幼馴染の二度目の快挙
またしても和希はやります!
8話です
「暑い……」
「ほんと、暑いよね~っ」
もう7月になると日射しが強くなり、昼から夜中にかけて厳しい暑さの日が始まる。
そして朝の登校時間だけは和希と一緒に過ごすようになる。僕をもう遅刻させまいという幼馴染の配慮からだ。そして一緒に登校するようになってからもう1週間ほど経つ。
うちの学校の生徒が周りにいないか、きょろきょろと気にしながら最寄りの駅に向かう。
「それでね~、…………話聞いてる?」
「……え? うん。聞いてる聞いてる」
「なんか周りをきょろきょろと見てない? 気のせい?」
「え? あっ…………今回の美術で描く画の風景を考えているんだよ」
「あー優君、美術得意だもんねっ。私書道を履修したから全然分からないやーっ」
「けど和希は字も綺麗だから、合ってるんじゃないの?」
「え? 字“も”?」
「……あっ」
「……他に私の綺麗なところって?」
「え…………うん、まぁ……髪とか表情…とか?」
「…もう……優君たらっ」
「……」
僕は恥ずかしさのあまり横一文字に口を閉じてしまった。美術の画で美少女のモチーフを和希にしてから変に意識してしまう。
いつからだろうか。和希のことをこんなにも好きになったのは。分からないが、多分徐々に徐々になんだろう。こいつが高校に入って変わってから彼女に対する僕の気持ちも変わり始めたのかもしれない。
けどその一方で変わらないものもやっぱりあるようだ。やはり和希と一緒にいる時の心地よさだ。二人だけの時間、二人だけの空間を過ごしている時のそれは小さいころから変わらない気持ちだ。
「実力テストの点数どうだった?」
「なんとか母さんからの制裁はまぬがれたよ」
「そう、お小遣い減らずに済んだのね」
「お前のお陰で助かったよ」
「いえいえどう致しまして~~」
「それより期末がもうすぐじゃないかっ! まったくテストテストと続いて辟易するぜ! 学校は鬼か悪魔かっ!?」
「学校の本分は勉強だから仕方ないわね」
「それはそうだが……」
「今回の期末テストの勉強で分からないことがあれば、また私に声をかければ良いことよっ」
「え? あぁ、まあな……」
なにやらとても幸せそうな幼馴染を傍目に見ながら少し複雑な気持ちになる僕があった。
「おーい、天野見に行こうぜっ」
「何を?」
「実力テストの番数だよっ、番数っ」
うちの学校では実力テストだと50番までの順位が貼り出されるようだ。
「この学校の新顔で俺にとっての女神様の水野さんの名前はどこかな~っ」
相変わらず吞気な井内がはしゃぎながらそう言う。入学式で成績優秀者に選ばれたほどの和希だ。今回も校内の上位にいることだろう。
(そしていつの間にやら井内の女神になっている……それを知ったら和希はどんな顔をするだろうか? それより和希の名は、えーと和希はと……おっ、合っ……た……)
和希は校内の実力テストでも一位を獲得したようだ。二位との点数差は12点の点差があった。今回は学年一位だがそれでも大したものだった。
「おい、天野見てみろよっ。俺の女神の水野さんが学年一位だぞっ」
「あぁ…………、そうだな」
「流石は水野さんっ。テストも美少女だなぁ」
「……」
何もかもが美少女になっていく和希。学校のアイドルと化していく幼馴染を傍目にどんどんモブになる自分を感じてしまった。
向こうの廊下の方で上級生だろうか、少しざわざわと声が聞こえてくる。
「いつも1位の川神さんが今回まさかの2位なんて」
「珍しいこともあるもんだなっ」
「なんだ何かあったのか?」
僕はなんとなくこういうことだと情報通な気がする井内に訊く。
「なんか三年の川神先輩の成績が芳しくなかったようだ」
「ふーん、そうか……」
世代交代かと誰かが囁いていたが、どうでもいい。僕は順位表を横目に見ながら、井内を置いて先にクラスへと戻って行った。
それから数日経ったある日のこと学校終わりの下駄箱で、
「あの良いかしら?」
「はい?」
僕に声をかけた彼女はとても綺麗な女子生徒だった。背中まで伸びた黒髪にすらっとした体形で出るところはちゃんと出ている美人さんだった。リボンの色からどうやら3年生らしい。
「私は川神洋子って言うの。宜しくね、優君」
ん? どなた?
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