようで、出口はまだ見えていない。

 それにしても、計算ができなくなった人形(計算機)って廃棄されたりしないよな。


「壊される、なんて考えてるのかしら? 大丈夫よ。人形に必要とする資源の八割以上は希少価値レアリティが高くて、とてもじゃないけどおいそれと廃棄できるような代物じゃないの」


「ちょっとの故障じゃ壊されない? ディアも?」


「そうね、壊されない。けれど、ディアちゃんはどうかしら。私なんかと違って効率化を図っているみたいだから、もしかしたら研究材料になっちゃったり?」


「お、恐ろしいこと言うな!」


 やっぱりこいつは苦手な性格タイプだ。

 長い長い廊下を進んでいくと、左側に分かれ道があった。その先には光が漏れている場所がある。レインと顔を見合わせると同じ考えだったようで、左に曲がり、光の漏れている場所まで向かう。

 光が漏れていたのは扉についている小窓だったようで、そこから中を見てみると暴れている――のかどうかは分からないけれど、激しく体を動かしているディアとそれを見て何かを書き込んでいるエクス教授の姿があった。


「くれぐれも、エクス教授やディアに何かすんなよ! 君がさっき言ったみたいに、吹き飛ばしでもしたら黙ってないからな」


了解ラジャー!」


 一応、扉叩ノックはしておく。


「ああ、ようやく気付いたかいアヒムくん。隣にいるのはどちら様かな?」


「えーっと、ミシェル執行官の執行官補佐、レイン・ラトルプーナだそうです。目覚めたら、第一工房おなじばしょにいたんです。コイツ、本当に人形ですか? ――って、大丈夫かよ!?」


 エクス教授にレインについて聞こうと思った途端、隣にいたレインがどさっと倒れこんでしまった。

 意識を失ってしまったようで――、

 それよりも、顔面蒼白になったかと思えば、レインの射干玉の黒髪が一気に青ざめていく。

 ――――やがて、レインの顔つきも変わってしまって、瞬く間にミシェル・アーディガンのものになってしまっていた。


「な、なんでっ!? どういうこと……!? ちょ、今まで一緒にいたのはミシェルだったのか!? え、でも……」


「アヒム執行官、落ち着いてください。当機の観察によると『元の体(ミシェルさま)』に戻っただけです。アヒム執行官が言っていたレイン様の消息は不明です」


「ディア、ありがとう。アヒム君、落ち着くんだ。色々と説明したいのは山々だが、彼女の口から聞いた方がいいだろう。話したくないこともあるだろうし。あちらに横になれる長椅子があるからディア、運んできなさい」


「了解いたしました」


 ディアとエクス教授のやり取りをみていると多少落ち着いてきた。

 頭はまだこんがらがっているけれど、今はとりあえずこの痴女――ミシェルが目覚めるのを待つしかないようだ。

 この部屋は運動能力を測定するための部屋だそうで、幾重にも魔法障壁が張られており、そう簡単には破壊できなくなっているそうだ。第一〇冥帝バチェランチェ様との件でボロボロになって、再起動したディアに不調がないかを調べていたそうだ。


「ひとまず、問題はなかったよ。まさか第一〇冥帝の方(バチェランチェさま)にディアが壊されるとは思っていなかった。ディアの核にはそれなりの硬度の障壁を置いていたのにほとんど壊されていたし、何より、ディアには防御対策が少ないという問題が浮き彫りになった。緊急事態に発覚するよりはよかったのかもしれない」


 らしい。

 ディアの能力測定をもうしばらくするようで、ガラス越しに動きを見ているだけだ。ぼーっとしている間に測定は終了していた。


「――――っ!」


 言葉にならないような息が漏れたかと思えば、長椅子で眠っていたミシェルががばっと身を大きく動かして起き上がった。

 ミシェルの上にかけてあった毛布が床に落ちる。

 ここがどこだかわかっていないようなので、落ち着かせるために声をかける。


「ここはエクス教授の実験室のひとつ(?)らしい。さっきまで、君の相棒にんぎょうを自称するレイン・ラトルプーナって奴と一緒に行動していたんだけれど、ここに来た途端そいつが倒れたかと思うと、


()()、あいつが出てきたのね……」


 言葉を遮られたが、ミシェルは憔悴しているようで、どんな言葉をかければいいのか分からず、口を噤んでしまった。

 一瞬の静寂が訪れる。

 またってどういうことだ? 彼女の――ミシェルの体の中に、他の人間が、もしくは人形が入っているなんてこと有り得るのか? 二重人格とは違うよな。二重人格はあくまでも性格と記憶が変わる程度。見た目が変わるなんて聞いたことない。

