一位達成
実力テストの前にも他のことが気になる優と井内
6話です
「くっそ~、2だったかっ」
「ふはははっ、二次関数の認識がまだまだ甘いなーっ、天野君!」
テスト二日前にこんな吞気で良いのかと思うほどのゆったりした気持ちだった。
僕は放課後になりクラスに残って井内と問題の出し合いをしていた。
「よしっ、次は僕からだそう」
「あっ、ちょっと待て」
「なんだ? テスト勉強中にスマホをいじるとはなんたる不届き者め」
「二次関数の範囲を間違えるやつに言われたくねぇ」
「ぐぬっ……。これは一本取られた」
まだ解けない問題があるとはいえ僕はテスト勉強期間が始まってまったく勉強をしなかった訳ではない。実は2日間ほど和希に勉強をみっちりと教わったのだ。それは和希の助言があったからだ。日にちは3日前の夜に遡る。
『優君、テスト勉強の調子どう?』
『どうした藪から棒に?』
『いやいや全然藪から棒じゃないわよっ。テストも近いんだから』
『まあまあかな?』
『どれくらい進んでるの?』
『えとーっ、数Aは例題3まで行った』
『えーー!? 全然勉強出来てないじゃない!!』
『そうかな?』
『それに優君、困っていることになっているんじゃない?』
『なぜそれを?』
『やっぱりー、そうだと思った! ちょっと待ってね』
何だろうと思い、スマホ画面をずっと眺めていると突然着信音が鳴る。和希からの電話だった。
「も、もしもし?」
『あ、もしもし優君。私から提案があります』
「はい、何でしょう?」
『テスト始まるまで一緒に勉強しましょう』
「え?」
『そうすれば成績はある程度戻ると思うから』
「え? でも……」
『四の五の言わないっ! 一緒にするの、しないの!?』
「え? ……うんする」
『もう。ほんと、優君は私がいないと駄目なんだから~』
彼女はやたら嬉しそうな声がスマホのスピーカーのところから聞こえてくる。そしてそれからこの二日間はみっちり和希に勉強を教わったのだ。だから多少は解けるようになった。
「あったあった、これだ」
「ん?」
「お、やっぱり凄いことになってるなっ!」
「なんだなんだ、何が起きている?」
「これを見てみろよっ」
「ん?」
井内が開いたスマホ画面をこっちに見せてくる。
『北高生、非公式美少女コンテスト』なんだこれ?
「何これ?」
「お前SNSやってないから知らんと思ったから見せてやったんだが、大体文化祭になると学校で美少女コンテストみたいなのがあるだろ? そっちが公式ならこっちは個人の誰かがネットでやっているから非公式なんだ」
「それって大丈夫なのか?」
「何でも数年前からやっている行事らしい」
「なるほど?」
「それで北高生なら誰でも一票を投稿出来るんだ」
「ほうほう、それでお前は誰にしたんだ?」
「決まっておろう。1年のホープ水野さんだよ」
「なるほど? それは愚問だったな」
「まったくこれだから二次関数の範囲を間違えるんだぞ?」
「あっ、やかましいっ」
とはいえやはり幼馴染として和希が入っているのかどうか気になる。隠れ美少女から校内指折りの美少女にジョブチェンジしてからもう2ヶ月以上が経つ。周りからの注目度は高いとはいえ、まだまだ新顔だ。やはりまだ難しいだろうな~。
「で、お前が投票した1年ホープの水野さんはどれくらいの順位だ?」
「だから言ったろう? 凄いことになってるって。ちゃんと目をかっぽじって画面の文字を見てみろよ」
「ん? なになに……」
第19回 北高生美少女コンテスト
今回の上位に選ばれたのはこの5人
5位 梅宮香織 2年生
4位 紺野美保 3年生
3位 雨宮京子 2年生
2位 川神洋子 3年生
1位 水野和希 1年生
え? え? え?
僕は目をごしごし擦ってもう一度見ても、僕の幼馴染が一位を獲得していた。
「ななななななななんで…………」
「驚くのも無理はない。3回連続で一位だった川神先輩を抑えての一番だからな」
「……」
「流石に俺も驚いたよ。あの校内不動の一位だった川神先輩を下したんだからなっ」
「……」
僕はまったく言葉が出なかった。
和希が一位?? まじで?
「これってつまり……和希が学校一位ってこと?」
「そうそう、そういうことになるなっ。彼女は学年一位はおろか学校一になったということだ」
なんということだ。僕の幼馴染が県内一位どころか全国一位…………いや間違えた、学年一位だった。いやいやそれでも凄いことだ。周りからちゃんと評価されているということだから幼馴染として誇らしいほどだ。しかし同時にその順位を素直に喜べない。なんか僕とは違う場所にいるみたいだ。
「遠い場所に行ってしまったな……」
「? 何のことだ?」
「いや、こっちの話だ」
「とにかく今回はお祝いだ。一緒に飲もうぜっ」
「そうだな……。飲もう……やけ酒だ」
「おいおいっ。なんで祝いにやけ酒なんだ。それとジュースで我慢しろよっ」
非公式だろうがたんだろうがこれで全校生徒が認めることになった。僕の幼馴染が学校一の美少女に転向してしまったことを。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
ブックマーク、評価を頂けると励みになります。