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冥帝英霊神託  作者: 弌樹カリュ
序章・胎動編
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08 ミシェル

「それでは失礼いたします。このような状況ですから、退室の礼をできない非礼をお詫びいたします。本日はお招きいただきありがとうございました。また、時が交わる日まで」


「ええ、出会いの時が交わる日まで。今度はこちらから茶会の招待状を出しておくわ。ディアの修復にかかった費用は全て第十冥帝バチェランチェがお支払いしますから、請求書をアタシ宛てに持ってきてくれれば助かるわ」



 バチェランチェ様に言われるがまま、ディアを背負って部屋を出ていく。


 そう言えば、最後の最期までバチェランチェ様の塔で働く使用人の姿を見なかったけれど、バチェランチェ様は普段の生活はどうされているのだろうか。


 ディアを壊された怒りは冷え切っていた。


 いや、怒り自体はあるのだが、お姉さまの人格ではないバチェランチェ様に怒ったところでお門違いもはなはだしい。


 もし可能性があったのなら止めてくれても、と思ったりはするが、ディアが許すと言ったのだ僕から何か言えることはない。



「アヒム執行官。博士の場所まで早く……、連れて行ってください。当機はもう、余力がありません。アヒム執行官に無理を敷いてしまい、申し訳ありません。お怪我はありませんか?」


「そんなことどうでもいいから。僕にはかすり傷一つついていないよ。それよりも、ディアが傷ついたことのほうが辛い……」


「アヒム執行官、当機の心配には及びません。当機は自立型人形。人間であられるアヒム執行官と違って、補充や修理することが可能なのです。ああ、こちらはアンドロイド・ジョークなどではありません、事実ですよ」


「そんなの分かってるよ」



 何度もできてきたアンドロイドジョークについつい、頬を緩ませてしまう。


 いつもより明らかに軽くなったディアを博士の研究室まで連れて行くと、博士は嬉々としてディアの修理に取り掛かってくれるようだった。


 気付かれもあったのか、ディアの修理完成を待たないまま、僕は眠りについていた。





「――――うわっ、ディア!」



 いけない。

 悪夢を見ていたようだ。


 しかし、それがどんなものだったのか思い出せなくて、痛む体をさすりながら視界を開く。


 ああ、そうだった。ディアの修理のために博士の研究室にお邪魔していたのだ。


 あちこちに書類が散らばっていて、机の上には空き缶が散乱している。



「まじで研究者気質にもほどがあるでしょ……」



 散らばっている書類を四でもいいのかは分からないが、気になるのが人のサガというもの。


 博士には承諾もとらずに――――



「ディアも博士もどこにいったんだ? いつもならベッドの上にいるはずなのに……」



 ディアを連れてきて、嬉々として博士が修理しようとしてくれて……ああ、だめだ。


 それ以上思い出せない。


 ぬおおおおおおおおおお。頑張って僕、思い出せ!



「いや、そんなに頭掻きむしったところで問題解決するわけがないでしょ。面白い人間だと博士とバディから聞いてはいたけど、予想以上ね」


「誰だ」


「そんなに一瞬で険しい顔にならなくてもいいじゃない! この超絶美少女執行官のミシェル・アーディガンが話しかけている、っていうのに! ほら、眉間にしわを寄せないの」



 でも本当に誰なんだよおまえ。


 執行官と名乗ったと言うことは、俺と同じ職業についているってことか――?


 ……この見た目で?


 中身が見えてしまうのではないか、というほどに短いスカートに全身にある水玉模様の場所がくりぬかれるように、体のあちこちを露出している。


 執行官と説明されるよりも痴女です。

 そう説明されるほうが納得がいく見た目をしている。


 そして何よりも。



「その人形バディってのはどこにいんだよ。執行官一人には絶対に人形がつくって話だろ? 人形もそばにいないくせに執行官を名乗るなんてな――」


「何言ってんのよ。アンタも同じでしょ」


「ぬああああ。忘れていた。はっ! ディアはどこにいったんだ? 博士は!? オマエ、ええっとカエルって言ったけ、知らねえか?」


「カエルじゃない、ミシェルよ! ミシェル・アーディガン! 知るわけないでしょ! ってか、アーディガンの名前に覚えないの!?」


「ふーん、こいつも知らないとなれば……」



 自称執行官の痴女ミシェルは、僕の傍でぶつくさ話しかけてくるがそんなものは無視して、ディアたちがどこにいるのかを確認するために部屋を出る。


 じーっ。


 視線を感じる。

 後ろを振り返ると、痴女ミシェルが私も連れて行ってほしいと言わんばかりの表情でこちらを見ている。


 仕方がない。連れて行ってやるか。



「別についてきてもいいけど、厄介事だけには巻き込むなよ。ただでさえ派手な滑降してんだ。問題は起こすなよ」



 水色の髪にピンクの目なんて、私ことが目立つ人間です! と言っているようなものだ。



「らじゃー!」



 ミシェルの軽快な掛け声に合わせて、二人を探す旅が始まった――。



「なんでついてきたんだよ? オマエの人形を探すため?」


「うーん、それもあるんだけど、ここがどこか全然分からなくて……ああ、君が博士って言ってたし、部屋は汚いし、実験結果みたいなものとか道具が散らばっているから研究室ってことは分かるんだけどねー。記憶もうっすらあるし」


「ここは自立型人形を制作した博士張本人の研究室。部外者は立ち入れないことになっているはずだけどな。まあ、オマエの言葉が正しいならオマエは執行官だし、別に大丈夫か」



 次の部屋に行こう。

 そう言って、廊下を進んでいくがミシェルの足音が止まる。



「執行官? 何のこと? 私、私が執行官だなんてこと言ったっけ?」


「何の冗談を――」



 目を見張った。

 後ろを振り返ればそこにいたのは水色の髪とピンクの瞳の痴女ではなく、透き通る絹肌の少女だったから。

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