No.2「被検体 夏木仁」
「で、何がやりたいんだ」
悟が窘める様な言い方で仁に尋ねる。
仁は間髪入れずハッキリと言う。
「犬鳴研究所をハッキング」
「却下ね」
知穂が確固たる意志を持ち強く言う。仁もそう言われることは想定済みのように肩を窄める。
誰もが喋らず、空調の音だけが研究室に鳴る。
「あのー」
重苦しい沈黙を破ったのは仁のスマホだった。
「このAI普通に喋るよな」
悟がさっきまでのことは無かったかのように普通を装う。
「どーも、それより約束守ってよ仁」
「約束?」
これまで黙って固唾を呑んでいた雫が、のっそりとスマホに迫る。
「そっ、名前くれるって言ったから」
「あ、あーそう、名前ね」
約束の内容が仁にとって無害と知るや否や拍子抜けしたように、安堵した様に椅子に力なく座る。
「……AIに嫉妬しない」
知穂が苦笑いしながら雫を窘める。ただ、窘めるだけではなく頭を撫でて落ち着かせる。
「仁、ハッキングは無理だが後で教授に話してみよう。このAIの事も少しは知れるかもしれん」
悟は難しい顔をして溜息をつき、仁に妥協案を提案する。
「じゃ、放課後ッスね」
仁は最初っからその落とし所を狙っていたかのように承諾する。
「それまでに、この子の名前考えようか」
悟は努めて明るく言う。
「……ジンツー」
雫は無表情でポツリと呟く。
「ポケモンじゃないんだから」
知穂は呆れながらツッコンだ。