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遅刻

日本では遅刻すると大変です


7話です

「な……なんとか乗り切れた……」


 二日間の実力テストを終えて、その日の僕は勉強の疲れを癒すために好きな本を深夜まで読み過ごした。


「優君……優君」

「誰?」

「遊ぼ……優君」

「ここは……」


 家の近くの公園とは少し違っているが、そこは何となく懐かしさ溢れる公園だった。僕は優君と呼んでいるその少女とそこにいる。


「遊ぼうか……、……ちゃん」

「うん、遊ぼー……」


 途切れ途切れの言葉をかけあいながら、僕達はこの公園で遊ぶ。ブランコ、滑り台、砂場とその公園には遊具が結構揃っており、色んな遊具で彼女と一緒に楽しんだ。


「じゃあロミオとジュリエットごっこね……」

「うん、良いよー……」


 彼女は滑り台の一番頂上に立って、僕は公園の芝生に立つ。


「オー、ロミオ。貴方はどうしてロミオなのー……」

「オー、ジュリエット……」


 そしてしばらく僕達はかなりおぼろげな記憶でのごっこ遊びを楽しんだ。それを終えた後は一緒に話をする。


「……結局ロミオとジュリエットは結ばれないんだよね……」

「不思議よねーっ。どうしてなんだろう?」

「ジュリエットがロミオより高いところにいるからじゃないかな?」

「まったく大人は頭が固いわっ。もしそうなら簡単な方法があるわっ」

「え?」

「そんなの私がこうやって降りて、優君に近づいたら良いだけじゃない」

「なるほどっ! うんうん、確かにそうだねっ!」

「簡単でしょっ!」

「うん、そうだねっ!」

「とりあえず私が優君の近くに行けば良いのよっ」

「僕もその時は精一杯手を伸ばすよっ」

「もう優君ったらっ。大好きーっ」

「僕もだよっ、和……」


 …………


「……君!」

「和……」

「優君ってばっ!」

「ほえ?」

「ほえ? じゃないわよっ! 遅刻よっ遅刻っ!」

「………………へ?」

「あと次の電車が来るまで10分もないわっ!」

「…え!? ……今何時?」

「もう9時前よ!」

「え!?」


 僕は急いで時間を見ると、もう8:57を回っていた。

 やばいやばい。完全に遅刻だっ!


「急いでっ」

「お、おうっ……って何で和希が僕の部屋に?」

「なに言ってるの? 遅刻防止の為の合鍵を貰っているじゃない。優君のご両親共働きだから、中二の時から私の任務じゃない」

「そうだった。久しぶり過ぎて忘れてた」

「もう、下で待っているから。とりあえず早く着替えて」


 服を着替え終えた僕はどたどたと階段を降り、和希と急いで電車へと向かう。


「しかしなんで和希がうちに来てたんだ?」

「駅に着いた時、優君を見かけなかったから胸騒ぎがしたの」

「ま、まさかっ、わざわざ戻って来たのか!?」

「そうよ!?」

「そんな……。わざわざ遅刻しなくて良かったのに……。お前ずっと皆勤賞じゃなかったのか?」

「何言ってるの? 皆勤賞よりも幼馴染を助けることが何よりも大切なことよ!」


 和希……お前ってやつは……。それに引き換え僕はなんだ? 同じ幼馴染とは思えないほどの体たらくぶりじゃないか……!


「和希……」

「何?」

「ありがと……」

「なに言ってるの? 当たり前よっ」

「和希……」

「どうしたの……」

「息切れしそう…………」

「ちょっとっ! 頑張ってっ! あと200mよ!?」

「…………あい」


 流石は運動部……体力あるな……。

 そしてなんとかその予定した電車には間に合った。和希は少し汗をかくだけですんだが、僕はぜいぜいと息切れして今にも死にそうな状態になった。


「大丈夫、優君?」

「だ…………大丈夫…………」

「もう私がいないと優君は本当に駄目ね~っ」

「……うん」

「もうっ、和希離れが出来ないんだからっ」

「…………うん」


 僕は疲れて色々と暗くなってしまったのと引き換えに彼女はなにやらやたらと嬉しそうだ。


「そうだっ。次からは遅刻しないようにまた一緒に登校する? うん?」

「……それは」


 彼女は優しく微笑みながら僕に問いかける。果たして僕にその資格があるのだろうか。分からない、分からないけど……和希のこの優しさを無下にしたら最悪だってのは分かる。いやそれより本当は僕も……、


「……じゃ……じゃあさ、向こう駅に着くまでなら一緒に登校しようか」


 結局着いたのは9:30を過ぎていた。そして昼休みになる時には和希が遅刻したことについてもうほとんど校内の中に広がっていた。


「聞いたか? あの水野さんが遅刻をしたらしい」

「あぁ……そうらしいな……」

「それに噂によると一緒に遅れてきた男子もいるらしい」

「ほ、ほう……」

「水野さんと一緒に遅刻出来るとは……羨ましい……。噂によると彼氏という噂もある」

「へ、へぇ……それで相手の素性は?」

「分からん。ただよく似た時間に登校したというだけだ」


 その程度のことなら僕と和希が幼馴染だと断定される心配もない。もし仮にバレてもしたら、和希の評判がかなりガタ落ちになりかねん! 気をつけねば、気をつけねば。


「そう言えばお前も遅刻したな……」

「(ドキッ)け、けど和……水野さんは9:32で僕は9:37だ。5分の差があるのに一緒に遅刻したとは言わんのじゃないかっ!?」

「確かになっ。じゃあ他人のそら似かーー、それなら良かった! わっはっは!」


 良かった~。とりあえずバレてないっ。友人にもバレてないんだ。恐らく他の生徒も大丈夫だろう……。

 しかし僕の今回の遅刻によって運命が大きく動くことになるとは、この時の僕にはまだ知るよしもなかった。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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