相合い傘
雨が降るけど二人は傘を持ってません
4話です
揺れている電車の窓から僕は陰気な色をしている曇り空を眺める。総体を終えてしばらく経った6月下旬もう一つの学生の本分である校内の実力テストが始まる。
「実力テスト……面倒くさいな~……」
正直実力テストなんてのは特進コースに入りたいやつが真剣にするものだ。成績底辺クラスの僕にはあまり関係のない話だ。
「まぁ、ほどほどの点数は取らないとなっ」
ほとんどの部活は総体を終えて3年生は引退したので、1、2年の生徒のみになる。そのままいけば和希は女子テニス部のレギュラーになるかもしれない。
女子テニス部と言えば総体は良い成績を残せなかったそうだ。和希がいるからかすぐにそういう話が僕のクラスのところまで届いた。
話をテストに戻すが、今回のテストほどほどとは言え、実はそれなりの点数を要求されている。なぜならこの前の中間テストが低くて、親から今回悪かったら小遣いの減額をすると断言されているのだ。
「はぁ~、困ったな~っ」
相変わらず外は嫌な曇り空が広がっていた。実は中学まで成績はそこそこ良かったのだ。だから県内の進学校に行けたのだが、それは何を隠そう和希のお陰なのだ。
和希と一緒にテスト勉強をして、色々教えてくれたり叱咤激励してもらって成績を維持し続けていた。それが高校に入ると和希と距離が出来て、テスト勉強をサボってしまい赤点ぎりぎりの点数を取ってしまったのだ。
僕はあいつがいないとここまでテストが悪いのかと少しショックだった。しかし今回も和希に頼れない。どうにかしないと。
「あっ、そういえば今週の『ヤングリトル』読んでなかったなーっ」
そう思うといても立ってもいられず、早く電車が駅に着かないか今か今かと急に焦りが来た。そして急いで駅を降り最寄りのコンビニに立ち寄り、雑誌のある本棚へ向かった。すると横顔だけで可愛らしいと判別出来る程の美少女が先にそこで漫画雑誌を読んでいた。
「……和希?」
「……え? 優君?」
「……お前も雑誌読みに来たのか?」
「そうそう。まだ今週の『ヤングリトル』を読んでなかったから」
僕はふっと頬が緩まり笑ってしまう。
「お前もか」
「え? 優君も?」
そして僕も和希と一緒にまだ本棚に置いてある『ヤングリトル』を熟読する。
「あー、やっぱり今週の『海のキング』も面白いね」
「だなっ」
僕達は駅の中にあるその最寄りのコンビニから出ると、既にざーざーと雨が降っていた。
「雨……」
「あー、確かにさっきまで雲行き怪しかったからな。あいたーっ、傘持ってきてないや」
どうやら和希も傘を持ってきてなかったようで、お互いに立ち尽くしてしまった。少なくともこいつを濡れされる訳にはいかないと思って、僕はもう一度コンビニへと向かう。
「和希ちょっと待ってろっ」
「?」
そしてあるものを手渡した。
「え? 傘買ってきてくれたの?」
「安物だけどなっ。これで和希は濡れなくてすむだろ」
「ありがとう……」
「じゃ、僕はさっさと帰るから。またな」
「え? 優君はどうするの?」
「これぐらいの雨なんて世話ないよ。じゃあな」
「あっ、待ってっ」
「…どうした?」
「…………あのさ」
「?」
どうしてこうなった?
和希の提案でなぜか安物の一つの傘で一緒に帰ることになった。
これってつまり相合い傘……。
「ねぇ、優君」
「はひっ?!」
「ど、どうしたの??」
「あ、いや何でもない……」
落ち着け……。何を緊張しているんだ。相手は幼馴染だぞ。落ち着け、冷静に。
「どうした?」
「最近、学校生活はどう?」
「至って普通だけど、可もなく不可もない感じ……」
「友達は出来た?」
「出来た出来たっ。そいつがさーっ、また幼馴染願望(美少女限定)が凄くてさ~」
「ふーん、そっかそっか~っ」
何だろう。いつもより返事に気持ちが籠もってないような気がする。僕と会話が楽しくないのかな? も、もしかして好きな男が出来て、その相談を僕にうち明けようとするのかな?
「優君」
「はひっ?!」
「さっきから優君変だよっ。どうしたの?」
「ご、ごめんっ。さっきから喉の調子が。うー、おほんっ! 大丈夫、続けて」
「どういう女子が好みなの?」
「え?」
えーーっ!? どういう質問!!? 何を試されている? どう答えれば良い? 微笑みながらこっちをちらちらと見てくるしっ。
「……優しくて包容力のある女子……かな?」
「ふーん、そう」
なんの質問だったんだーーっ!!? それ以上返事も返ってこないしっ!?
僕はしばらくその不確実極まりない問題の解答を考える。
「…あ、もう家見えたから帰るね。送ってくれてありがとう~」
「あっ、後っ……お前みたいな可愛いやつ……っ」
「え?」
「あっ……」
仕舞ったーーっ。なに恥ずかしいことを言っとるんだ~~~~っ!!!
「あ、ぃやっ、ごめん、今の無しっ!」
「私、可愛くなった?」
「え……?」
綺麗で真面目な眼差しをこちらにじっと向けてくる。僕は恥ずかしさのあまり目を背けてしどろもどろになったけれど、
「あ、あぁ……可愛くなっ…なりましたっ」
「…………えへへっ、ありがとう。優君♡」
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