 ここは、秩序に守られた第三冥帝の冥府ではないと分かっているけれど、冥府ばしょが違うだけでそんなにも変わるのだろうか。


「またということは、これまでにもレイン・ラトルプーナが()()()()()ことがあったのかい?」


「はい。私が把握している限りではこれが三度目。何が何なのか分からなくて……私の相棒を作ったベーグ博士にも色々と話を聞いているんですが、原因は解明できていません。彼女レインが何者で、何をしようとしているのかも」


「……今、ベーグ博士って言った?」


「何か知っていることがあるの!?」


 痴女の見た目は相変わらずだけれど、その眼差しは真剣そのものだ。それもそうか。気付いたら自分の体が乗っ取られていて、記憶のない行動を取っていた、なんて分かったらどうしてか理由も知りたくなる。

 覚えている分のレインとの会話を話してみると、ミシェル以上にエクス教授が考え出して、ディアと顔を見合す。

 僕がどういう気持ちなのかは分かっていないのか、にこりと笑みを返されるだけだ。


「これはあくまでも仮説だとして考えてほしいのだが、君の体の中に人形が埋め込まれていると考えることはできないだろうか」


「埋め込まれている?」


 ミシェルと僕の声が重なる。


「ああ。人形学という学問は非常に面白くて、それでいて繊細でね。何年も研究している身だけれど、いまだに分からないことだらけだ」


 エクス教授は、人形が自立して動けている理由を説明してくれた。

 あらましはこうだ。

 まず、人形には『核』と呼ばれる部分が存在していて、これは人間の『心』にあたるような機能を持っているそうだ。もっとも、心などの感情だけでなく、記憶の保存や情報の照会なども行うので、電子脳と心の融合のようなものだ。

『核』の情報を決めたら、次はその『核』に見合うガワ――つまり体を作らなければならない。

 けれど、人形は繊細だ。『核』もそれだけ繊細で、情報を詰め込めれば詰め込んだ分だけ、機能が増えれば増える分だけ、体に求められる『強度』は上がっていく。

 ヤワな体に『核』をいれれば、『核』に情報を詰め込むために必要な膨大な魔力エネルギィが溢れ、体の破壊だけでなく、下手したら『核』すらも崩壊してしまうそうだ。

 そして、これまでの何十、何百もの人形学会の研究者たちの研究の結果分かったのは、冥府人にんげんが最も体としての強度が上であるということ。

 つまり、『核』に見合う体は人間の体そのものだということだ。

 人間に埋め込むことが出来れば、それは史上最高の傑作にんぎょうが生まれるとはもっぱら、研究者たちの間で噂された。そしてそれは計算上、事実だと判明した。


「騒然としたよ。ヒトの代わりが――ヒトになりうる人形に相応しいのがヒトだったとは、何というか……学会はすぐに人間を使った研究を禁止した。破った者には厳罰が下される。だから研究者たちは人間よりももっと上の体を作るために日夜、研究を続けている。だが、だが……」


 エクス教授は怒っていた。

 そしてそれが、ミシェルの中に人形の『核』が埋め込まれている、ということを現実のものとして認めているようで、自分のことじゃないのに、胸が痛い。


「いくらあいつとはいえ、ここまでのことをするなど……原因解明の一助を担ってもよいだろうか。乗っ取られる、なんてことはないはずだが、万が一にもなんてことがあったらたまらない」


「まさか……ベーグ博士が……」


 ミシェルは呆然としていた。

 出会いがしらの威勢のいい痴女のかけらもなくなっていた。

 ディアの能力測定は終了し、ミシェルとエクス教授は話があるということで、僕とディアは帰るように促されて、外に出た。

 風が冷たくて、胸が苦しかった。


「当機には、よしよし機能がついていますが、起動しますか?」


「……いいよ」


「了解しました」


 断ったはずなのに、ディアはよしよししてくれる。

 なんだかそれが情けなくて、でもあったかくて、ミシェルのために何かできることを探そうと決心した。




 翌朝。

 いつも通りの時間に起き、かたづけをしていると玄関の方からどたどたと大きな足音がして、我が家の目の前でとまった。かと思うと――――――、


「おはよう、アヒム! 良い朝だな!」


 扉が開いて――ではなく、扉()()()空いて、巨漢が姿を表した。

 ……そのでかさのあまり、部屋の中から顔は見えていないけれど。

現れた巨漢、いったい何者――――――!?

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